第4話 最後の再会

 晴れてフェンリルの子分にされたので、直ぐにクエストとは行かず、俺たちは大金を持ち街へ出ていた。



 「まずは武器屋に行こうか」



 「勝手に行先を決めるな!早くクエストに行こう!」



 「待てよ、俺は弱いんだ。装備を完璧にそろえてからにしないと」



 「おい、私の言うことを聞けユウキ!ユウキは私の子分なの!」



 「はいはい、ちょっと待ってて」



 「私をたしなめるなー!」



 そんな会話を続けている内に武器屋の目の前についた。この町、首都エルサレムの地図は昨日、カジノからの帰る途中にフェンリルに連れられて、ひたすらショッピングにつきあった時に頭に入れている。Aクラスの勇者のフェンリルと一緒にいればどこにでも出かけられるので、探索にはうってつけだ。



 ここは首都というだけあり優秀な勇者も多いが、その中でもフェンリルは別格だったらしい。あとから聞いた話だが、なんでもフェンリルはタナハの中でも5本の指には入るという。しかもこの5人は同等の力を持っていて、職業や種族もバラバラでじゃんけんの様な間柄だ。三つ巴ではなく五つ巴になりタナハはこの五人で均衡を保っている。



 その他の勇者は、この五人の下についている。その中でもフェンリルとモーセは配下はや子分を持っていなくても他と同等の戦力として数えられていた。昨日までは。



 「おいユウキ、何をボーっとしている?」



 「えっ。ああ、ごめん」



 「早く買ってきてよ。クエストに早く行きたいから」



 「いや、クエストはまた今度にしたいんだけど」



 その瞬間、フェンリルはギラっと目を光らせる。その殺気を察知し、逃げる様に武器屋の中に入った。



 フェンリルはカジノの事があるから外で待機してもらう事にした。フェンリルは納得してない様だったが、過去の事は話したくないそうで、そのことに追及しようとすると、はぐらかす様に承諾してくれた。



 そんな事より、武器屋の内装はかなり刺激的だ。壁一面に大小さまざまな剣が立て掛けられている。他にも、斧や槍に杖、拳銃までも部屋いっぱいに並べられていた。これは男として夢のような場所だ。この世界に来てよかったと思った事は今まで無かったが、ここだけは素直にうれしい。本物の武器に囲まれるのは、この世界でしか味わえないものだ。



 「おい、兄ちゃん。何かお探しかい?」



 武器に夢中になっていた俺に店の店主だと思われる、タンクトップに皮のズボンで、筋骨隆々な男が話しかけてきた。



 「ああ、悪い。ちょっと武器が欲しくてな」



 「それなら、まずステータスカードを見せてみな!」



 「カード?」



 首を傾げる。



 「ああ、その首輪だと兄ちゃんは勇者だろう。ギルドに登録するときにもらうはずだろ?」



 「あれか!ちょっと待ってて!」



 急いで身体のあちこちを手で探り、ズボンの右ポケットからカードを出し、店主に差し出した。



 「ぷっ、はははははは!なんだ、このステータス!」



 ステータスカードを見るや否や、腹を抱え腸がよじれる程お笑いしている。



 「おい、そんなに笑ってんじゃねーよ。失礼だろ!」



 「すまん、悪いな。こんなステータスはじめて見たから。衝撃的で!」



 なんなんだ、この店は。お客様をバカにした様な態度を取って、こんな接客で潰れないのが不思議だ。



 不服そうな態度、腕を組み右足で貧乏ゆすりを始めたユウキに店主は、なだめるが顔はまだ口角が上がっており、ニヤニヤしている。



 「お客さん、そんな怒らないでくださいよ。そうだ、私はその人に合う武器の見立てもやってましてね。普段は有料でやってますが、今回はサービスしますよ」



 「それはありがたいな。お願いするよ」



 「へへっ。了解です!」



 店主は深々と頭を下げる。



 「はじめますぜ。ユウキさんの場合、戦闘に必要なステータスの魔力、体力、攻撃力、防御力の全てが1ですから通常の武器は向いてないと思いますね」



 「できれば、遠距離の攻撃できる武器とかが欲しいんだけど」



 「というより、それ以外の選択肢がないな。刀剣などの近距離の武器は体力がないから、不利になるし、魔法が使えないので杖などは無理。となると銃や弓がまだ、マシだと思いますぜ」



 店主はそう言い、大量の銃が置かれてる方にユウキを案内した。



 自分でも本当にその通りとは思うのだが、「まだマシ」とか引っかかるな。別に銃の方が向いているというわけではなく、それ以外では戦う事すら出来ないと言われてるのと同義だ。



 「あの言葉を選んでくれない?失礼なんだけど」



 「すまんな。俺は元勇者なんだ、タナハ出身だな。」



 「・・・・自由になれるのか?」



 驚くユウキに対し平然と答える。



 「ああ、クエストの達成を千以上で、高く貢献したと判断された者に限り、解放される事が許されているんですぜ」



 なるほど、買値よりも大幅にギルドへの売り上げに貢献した人が得られる権利か。それにより、勇者達に希望を持たせる事によって、自殺防止と自ら進んで貢献する様になるって事か。



 こんな過酷な環境で、自殺が異常に少ないのは気になっていたが、こういうカラクリか。てっきりギルド内にある、一種のヒエラルキーのおかげで自殺がないのだと勘違いしていた。しかも、フェンリルやモーセなどの高すぎる戦闘力を持った天才達には、高待遇を与えギルドから離れない様にし、ギルド側に置いておく事で反乱が起きない様に、仮に起きたとしても迅速に鎮圧できるようになっている。



 よく出来てるな。まるで国の縮図の様だ。上位の者は下位の者を見て優越感に浸れる、下位の者は上位になれるのを夢に見て生きる。そして、下位の者は死ぬ確率も高いので不満も持てない。現代日本も全く同じだったな。結局はヒエラルキーの低い人は使い捨てだ。高い富裕層の生活を見せて、貧民層に夢を持たせ、搾取する。



 「おい、大丈夫か?急に黙り込んで」



 「・・・・う、うん。大丈夫。俺も早く自由になりたいなって」



 「兄ちゃんには難しいんじゃないかー?」



 「うるせーよ」



 上手く誤魔化せたな。俺は生まれつき、思考が脱線してしまう事が多い。簡潔に言えば妄想癖だ。自分でも悪い癖だとは思うが、これだけは治せ無かった。仕方なく社会に溶け込む術として、誤魔化しや話題のすり替えが上手くなったのだ。



 「話を戻すけど、なるべく遠距離から狙える物がいいんだけど」



 「うーん、ちょっと待ってな!」



 店主はそう言い、奥の倉庫らしき所に入っていった。木の箱や鉄の擦れる物音が聞こえてくる。どうやら探し物をしている様だった。



 数分後、店主が「あった、あった!」と声を上げ、俺の背丈くらいあるだろう、大きな銃を手に戻ってきた。細部には金の細工が施され、銃身が異常に長い。スコープなどはついてなく、高級感あふれる一品となっている。



 「お前さんにピッタリの武器を持ってきましたぜ!」



 ユウキに大きな銃を差し出した。受け取るが両手で抱え、やっと持つ事が出来る程かなり重そうだ。十五キロはありそうだ。



 店主は喜々として身振り手振りを交えながら説明を始めた。



 「この銃は魔法銃といって、大気中の魔素を弾丸にするタイプだから魔法を使えなくても大丈夫なんだ」



 店主は鼻息を荒くしながら続けた。



 「デメリットは弾の補充に10分の時間がいる。そして、最高で10弾を込めることが出来る。まぁ魔素が濃い所では早くなるがな。それと威力は魔法よりも格段に落ちるが、貫通力は絶大だ。どんな硬い物も貫ける。しかも、射程距離は100キロと広大だ。兄ちゃんにピッタリだろ?」



 「貫通力はあっても威力がないのなら、魔物は倒せないんじゃないのか?」



 「ああ。普通はそうだ。しかし魔物には急所というものがあるんですぜ!」



 「急所?」



 店主は訝しげに耳打ちしてきた。



 「魔物には体内の一か所だけ、弱点を抱えているらしい。大きさは弾丸一発分ほどで、そこに当たればどんな魔物でも即死だと言う噂なんだ」



 噂か。ただの噂で確証もない話だ。しかも、タナハではそんな話を聞いたこともない。性能は良さそうだが、急所は弾丸ほどしかなく、少しでもずれるとダメージはほとんどない。しかも、スコープなどの視力の補助もない。・・・・無しかな。



 ユウキが断ろうとした、その瞬間に出入り口の扉が勢いよく開き、怒りを露わにした表情をしたフェンリルが飛び出してきた。



 「うぉいッッ!!!遅いぞユウキ!何をしているのだ!」 



 両手をブンブンと振り回し頬を膨らませユウキに怒鳴りつける。さらにその勢いでユウキの胸ぐらを掴み頭突きをかまし、前後左右にユウキを振り回す。



 「おい、聞いているのか!子分の分際で私をこんなに待たせるとは!」



 「・・・・・・・・・・・」



 ユウキは気を失っているのか、白目を向いて泡を吹いている。そのことを先に気づいた店主のは店主だった。



 「相変わらずだな、フェンリル。手を放してやれよ。気絶してるぞ」



 フェンリルは振り向き、店主の顔を凝視している。数秒間の沈黙が流れた後、何かを思い出したフェンリルが口を開いた。



 「・・・・おお!テュールなのか!こんな所で会うとは奇遇なのだ!!」



 「おいおい、この店は俺のだぜ、フェンリル!懐かしいな、10年ぶりじゃないか?変わらないな、お前はよ」



 「テュールは老けたね。おっさんになった!」



 「仕方ねぇだろ。俺は普通の人間だ。お前みたいな亜人とは違うんだよ」



 「まぁね!!私たち亜人の寿命は500年はあるからねー」



 「見た目が可愛らしいお前も、年齢的にはババァだからな!」



 「ババァじゃねーし!私達の種族的にはピチピチだからね!お前こそ私から見れば赤子同然なのにおっさんの見た目をしてるちんけな生き物に見えるぞ!!」



 どうやらフェンリルと、ここの武器屋の店主をしているテュールは、顔なじみのようだった。すっかり意気投合した二人は、ユウキをカウンターの奥にある居間まで運び、ユウキが目覚めるまで思い出話に花を咲かしていた。



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