天声人語のパロディ




小欄は天声、つまり神の声を、恰も語り部のごとく、凡人たる記者が口誦しているという、そういうその存在として人口に膾炙して長いわけであるが、小欄は入試の問題文に引用されることも多く、受験生には必読のコラムであるらしい。欣快にたえない。


 時恰も受験シーズン真っ只中、受験生諸君の健闘を願ってやまない。

 自分用にご褒美チョコを買うという、主として若い女性たちの最近の興味深い習慣は、所謂、「義理チョコ」以外滅多にもらうことのない小欄執筆者には、理解しにくいトレンドであるが、その心理を分析すると、そこには働く女性たちの「自立心」が見え隠れしていそうに思う。


 女性が受け身に愛の告白を待っているだけで、事足れりだった平穏な時代は過去となり、今や働く女性が日本のイニシアチブをあちこちで握っているのが現実であり、そうした女性たちの強烈な自恃の念、その反映が自分へチョコをあげる、男性へ告白をなし、あるいは告白されて家庭の中で家事労働に縛られるだけのロボットとなることへの拒否、断固たる拒絶、そういう心理が潜在しているように思う。


 お茶くみやコピーをとるだけの女子社員を「職場の花」として雇っておくだけの余裕は少子高齢化の波が高らかに襲いつつある日本のビジネス社会にはもはやない。

もう、大ヒット映画シリーズの「三丁目の夕陽」の背景となりそうな、かの〝クレージーキャッツ”の名曲である「スーダラ節」のような「お気楽な」サラリーマン

は現実には生き残っていけない厳しい時代だ。


 まず増税ありき、という固定観念に縛られていそうな野田政権は、自分にチョコを、というけなげな発想でサッチャリズム顔負けの弱肉強食社会を生き抜いている

逞しい現代の働く女性たちの発想の柔軟性に学ぶべきではないか。


 「まず隗より始めよ」使い古された俚諺だが、天下りを全廃すれば10年で100兆円が浮くという国家財政の真実とカラクリを天声が発しても、チョコよりも甘い汁を吸うことには慣れている、霞が関の住人たちには単なる空耳としか聞こえないのかもしれない。



(2012年12月22日)

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