五話

「スマホのボイスレコーダーを起動っと。………あとは……警察の連絡先でも登録しとくか。」


体育館裏に行く準備を僕はしている。

もしもの時のために色々と準備をしているのだ。


「……よし。準備完了。」


僕は、起動したボイスレコーダーをポケットに忍ばせると、体育館裏に向かって歩き出した。


------


「まだ誰も来ていないな……」


体育館裏に着いたのだが、誰もいない。

もしかすると、あの果たし状は偽ラブレターで、何も知らない僕がずっと待っているのを笑うためのものかもしれない。

まあ、今は待とう。


「……そういえば誤解、解けなかったなぁ…」


そう。冬香との約束をすっかり忘れていた。


「……どうやって言い訳しようか……」


だが、考え事に夢中になっていた僕は、後ろから近づいてくる足音に気づかなかった。


「……圭介……」


その声が聞こえた瞬間、僕は首から嫌な音が出るほどの速さで振り返った。


「……美咲……」



美咲は、僕の目を見つめるとゆっくりと僕に向かって歩き出した。

近づいてくる美咲。その目線はぶれる事は無かった。


そして、両者の距離が3メートル程になった時、美咲の足が止まった。

見つめ合う僕と美咲。


すると、美咲が口を開き、言葉を発した。


「ご………」


「…ご?」


「ごめんなさい!!」


「………は?」


予想外の言葉に、僕は呆けてしまった。

美咲の謝罪は続く。


「昨日助けてもらったのに、私、修のこと怖がって……」


「……あ……え……」


「私ったら、本当に最低。お礼の一つも言わずに突っ立ったまま……」


僕の言語能力が回復した。


「あ…いや、それは…」


「だから、本当にごめんなさい!!」


そう言って美咲は地面に頭が付きそうなほど深く頭を下げた。


「……………」


「……………」


僕が昨日イラついたのは、美咲にではない。美咲の反応だ。

だが考えてみると、あの時の僕を見て怖がらない方がおかしいのだ。


「顔を上げてくれ。美咲」


僕がそう言うと、美咲は顔を上げた。端正な顔が、涙で光っていた。


「謝罪を受け入れるよ。正直、あの僕を見て怖がらない人がいたら驚くよ。……だから、もう良いよ。」


「でも………」


「今は、美咲に昨日のことの説明をしたい。美咲が僕を怖がったのは、あの目の所為だろう?」


美咲はコクリと頷いた。


「よし。じゃあ、まずは僕の子供の頃の話から始めないといけないな…」


僕が今まで捻じ曲げていた、昔の話をしよう。

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