三話

「ただいまー」


ドタドタと足音が聞こえて、冬香が顔を出した。


「お帰り!お兄ちゃん!」


「ただいま、冬香。」


冬香は1つ下の妹だ。僕とは違い、可愛らしい顔立ちをしている。エプロンを着ているのは、父親が何時も仕事で忙しいので冬香がこの家の家事をしてくれているからだ。


冬香は僕の顔を見ると、何故か息を呑んだ。


「……お兄ちゃん、何かあった?」


「別に。いつも通り何も無いよ。」


「………ふーん……分かった」


なんて鋭いんだ……我が妹ながら恐ろしい。



階段を登って自室に入り、カーテンがちゃんとしまっている事を確認し、部屋着に着替える。

ベッドに倒れ込んだ後、目を瞑ってさっきの事を思い出す。


……チンピラどもは30分もあれば目が醒めるだろう。だけど………


「どうすっかなぁー……」


「何を?」


「うおっ!?」


さっきまで一階にいた筈の冬香がドアの前で仁王立ちしていた。


「どうやって入った?」


「普通に入った。そしたらお兄ちゃんが何か言ってたから聞いてたの。」


「……そうか」


「ねぇ……」


「……なんだ?」


「話して。どうせ、あの目のことでしょ?」


「……よく分かったな。」


「お兄ちゃん、帰ってきた時も目が紫色だったもん。」


「…………」


不覚だったな……話すしかないか。

僕は冬香の方を見ずに話し始めた。


「実はな、……………」


全て話し終わって冬香の方を見たのだが、僕は驚いて目を見開いてしまった。


無だ。顔から表情が抜け落ちている。

これは………キレている表情だ。


「ど、どうしたんだ?冬香」


「……お兄ちゃん……」


「はい。」


怖っ!!どっからそんな声出したんだよ!?


「お兄ちゃんにお礼も言わずに怯えた美咲さんも悪いけど、お兄ちゃんもお兄ちゃんだよ。」


「……と、言うと?」


「誤解をちゃんと解く!お兄ちゃんのその目は悪いものじゃないでしょ!?」


「…………」


これに関しては答えられない。

あの状況で僕が会話しようとした所で、美咲を怯えさせていただけだと思う。


悩んでいると、冬香が強引に迫ってきた。


「取り敢えず、明日美咲さんの誤解を解くこと。わかった?」


「……努力します」


そう言うと、冬香は満面の笑みで頷いた。


「よろしい。じゃあ、晩御飯出来てるから下に降りてきてね?」


「了解。」


その後冬香と一緒に夕食をとり、風呂に入った。


「………どう説明するかな」


脳をフル回転させ、解決策を編みだそうとする。


「…正面から話しかけるのは……ハードルが高いし………いっそのこと手紙にするか?…いや、でも…」


悩むこと30分。


「まずい………クラクラする………」


のぼせてしまっていた。




風呂から上がった後も色々と考えたのだが、全く良い案が浮かばなかった。

どうなっている。僕の脳味噌。


冬香にも聞いたがが、"自分で考えろ"との事。

一体どうすれば良いんだ………


「……よし。寝よう。」


こうなれば、明日の朝に良い案が都合よく浮かんでいることを祈るしかない。

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