44話

クランハウスに一人でいる。ダンジョンも攻略し、【世界樹の葉】は服飾に使いたいドリさんになかなかの高値で売ることができた。


あれから時間がたち、ダンジョン攻略も一気に行われた。ボタンさんやドリさんの見立て通り、いきなりのダンジョン出現はプレイヤーたちにかなりの衝撃を与えたらしく、今や最前線である第三の街より第二の街の方が賑わっているほどらしい。


人が増えると露店が増え、露店が儲かるとそれを元手に商店が立つ。第二の街は現状第一の街から訪れた人、第三の街から戻ってきた人も増え、結果的に現実で言う貿易都市のような立ち位置になっている。


そんな僕はというと最近は特に率先してやりたいことも見つかっていない。一応仲良くなったミヅキ先輩、ドリさんとボタンさんを誘い、PvPの大会があることだけは伝えた。【暴風】さんに頼まれているので参加はしたいところだ。実際全員初のイベント事には興味を持っているらしく、あとは全員の予定があうかどうからしい。


人数的にハナミさんにも来てほしいのだが、予定が合えば呼ばなくても来るとボタンさんが言っていた。予定合うのかな、あの人最初に勧誘されて以来会っていないけど。


イベントを除くと何をしようか。手つかずのハウジングでもしようかと手持ちの設置できるアイテムをインベントリと倉庫の中から探す。うーん、全体的にダサい。しかしダサさがいい。思い付きだが、初心者が乱雑にアイテムを設置した感を出していくか。入り口にいきなりベッド、謎の石像に、やたらでかい椅子とやや小さい机。縦に積まれた箱。いいね、でもこれに暮らしたいとは思わないのでスクショを撮って元に……


とスクショを撮った瞬間に規則正しいノックの音、そして入るぞと声が聞こえ、女性が入ってきた。キツそうな見た目をしたネカマ……言い方が悪いな。女性アバターの男性、リーシャさんだ。


リーシャさんは僕の部屋を見て怪訝そうな顔を浮かべた。いや、これ本気でやってないですからね?


「コマイヌ、お前部屋のセンスが」


「それは盛大な勘違いでして……とりあえず片付けますね」


勘違いされていたので部屋を片付ける。コンセプト自体はしっかりしていたけどこれはダメだな、うん。

最低限の設備だけを残して部屋をこざっぱりさせる。今度また家具でも買いに行こうかな。それはともかく。


「どうしたんですかリーシャさん、珍しいですね」


「なかったことにするのか……」


なかったことにするわけではなく、別になかったんですよ。


「まぁいい。相談があるのだが」


リーシャさんから相談?なんだろうか。数日間このクランに所属してからほとんど絡みがない人だけど。


「確か求心のペンダント、持っているんだったよな?」


「ああ、持っていますよ。使ってないですけど」


「そうか……これは別に断ってもいいのだが、貸してくれないか?」


神妙そうな顔で僕に頼み込むリーシャさん。別にそれくらいなら言わないで盛っていってもいいのだが。と思ったけれどそうか、求心のペンダントは個人用の倉庫にしまっていたんだった。


「別にいいですよ?それにしても何に使うんですか?」


言いながら倉庫から取り出す。埃を被って……は別にゲームなのでないが。リーシャさんって生産系のプレイヤーじゃなかったっけ?タンク装備なんて使うのだろうか。


「そういえば君は【暴風】ともフレンドなんだったか……ふむ」


そういうと何か考えだすリーシャさん。あの、ペンダントいらないんですか。


「ちょうどいい、君もリースするとしようか」


リース、とは。何をする気なのだろうか。求心のペンダントと何か関係性があるのかな。貸出?


「まず事情を説明するとしようか。君は掲示板を読む人間だったかな」


「自分では読まないですね……読んでるドリさんの話とかは聞きますけど」


あの人は本当に掲示板、いやクランハウス内でやる娯楽に飢えているというべきか。一緒に攻略してわかったのだけどあの人も強いんだけどなぁ。

それは置いておいて。ドリさんは少しだけ話題になった僕の話題なども拾ってきて話してくれる。少し照れ臭いけど、自分では調べないのでちょっと面白い。


「それならばこの話は知らないだろうが……近々レイドバトルが見つかったので攻略を行うこととなった。まぁ別にこれは特に問題もない話だ」


いや、結構重大な話だと思うけど。ツッコミを入れていたら進まないので気にしないでおく。


「このレイドバトル、正式版では初めての試みだ。装備を揃えて頑張ろう、と甘い感じにやることになったのだがな。まぁ纏まらん」


うーん、まぁそうでしょうね。うちのクラン内で行くとしても纏まらなさそうだ。レイドバトルの規模がわからないけれど。


「数クラン合同での攻略となった。うちのクランからも出ることになったのだが……【燕の暴風】はうちをご指名でな」


ああ、暴風さんのところのクラン。僕がフレンドだからかな?


「前置きが長くなったな。うちのクランからは三名、私と、ハナミさん、そしてお前だ。ついでにサポートに姉さんが入る」


「えーっと、たぶんレイドみたいなのだとボタンさんとかドリさん、ミヅキ先輩の方がいいんじゃないかと……」


「ボタンさんは試験、ミヅキはそもそもコミュ障だから他クランとの合同攻略は無理だ。ワンダードリームはこの前クエストに行ったのだろう。あと一週間はクランハウスから出ない」


相変わらず問題だらけだなこのクラン。


「戦略的には【燕の暴風】、【wiki's】が圧倒的だからな。私から装備やアクセサリー、アイテムを提供することになったんだ。求心はさすがに数が少ないから借りたい」


「なんとなくのイメージですけど、リーシャさんって貸出とか嫌いそうなイメージありました」


貸し出すにしてもお金とか取りそうなイメージがあったのだ。守銭奴、ではなくお金稼ぎが上手い人だからな今のところの印象。


「別に間違いではない……が、ここで縁を作るのは金銭換算できない価値がある。それに最近はRMT問題も出てきたからな、ここらで影響力のでかいクランを抱え込んでおきたい」


RMT……リアルマネートレードか。MMOにはつきものなんだよね。課金要素のないゲームなのに現実のお金が付きまとうのも困り者だ。


「現実からも揺さぶって何個か業者を潰したがまだ足りんからな、レイドバトルも新たな市場になるかもしれん。ここで食い込んでおくに限る」


というわけで感謝する、の言葉とともにペンダントを受け取っていく。ペンダントを五個ほど取り出し……いやめっちゃ持ってる。


「当然レイドのメインタンク、全員分に渡す用だ。一つ分浮いて助かった」


「あの、それ本当に資金とか足りてるんですか」


「どうせ求心なんてすぐにハケる。一時の損失など全く問題ない」


そう言って担保代わりに大量のゴールドを置いていく。随分多いけれどおそらくリーシャさんからしたらはした金なんだろうなぁ。


「では、私は準備に戻る。ハナミさんと姉さんがすでに話し合いをしているからコマイヌも混じっておけ」


ハナミさんとリーシュ君も会うの久々だな、いやー、忙しくなりそう。でもレイドクエストは楽しみだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る