45話

「なんかいい素材なかった~?」


「こっちが聞きたいくらいやわ」


「最近ボク外に出てないからなー、ハナミねぇガッツリ攻略してるじゃーん?」


「ウチは求めてるのは食材、飯の材料は今行っとるところやと落ちへんのやんな」


「食材ないなら鉱石とか落ちてるでしょー。装備作りたーい」


「それがないんやなー。ウチも新しい料理作りたいんやけどなー、酒の素材なんてもっとないんやなー」


会議していると聞いたのだが、どちらかというと雑談みたいな感じだな。椅子に頬を置き、だらけた姿勢のまま話し合うが言っていることは二人とも素材の催促だ。いや、リーシュ君はお金出して集めてもいいだろうし、ハナミさんは何か狩りに行けばいいのでは……と思ったけど気にせず席に着く。

二人は僕が来ると顔をあげ、笑顔を作り隣と正面の席へ移動する。怖い、なんですか。


「コマイヌ君、最近調子よさそうやん」


「コマにぃ、最近景気よさそうじゃん」


まさか僕にたかりに来るとは。でもあんまり意味がないのだけれど。


「素材なら僕だいたいクラン共有にしてるんですけど」


「はっ、あの最近勝手に増えている素材、何かと思ったけどまさか」


「猪がまた追加してくれてたん思うたけど、まさか」


気付いてなかったのか。しかも使ってたうえで気づいてなかったのかよ。そのうえボタンさんが追加してる素材まで使ってるのかよ。僕に関してはいいんだけど。


「なんだなんだ~、じゃあここにいるみんな珍しい素材持ってないのか~」


「リーシャさんなら何か持ってるんじゃないですかね、あの人マジでお金持ちじゃないですか」


「クランの共有財産とかまで全部管理しとるからなぁ、ウチは結構もらっとるけど」


「ボクにはくれないんだよあいつ!ボクの方がお兄ちゃんなのに!」


お兄ちゃん、あれ、リーシュ君ってプレイヤーは女性だったと聞いていたけど。ああ、RPかな。


「リーシュ君とリーシャさんって仲悪いんですか?」


「ん~、別に悪くもないんだけど……お互いになんか致命的に合わないところがあるというか、なんというか」


致命的に合わないところがあるのは譲れないならば仲が悪くなるのでは。といっても家族だしそんなに干渉しないものなのかな。


「性癖や、リーシュはショタコンやし、リーシャくんは年上好きなんやけどな」


「へー、じゃあ弟とお姉さんなら逆によさそうなものじゃないですか?」


むしろ弟がいると年下が生意気に見えて、お姉さんがいると年上に夢が見られなくなるというのよく聞く話だけど、該当する兄弟がいてその年の人が好きになるという例は珍しい気がする。

と思っているとリーシュ君が上体をいきなり起こし目をむく。どうかしたのだろうか。


「え……お姉さんってどこから……」


「普通にミヅキ先輩が言ってましたよ。あとリーシャさんも姉さんって呼んでましたし」


そういうとリーシュ君は頭を抱えたのちに「あの弟ぉ……」と小さく低い声で漏らした。あれ、やっぱり仲悪い?


「ハッハッハ、ちなみにリアルでも性癖が一致せんで。リーシュはリアルだとちっこいし、リーシャくんはリアルでもでっかいしな」


「ちっこくないし!ボクは理想を自分のアバターに詰め込んだだけでリアルはもう少し大きい!」


そのくらいの年齢が好みとなると僕もターゲットに入りそうな気がする。リアル年齢は公開しないでおこう。


「ハナミさんとクランメンバーは会ったことあるんですね」


「ここ元は身内クラン言うたっけ。ウチとリーシュは大学で知り合いやってん。んで猪と羊は先輩後輩やったっけ。あんまり面識なかったんはリーシャくんとミヅキちゃんくらいか」


期せずしてクランメンバーのリアルを少し知ることになってしまったけど……まぁ、僕家から出れないのであまり関係ないか。オフ会とか恐らく一生縁がない人生なんだろうな。

……いや、アバターとはいえほぼ毎日顔を合わせているVRゲームでわざわざオフ会なんてのもな。


「それで、何の話やったっけ」


「すっかり忘れてました、レイドバトルの話ですよ。相談しておけってリーシャさんに言われたんでした」


「おお、そうだったそうだった。ボクなんか家でまで言われたんだった」


やっぱり仲はよさそう。いいなぁ兄弟。僕も欲しかった。小さいころ弟が欲しいと両親にねだってしまったのはよく考えたら悪いことしたな。


「いうて話し合いなんてなにするん?ウチら自慢やないけど人と合わせられんタイプちゃう?」


それはまぁ、確かに。


「そうだねー、ボクに至っては戦闘なんてほとんど無理だよ。装備作れーとか言われてもパッと思いつかないし」


「そういえばリーシュ君は失礼ですけど、何しに行くんですか。生産職ってレイドバトルに必要なイメージが……」


「特に出番ないと思うよー、数合わせだよ数合わせ。最悪戦えないこともないけどそれもハナミねぇとかコマにぃと同じでソロプレイ向け」


うちのクランバランス悪くないか?ドリさんとボタンさんがいないとめちゃくちゃに動きづらそう。


「でもこの中で一番合わせられるならハナミねぇじゃない?一応普通の前衛アタッカーくらいはできるでしょ」


「そりゃできるけどなぁ。何ならウチら全員指示無視して適当に突っ込まへんか?」


「ダメですよ、何言ってるんですか」


という言葉と共にリーシャさんが入室してくる。もうやること終わらせてきたのか。


「シャー!またお姉ちゃんって呼んだでしょ!」


「姉さんなのはもうクラン員には周知のことなのでいいだろう。コマイヌに関してもすぐに知ることだ」


「あんたのせいで広まってるのよ!ハナミねぇくらいしか知らなかったのに!」


こう見ると似た者同士なんだけどなぁ。いや、姉弟なんだからそりゃ似ているのは当たり前なのだけれど。

ハナミさんは姉弟喧嘩を見慣れているのか、にやにやとしながら二人を眺め、お酒の封を開けた。何肴にして飲もうとしてるんですか。


冷静そうに反論するリーシャさんと熱く口論を飛ばすリーシュ君が対照的な風景だが、話し合いがあるのでそこら辺にしてもろて。


「そうだな。レイドバトルの詳細でも話しておこうか」


「むー、後で晩御飯の時に話し合いだからね」


「母さんには部屋に届けてもらおうかな……とまたつまらない話になるところだった」


というとスクリーンらしきものを操作し、文字が並んだページを表示させる。プレゼンテーションなどで使うような見出しが見やすく、情報が纏まったページだ。

そしてどこからか指示棒のようなものを取り出すとスクリーンの横に立ち解説を始める。


「まず今回のレイドバトルの対象、【哭龍騎士】についてだ」


「はーい、哭は誤字ですかー」


「いや、これが正しい名称だ。姉さんは以後発言を控えてくれ」


「なんでよ!姉さんって呼ぶな!」


リーシュ君の言葉を無視して次のスライドへ進む。そこには哭龍騎士なる敵の情報が書かれていた。


「まずこいつは前提クエストの終了により解放されたコンテンツだ。言うなれば人数制限が多めに設定されたボス戦のみのダンジョンだな」


枝垂桜みたいなめんどくさいタイプなのかな。まぁあれも今や全員でフルボッコにされているみたいだけど。

ただ僕たちは一回不意打ちで当たった以外で最後までやられることがなかったけれど、油断していると魅了攻撃を食らい、桜の元まで連れてかれる。そこで糸を繋がれると一定時間狂乱状態となり仲間に攻撃させられてしまうらしい。

っと、別に今は枝垂桜のことは関係なかった。


「クエストを受注したプレイヤーが所定の位置に行くと巨大な龍に乗った鎧騎士が現れる。龍と共に上空から魔法をまき散らし、地上を爆撃してくるのが第一フェーズ」


第一フェーズから地獄みたいな情報が出てきてますけど平気ですかそれ。という視線には気づかないのかスライドは次のページを表示する。


「第二フェーズに入ると地上に降りてきた龍と騎士によるチャージ攻撃、ついでに巨大な槍を振り回しての攻撃フェーズが入る。事前情報ではここまでだな」


「まぁ、なんとかなるんちゃう?遠距離持ちは何人くらいおるんや」


「うちのクランと違って合同のクランたちはバランスよく編成してくれているので数人は確保しています」


「なら大丈夫じゃないかなー、行けるでしょー」


緩いなこの人たち。でも僕以外の全員がそう思っているようで発言しづらかった。

空中飛んで攻撃してくるとか、連続攻撃とか……

まぁ、僕も似たようなことしてるか。


なんだ、じゃあ平気か。


という結論が出てその日の会議はお開きとなった。結果的にリーシャさんがまとめていっただけで別に僕らほとんど何も話し合っていないのでは……まぁいいか。

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