43話

「お疲れ様ですよーコマイヌ君、相変わらず途中やばかったですー」


「花びら全部落としたときは一人だけ宇宙とかで戦ってる戦士かと思ったもんね」


誰が宇宙戦士ですか。そこまでSFに振りきってないですよ。


「実際あれどうやって切ってるんですかー、いくら二刀でも無理ですよねー?」


「ああ、二刀っていうより、腕、肘、肩、腰、足……まぁ、出せて使えそうな部位全部に出して流動的に切るんですよ、無駄な時間が生まれないように、円形に?説明しづらいですけど」


イメージ的には複雑なリズムゲームを全部の指で叩く感じなんだけど、実際やっているときは四方八方からくるノーツを全身で叩いていく気分でやっていた。

まぁあの時は集中力がカンストしてたというか、スローモーションみたいな感じだったのでできたけど。今またやれと言われてもたぶんできない気がする。


「ただすっごい集中して、AGIに振って同じ装備すればみんなできるんじゃないですかね?」


「動画は撮っておいたのでクランチャットに貼っておきますー。その真偽はみんなの意見を聞いてからでー」


なんでだ。最終的に行きつくところはAGI振りが正義という話なのに。


「ま、それよりも。さっさとクリアしちゃおっか、この階段降りればクリアだしさ!」


「そういえばダンジョンにいるんでしたー」


先ほどまで樹があった場所の奥、隠されるように小部屋の入り口が設置されている。あれが出口か。

笑顔をかわし出口まで歩いていく。小部屋に入ると中に魔法陣のようなものがあり、全員でそこに乗ると『報酬を付与します!ダンジョン脱出まであと三十秒……』というシステムメッセージの後にカウントダウンが表示される。


三十秒が経過すると体の周りに白い光が集まり、視界も白く染まる。そして次に視界が晴れた時にはダンジョンに入る部分、大樹の元まで戻ってきていた。


「はあー、無事に終わったね」


「そもそも三人じゃなくてもっと人呼べば簡単だったと思うんですよー。アイテム消費もポーションくらいなのでいいですけどー」


「そういえば報酬が付与されるってあったんですけど、報酬って何なんですか?クエスト報酬以外でなんかあるんですね」


システムメッセージで報酬を付与すると言われていたけど報酬とはいったい。パッと見た感じだと別に何も変化がないのだけれど……


「ああ、ダンジョンクリアすると、インベントリの中にオーブが入ってると思うんだけど、それを開封するとダンジョン毎に決められたアイテムがランダムで手に入るよ」


「昔はそれに人権アクセサリーが入ってたので周回きつかったですよー、市場の値段も大変なことになってましたですしー、PKでドロップさせられた人が引退考えたりとかしたんですよー」


「つまり、ガチャですか」


ガチャという単語を聞いた瞬間にドリさんが頭を抱えてうずくまり始めたが気にしない。どうしたんですか、防御姿勢を取って。「魔術師の腕輪……土心の首飾り……」などという謎の単語を発しながら動かなくなってしまった。


「あはは、まぁそうなんだけど。だいたいは換金用アイテムとか微妙なアクセサリーだね。でも今出回ってるアクセサリーよりはいいのが出るんじゃないかな」


「まずこのゲーム防具以外にアクセサリーってあったんですね」


「手に入れないと装備スロットすら見れないという鬼畜仕様なのですよー。βからUI周りだけは不便なことが多いですねー」


ドリさんが復活を遂げてから文句を漏らす。すみません、それに関しては伝えておくので。改善されるかどうかは知らないけれど。スキルでの慣性やキャンセルでの移動に関しては伝えたけれど特に修正されることもないし。


「とりあえずみんなで記念に一斉開封しちゃう?」


「おおー、何が出ても恨みっこなしなのですよー」


「まぁクランで一番運が悪かったのはドリちゃんだと思うだけどね……」


「ぐっ、でも今回はコマイヌ君が来たのであのころとは違うんですよ!」


ちなみに僕は結構運がいいほうだけど。おそらく現実の身体に多大なデメリットがある分それ以外はバフされてる。


「もしコマ君が最下位でもドリちゃんは下から二番目だけどね。じゃあオーブを選択して~?」


オーブを手元に出現させる。えっと、これをつつけば開封かな?


「オープン~!」


「ぬうおー、相変わらずの換金アイテム……しかも銅の調度品ってこれ安いやつじゃないですかー」


「私も換金アイテムだねー。でも金だからドリちゃんよりは上かな?コマ君は?」


そう言われて僕の開封されたオーブを見る。お、アクセサリーっぽいけど……ネックレス、いやペンダントかな?


「求心のペンダント……効果は装備中モンスターヘイト+20%……ってうっわ」


「うおー、タンクの人権求心さんですよー。今回このダンジョンなんですねー」


「いやはや、これはちょっと掲示板も荒れそうだね……ちょっとの間取得したことは隠してた方がいいかもね」


隠していた方がいいと言われても、そもそもそんなに話す人もいないですけどね。

それにしても僕でもわかるぞこの装備。一見ステータスが上がらないし数値が低いように見えるけど、パーセンテージ上昇アイテムだから、上位互換が出るまで絶対に腐らないアイテムなんだよね。


問題点があるとすると、僕はつけないし今ここにいる人たちも装備する人がいない。もったいないなぁ。


「よし、運最下位がドリちゃんのままってことがわかったし、女王様に報告にいこっか!」


「待ってくださいー、まだ、まだ一回目なのですよー。十回勝負にしないですかー」


ちなみにこの後道中にただダイスを転がすだけの運勝負をしたのだが、十戦十勝だった。この人本当に運が悪いんだな。



「イヌのお兄ちゃんが帰ってきたの」「イヌのお兄ちゃん無事だったのかな」


「あらあら二人とも、そんなに飛びついたらコマイヌさんたちも困っちゃいますよ」


再び謁見。相変わらず接し方が軽い殿下二名を受け止めつつアル様の元へ向かう。そういえばこの双子って普段何しているんだ。

いや、NPCなので行動ルーチンが決まっていると思うのだけれど、ほとんどここで遊んでないだろうか。


「無事に下まで行って帰ってきました」


「無事でよかったわ。エルフ族でも全員が帰ってこれるダンジョンではないから……」


最下層にいた桜の樹が操る骸骨、あれはもともとはエルフ族の戦士だったらしい。設定としてもえぐいなここのダンジョン。めちゃくちゃ砕いたし切り刻んだんですけど。呪われたりします?

まぁあの桜も骨も時間をおいてしまえば星の力で復活、らしい。


「それじゃあ、最初の予定通り報酬は【世界樹の葉】でよかったのかしら」


「恐れながら陛下、旅人をダンジョンへ向かわせるのは賛同しますが、クリアするたびに葉を渡していてはキリがないかと」


「うーん、ケチくさいけど確かにそうね。旅人さんがどれほど興味を示すかわからないけど、いっぱいいても困るものね」


そういうと顎の下に指を置き、考え始める。そして思いついたように進言したエルフさんへ笑顔を向ける。ああ、これまた。


「細かい報酬設定はあなたたちが考えておいて、ポイント制にでもして溜めたら葉や枝と交換してもらいましょう」


「え、そ、それは何回達成して、そもそも虚偽報告などの……」


「そこら辺も全部、考えておいてね」


エルフさんはうなだれそうになる肩を押さえつけ、片膝をついて小さく了承の返事をすると、扉から出て行った。その背中は少し哀愁が漂っていた。


「ああ、あなたたちには初回特典、というわけではないけれどちゃんとあげるからね」


そういうと今回は事前に用意していてくれたらしく、厳重な箱に入った葉が三枚取り出された。

ドリさん、ボタンさんはそれを受け取ると、失礼にならないように、ただ素早くインベントリ内にしまった。

僕は別に必要ないのだけれど……まぁ、これもクラン共有のところへしまっておこうか。誰かが役立ててくれるだろう。


「それじゃあ、コマイヌさん、旅人さん、また今度ね?」


そう言ってアル様は上品に、双子たちは元気に手を振ってくれた。

部屋を出るとクエストが達成と表示される。そしてクエスト達成とほぼ同時にゲーム内全体にシステムメッセージが流れ始める。


『クエスト進行に伴い、ダンジョン【聖樹の下の魔植洞穴】が解放されました。マップにてエルフ族の指示に従い、ダンジョン攻略に参加してください』


「おおー、正式版はこういう感じで流れるんですねー」


「すごいね。私たちが攻略最前線、みたいな感じだよ」


βからプレイしている二人には感慨深いものがあるらしく、二人してチャットを見ながらしみじみと頷いている。

ひとしきりダンジョンの感想を言い合うと、全員で帰路につく。よく考えたらクランハウスでハウジングしてから随分長い旅になったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る