42話

さて防御も問題ない、攻撃もボタンさんが担当してくれる。となると後はこのまま順当に進めるだけだけど。

そこからは作業だった、花びらが飛ばされる、全部切り落とす。骨が囲むように出現する。無双ゲームする。糸が伸ばされるのだけ少しめんどくさいが、見えづらいだけだ。なんとなく桜の動きと、空間全体を見ているとどこへ飛んできているのかなんとなくわかる。


「たぶんミヅキとコマイヌ君ならもっと早く二人でクリアできそうですねー……素材周回二人に頼もうかなー」


確かにミヅキ先輩がいてくれたら楽そうだ。ああ、扉の有効な使い道はあの人が一番使えるんじゃないか?よく考えたら分身出して扉から特攻させ続けるだけじゃんあの人。


やっぱり見てきた中であの人のスキルが一番ずるくないか、対人に特化させてるみたいに言っていたけどスキルとる前提条件のモンスターは倒せてるんだもんな。


考え事をしているとボタンさんの詠唱が完了したらしく、三階で見たよりも小さめの巨大な火球が飛んでいく。巨大な火球は地面の草を削り取りながら樹へ向かう。途中また骨が呼び出され盾になろうとするも炎に巻かれ灰となっていく。そして樹へ到達すると爆発を起こす。おー、桜に花火とは春夏の贅沢取り……まぁ、どっちもほとんど家からしか見たことないけど。


「たーまやー」


「結構MP使っちゃったからこれで削れてくれてないと困るんだけど……」


あ、それフラグです。という暇もなく聞こえるはずもない叫び声のような音が聞こえた。その音は桜の樹から発せられており、見ると半分ほどが焦げ落ちているが枝を振り回して暴れている。


そして枝を地面に突き刺したかと思うと骨を引きずり出し、骨に向かって糸を垂らす。宙吊りになった骨たちがカタカタとなると砕け散る。すると花びらが復活していくのだった。


「ボスが回復はやっちゃダメって習わなかったのかー!」


「どうどう、ボタンさん落ち着いて」


「落ち着けないよ!どうするのこれ!」


頭を抱えるボタンさんをなだめる。たぶん花びらが復活した部分しか見ていなかったのだろう、枝は焼け落ちたままなのである。といっても半数ほどだが。


「そもそも動物っぽい見た目のやつら以外はHPとかの概念なさそうでしたし、たぶん今回もそういうパターンなんじゃないですか?」


たぶん枝を全部落とせば、いや枝全部落としたらそりゃ樹として死亡なのでは……と思ったけれどそれをすればいいのだから変なことを考えるのはよそう。

さて、ボタンさんのおかげでHPの半分ほどは削れたと考えるべきか。ならあと半分は僕とワンダードリームさんの仕事だろう。よーし、取得したけど使ってなかったスキルの使いどころ見せちゃうぞー。


「ワンダードリームさん、とりあえず樹の根元まで走るんで援護もらえますか?」


「適当に岩とか土飛ばしますねー」


僕が目的を告げると最適な行動を取ってくれる。骨たちに適度に攻撃を加えつつも、桜の樹本体へ向けても妨害を飛ばし上手くヘイトを管理してくれている。そして僕が走り出そうとしたとき、そういえばと僕へ告げる。


「ワンダーでもドリームでも夢でもなんでもいいですよー」


「え?」


「呼び方ですよー。ワンダードリームさん、だと長いと思ったのでー」


「じゃあ……ドリさんで」


ボタンさんがドリちゃん呼びなので引っ張られた形だが、確かにいちいちワンダードリームさん、だと長いなと思っていたところだ。まぁそれがダンジョン最深部に気づくのはあれだけど。


ワンダードリームさん改めてドリさんの支援を背に相手の根元まで走りぬく。途中骨が数体行く手を阻むも、全速力で無視する。


根本までたどり着くと枝垂桜は花と枝についた糸のようなものを全てこちらへ向け、飛ばしてくる。回復したと言え先ほどよりも少し数が多い程度だ。背後を気にしないでいいのなら撃ち落とし、避け、一つに纏めることができる。


一つ一つ、糸を垂らしている枝を剪定するように切り裂いていく。≪飛燕≫を発動、高さを稼ぎ下の方に生えた枝を切り取る。糸では無理だと判断したのか枝で直接殴り掛かってくる。再度左腕で≪飛燕≫を発動。すんでのところで回避に成功する。樹の中腹辺りまで来た。樹の幹に足を掛け、ここで取得したスキルを発動する。


【 Action Skill-chain : 《ハイジャンプ》】


ミヅキ先輩お勧めのスキルだ。あの人らしい立ち回り重視のスキルなのだが、効果は単純に通常より高くジャンプする。歩法系に分類され、足元が何かに接触していないと発動できないが、そのデメリットはすでに僕には意味をなしていない。


上の方まで来た、よく幹を見るとうろが顔のようになり、恐ろしさを引き立てている。まぁそんなことはあまり関係ないのだが。ここまでくれば高度は十分だろう。枝がよく生えている方向に足をあげ、踵に刃を展開する。人型の生き物には踵を起点に≪ピアス≫を発動して貫通・クリティカルを狙っていたが今回はAoE、かつ大ダメージを与えたい。ので【暴風】さんがお勧めしてくれたスキルを発動する。


【 Action Skill : 《空烈閃》】


僕の空中戦という独自?のアドバンテージを活かすスキルがあると言って教えてもらったのがこのスキルだ。単純に剣を振り下ろすスキルなのだが、≪スラッシュ≫などとの相違点はこのスキルは動作の終着点が地上へ着くまで、となっているところだ。

そしてその威力は発動した場所が高ければ高いほど威力が上がる。


つまりこんな風に高高度で発動した場合は。


「うわぁ、見てくださいボタンさん。どんどん枝が落ちて行ってますよ」


「あのスキルってβで見たときは森ステージとか高い岩があるフィールドじゃないとできなそうだったのに、コマ君一人であれできちゃうんだね……」


樹の側面を上からガリガリと切り落としていく。動作が地上までとなっているスキルを止める手段は木になく、せいぜいが横から枝で殴りつけることくらいだった。

まぁそれはそれで結構痛いのだが、まだほとんど使っていないポーションに加えまだ少しMPが残っているボタンさんの援護によりすぐに回復できる。


最初は満開だった桜も花びらを散らし、枝も折れ今では三分咲程度まで切られてしまった。また糸を垂らし、骨を砕くことによって花びらを蓄えているが、砕かれた骨はもう蘇ってくることはないらしい。先ほどよりも明らかに数が減っている。


ただもう骨など必要ないのか、まだ残っているであろう骨すらも砕き、遂には一匹も出現することはなくなった。しかし最初に見た時よりも花だけは多く見える桜は、最初に見た時よりも怪しい美しさはなく、どこか醜さを感じる樹だった。


花びらがフィールド全体を包み込むようにちりばめられる。そのどれもが攻撃判定を持った刃物だ。ドリさんは土のドームのようなものを作りそこにボタンさんも入れ、ボタンさんはドームに重ねるようにバリアらしきものを貼っている。


残りの花は全て僕に集中するわけだが。今はなんだか全てが遅く見えるようだった。以前もあったがこういう時は攻撃に当たる気がしない。冷静な部分と高揚感が同居している不思議な感覚だった。


迫ってくる花を全て断ち切り、樹の前に立つ。発狂モード故の最後の攻撃だったのだろう花びらを、再度集められるだけでも集めようとしているが既に遅い。


【 Action Skill : 《一閃》】

【 Action Skill-chain : 《一閃》】


【暴風】さんお勧めのスキルその二。抜刀術なのだが僕の武器は防具にしまわれた状態が鞘にしまわれている状態と同じ扱いのため、ただ剣を出して振るうだけでスキルの発動条件を満たせる。発動条件は鞘から出した最初の攻撃、≪スラッシュ≫よりも動作が長く、溜めも硬直も長いスキルだが、威力は比ではない。


そしてそれを手軽に両手でできる。いや、本当にこの装備を作ってくれたリーシュ君には感謝しなきゃいけないぁ。


両手を広げるように振り切られた【血兎アルミラージ】は、カシャン、と軽い音を立てて収納される。それと同時に断末魔のように梢を打ち鳴らし、倒れていく。


いやー、さすがお勧めのスキル。強かったなぁ。まぁスキルポイントすっからかんだけど。

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