11話
どこかへチャットを送るボタンさん。いったい何処へ……
「うん!あとちょっとしたら来るって。それまで今クランハウスの中にいる子の紹介しよっか」
「そうですね、お世話になりますので、よろしくお願いします」
ボタンさんは満足げに頷くとまずは私、と胸に手を当て自己紹介を始めてくれた。
「私はボタン、牡丹の花のボタンで得意な武器は……結構何でも使うかな。いないところの補助をすることが多いけど、一応得意なのは回復と補助!よろしくね」
おお、やっぱりプレイヤーごとに個性が出るな。自分こそが主人公だと張り合うMMOで補助役に回れる人は尊敬する。今までプレイしたゲームでもそういう人は貴重だったからね。
「次にそっちでインベントリ整理したり掲示板見てるのはミヅちゃん、ミヅキ=ケイちゃん。得意な武器は短針で……」
「ターゲットに情報渡すのは禁止」
「ミヅちゃんあんまり自分のスキルとかバラされるの苦手で……心開いてくれれば教えてくれると思うから、根気強くよろしくね?」
被害者と加害者の関係で仲良く出来るかな。僕からの歩み寄りはしますけど。と思いながらミヅキさんの方を見ると針が構えられる。うん、ゆっくり歩み寄ろう。
「そこの専用ソファで寝てるのがワンダードリームのドリちゃん。趣味と特技は寝ることで、戦い方は眠らせること」
ワンダードリームさんはソファの方でごろんと寝返りをうつ。
そんな睡眠特化な人とは。役割的にはデバッファー、なのかな。全然戦い方が想像できないけど。
「あっちの部屋で禁酒させてる君を連れて来たのはハナミ、ハナミ=DE=イッパイ。戦い方は……召喚士?一番戦闘がうまいんだけど一番意味わからないんだよね」
なんかある意味洒落た名前ですね。ピッタリだと思います。まだ戦っているところを見たことがないけど、ミヅキさんと相性が悪いとか言っていたし本当に戦闘力が高いのだろうな。召喚士がどんな職業かわからないけどモンスターを戦わせるのだろうか。
「次がここにいないんだけど、リー……っと、ちょうど一人来たみたいだね」
少しして、玄関の方から機械の駆動するような音が聞こえる。機械の音とともに光がドアから漏れ出てきたところを見るにテレポートしてきたようだ。
どたどたと元気そうな足音の後に大きな音を立ててドアが開かれる。そこに現れたのは髪を短めに揃えた小さな男の子だった。僕よりも年少らしき人は初めて見たかもしれない。
「ボタンねぇ!ボクに新しい依頼って本当!?」
「リーくんおかえり。そうそう、こっちの人の武器作ってほしくてね。コマイヌくん、この子がリーシュくん。うちの鍛冶師だよ」
「このお兄さん?新人か……ふむふむ」
すると手足をひょこひょこ動かしながら僕の周りをぐるぐると回る。
「なるほどなるほど?次ちょっと武器出してみて」
言われた通り短剣を一本取り出す。出してみてというのは構えてみろということだったらしく、普段戦う時のように短剣を利き腕に持ち半身逸らす。
何を見せているんだろう。
「うわー、初期武器じゃん……」
初期武器から強化したいからって話をしていたのと、初期武器の段階で拉致られたんです。
「これじゃわかんないな……ボタンねぇ、ハナミねぇいないの?」
「あっちで禁酒の刑にしてるよ」
「またぁ?ちょっとハナミねぇ使おうよ、戦ってるところ見たいし」
禁酒の刑って字面でわかるけどハナミさん以外に使えなさそうな刑だな。ハナミさんを使うとは……ああそうか。さっき言っていたけどあの人召喚士なのか。僕がモンスターと戦っている姿を見たいと。
「リーくんが見たいって言うならしょうがないか。ハナちゃん連れてくるね」
そういうと先ほどの喧噪が流れていた部屋に入っていき、ごとん、ごとん、と何か重い物を床に落とす音が聞こえたと思うとダルそうな顔をしたハナミさんとボタンさんが出てくる。
「じゃあ裏行くよ」
「うい~…先お水飲んじゃあかんか?」
「禁酒はまだ続行だから」
ハナミさんはがっくしとうな垂れ、体を引きずるように歩いていく。その後ろにボタンさん、リーシュ君と続く。まだ家の構造を把握していないのではぐれないようについていく。すると少し進んだ先に唐突に縁側のような場所が現れ、その先には植物が生え池もある綺麗な庭が広がっていた。
庭を進むと少し開けた場所があり、仮作りと書いた看板が立ててあるが十分綺麗なタイル作りのフロアがあり、そこの右側にハナミさんが立つ。横から見ている僕へ反対側に立つように指示した。言われた通りにフロアの左側に立ち、武器を取り出す。
「とりあえず戦闘してるところが見たい言うんがうちのの要望やし適当にやるで」
「適当に、とは……」
「そんなんうちが本気出したら秒殺ってだけやわ」
またけらけらと笑いだすハナミさんの姿に少しムッとする。一泡とはいかずとも少しでも面食らわせたらいいな。
「じゃあボクから合図出しますね、このやたら音が出る棒が倒れたらスタートで」
リーシュ君がフロアの外に椅子を立ててこちらを観戦していた。椅子に座したまま鉄の棒を地面に立て、それをさしている。
「じゃあ、よーい」
リーシュ君が棒を手から離したのを確認して前を見る。ハナミさんは以前自然体のままこちらを見据えている。
やたら音が出るという前振りの通り随分と大きな音でカラン、と鳴ったのを確認するとともに前へ駆け出す。召喚士と言っていたけどそれならモンスターを出す前に一撃でも……!
「おおー、結構早いねボタンねぇ」
「AGI振りとは言っていたけどまさか制御できてるとはね、さすが大型新人」
【 Action Skill : 《召喚》 】
スキルログが流れるのを確認するがそれよりも早く僕は肉薄している。このまま剣を振りぬけば多少は……
振った剣は何か硬質の物に弾かれた。行動を読まれてて何か盾みたいなモンスターを召喚されたのかと前を見るとハナミさんは武器を構えていた。これは……棍?
鍔迫り合いに付き合う気はないようで僕のことを弾くように吹き飛ばす。あまりのSTRの差にそのまま距離を取られるが、そのおかげでハナミさんの全貌を眺めることができた。
棍のようなものはよく見ると頭、胴体、尻尾が一直線に伸びた動物に見えた。いや、≪召喚≫ってことはあれ、モンスター?
「相変わらず意味わかんない戦い方だねー」
「ハナちゃんに関しては本当にね……召喚したモンスターを装備して武器として扱うオールラウンダー。なんていうんだろう、前衛軽装召喚戦士?」
横からの会話を盗み聞いたが。うん、そりゃ意味わからないよ。
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