3話
再々度広場に降り立った。デスペナルティは累積するタイプらしい。だいぶ現実の体に近づいてきた重さに苦笑いを浮かべたくなる。しかし僕の現実の体デスペナルティ2回分以上……?
前回、前々回よりも遅い歩みで南門へ向かう。今僕を動かす気力はウサギへの敵対心だ。剣士さんはなんか恨みを持ちにくい雰囲気があるので、この余ったヘイトはウサギに向かうのだ。
ウサギ、絶対に許さない。自分が狩り続けたことなど棚に上げてやる。
次は100連続くらいでウサギを倒そうと思っていると僕に話しかけてくれた男性、剣士さんが南門から走りよってくるのが見えた。
「お、ログアウトしてなくてよかった!すまねぇな少年!」
「どうもです、剣士さん」
ここまで話しかけてもらっておいて剣士さんというのも失礼だな。
「そういえば名乗ってなかったな。【スクラ】だ。少年は?」
「【コマイヌ】です」
「と言っても街中なら別にネームは表示されるんだがな。名乗ったほうがリアル感増すから俺は気に入ってるんだ」
にこりと中々快活な笑みをスクラさんは浮かべた。リアルでモテそうな感じだ。これVRだけど。
「なんでウサギの群れなんかと戦ってたんだ?あれ連続でウサギ倒し続けないと出てこないぞ。スライムのほうがコマイヌ的には合ってるんじゃないか?」
「経験値稼ぎと……ドロップ集め?」
「あー、インベントリが埋まってくのに夢中になるタイプか。序盤は全然問題ないが一応重量制限とかあるらしいから気を付けろよ」
「そういえば前も思いましたけど詳しいですね」
「一応βからの続投だからな。まぁβ参加してたやつらはだいたいいると思うが」
やっぱりβプレイヤーか。今VR機器含めて新規参入難しいらしいから得体の知れないβに手を出したプレイヤーか話題になってから買えた幸運なプレイヤーくらいしかいないらしいけど。
「それにしては……えっと……」
「装備も初期だしまだ第一の街にいることか?……まぁ社会人ともなるとそんな急に連休入れられなくてな……本当は休日だったんだけど。それでβのころのフレンドにはだいたい置いていかれちまった」
なるほど。もし僕が成長し就活するとして、それまでにスクラさんが会社を辞めるときは会社名を聞いておこう。
「それじゃあこの後はあの蜘蛛に?」
「おう。今日中にはソロで第二行くぞ。あいつらに出荷されるのは気に食わねぇし。動きの鈍さ的にボス見に行ってデスルーラしたか?」
「残念ながら偶然ボスエリアに入っちゃって……事故死です」
あの表示わかりづれぇからなと笑うスクラさん。やっぱりあれわかりづらいよな……
ちなみにデスルーラはデスしてリスポーンすることによって街までワープする方法だ。
「じゃあ俺はあとポーション補充したら行くから。ところでコマイヌ」
別々に歩き出そうとしたときふと思い出したように背中に呼びかけられた。
どうしたんだろう、何かまだ用事でもあっただろうか。
「お前、ステータスはどう振ってんだ、ずいぶん動きづらそうだけど短剣でSTRに極りでもしたか?」
「……?ヴぇあ」
「うわすげぇ声出たな」
僕でもびっくりするくらい低い声出た。さっきウサギに突撃された以上の声だ。いやそんなことよりも今気づいた重大な事実の方が大事だ。
「このゲームステータス振れるんだ…?」
スクラさんは驚いた顔をしたこれまた快活に笑いだした。
◇
あの後スクラさんに笑いながら肩を叩かれたあと
「わかるぜ! このゲーム不親切だからな!
もしなんかわかんねぇことあったら、まだwikiも充実してねぇし北の方にあるクラン尋ねな!そっちのがわかりやすいから」
と言われた。クランがこの段階で作れている時点ですごいとは思うのだが具体的にどこのあたりかを聞くと
「βんころから初心者支援してるクランがあるから!というか第一の街の北側にクラン構えてるのあいつらしかいねぇからな」
wikiを充実させることに生きがいを感じてるだの初心者を抱え込みまくって結果的に規模がとんでもねぇだのあいつらがいなければうちが最速クランだっただのとクラン名などを特定できる要素は一切ない情報をいただいた。
一応去り際にフレンド申請の仕方と気に入ってもらえたのかそのままフレンド登録をしてもらうことはできた。βテスターの人とフレンドになれたのは素直にうれしいな。
そういえばこの街南にしか歩いてこなかったけど、東西南北分かれて発展しているらしい。今歩いている北側は商店が多く出ている。ゲームに必要な施設などが多いからか、生産職や商人職の人たちが多く露店を出していた。
「スクラさんは冒険者ギルドっぽいのがあったらそれって言っていたけどプレイヤークランでそれは………本当にあった」
お酒のマークともう1つ剣が交差して後ろに盾があって…なんかいかにも酒場と冒険者ギルドですよみたいな主張が強い建物があった。わかりやす。
言われた建物がなかったわけじゃ無く、というか言われた通りの建物があったので警戒する必要はないだろう……というかゲームだし街中でそうそうなにもできない。
おずおずと大きめな木製の扉を開くと、油の足りていないキィという高い音がなり……直後扉で遮られていたとは思えない喧噪に包まれた。
「だから今日はあんたのとこの班が牽引でしょ!」「俺は今日は森担当です~」「お茶はまだかのぅ」「なんでゲーム内でおじいちゃんRPしてんだ?」
「あのー」
僕の控えめなあのーという声はかき消された。ネットゲームで知らない人に話しかける時点で結構な勇気を出したのだけれどな…
「はいはいおじいちゃんお茶ですよ~」「オネーチャンさんそういうことするから面倒くさい新規が増えるんだぞ」「でも~?」「シュヴァルツんとこが第3に手をかけたぞ!」「マジか情報班回収行ってこい!」「ここにいる情報班はまず第2エリアまで行ってねぇしあいつらがクリアしてない情報出すわけないだろ!」
「あのー!」
少し大きめな声で呼びかけると喧噪はピタリとやんで周りの人がみんなこちらを向いた。
がはっ、何の問題もないはずのゲームの心臓が痛い。
僕の方を見ていた人たちを代表してお茶を出していた優し気なお姉さんがこちらに来てくれた。
ありがとうございます……心臓死ぬかと思った……
「はいこちらwiki's窓口でーす。どうしたの~?」
「えっと、コマイヌです。とりあえず初心者はここに行けって言われて……」
「そうね~、チュートリアル以上に初心者指南とかないから~。Wikiとかも編集中だけど、ゲーム内からブラウジングできないからここでやってる感じね~。……でもここの場所だけ教えて放っておいたのは誰だろ」
「スクラさんですね。βテスターの」
間延びした話し方をする人にスクラさんに教えてもらった経緯を話す。するとまた喧噪に包まれていた場が少し静かになった。スクラさんって何した人なんだ。気のいい感じの人だったけど。
「スクラ正式版で引退してなかったのか」「まぁあの廃人がやめるとは思ってなかったけど」「シュヴァルツんとこ待ってやらないの笑うわ」
笑みと共にスクラさんの名が広がっていくのを見て少しホッとする。なんかやばい人と関わりを持ってしまったのかと思った。
いやそんなことはないと信じていたんだけどね?万が一マナー悪い人とかだったらね?万が一ね。
と、心のうちを聞こえていないはずのスクラさんに送った。
「スクラくんβでは結構有名人だったからびっくりしただけだよ~。そっかー、スクラ君の囲ってる子か~」
「いやフレンド登録はしてもらったんですけどこちらから迷惑をかけただけと言いますか……βで有名な人だったんですね」
「少ないβの中だけどPSは上位に入る人だったよ~、それにクランのメンバーがみんな最前線走ってる人たちでも強くて有名だったの~」
あの蜘蛛をソロで今日中に突破する予定みたいなことを言っていたので、そりゃ強いプレイヤーなんだろうとは思っていたけど、まさか上位レベルのプレイヤーとは思わなかった。
「とりあえず我が冒険者ギルド付属クランWiki'sの伝統ある初心者指南を教えてしんぜよー」
「お願いします」
「まずはー、VRMMO特有のあれはやったかな。ステータスオープン!」
声に出さないで平気ですよーというヤジが飛んでくるが僕もそれはチュートリアルでやっているので知っている。
ただステータスってここから振れるのか……
「ステータスの意味はわかる?」
「まぁだいたいはわかります」
ステータスを開くと7つの英語に付随する数字が並ぶが、特にこのゲーム独自のものはなさそうだ。どれも他のゲームやらで見覚えがある。
【コマイヌ】
剣士
称号 【駆け出しの冒険者】
BLV:2
CLV:2
H P《Hit Point》 : 500
M P《Magic Point》 : 100
STR《Strength》 : 10
VIT《Vitality》 : 10
DEX《Dexterity》: 10
AGI《Agility》 : 10
INT《Intelligence》: 10
スキル
「HPは体力でー、MPはスキル使うときも使うから多少はいるかな~。後はSTRが物理、INTが魔法の攻撃力~。VITが防御力でAGIが素早さでー、DEXが器用さで基本生産職が参照される数値かなー、戦闘だとクリティカル判定とかに関わるよ~」
初期で持っているのは50P。レベルアップで2P。この中から好きなステータスに数字を割り振ることができるらしい。
「……この中でスタミナに関する数字はどれですか?」
「スタミナ?珍しいところ気にするね~。確かAGIと一緒に伸びた気がするけど……」
H P《Hit Point》 : 500
M P《Magic Point》 : 100
STR《Strength》 : 10
VIT《Vitality》 : 10
DEX《Dexterity》: 10
AGI《Agility》 : 10 + 52
INT《Intelligence》: 10
僕はステータスを割り振るためのポイント全てをAGIに流し込んだ。
「AGIに振るならー、段階を踏むのがおすすめかなー、極振りしちゃうとまず……あっ」
「えっ」
ステータスを割り振るとどこに割り振ったか頭上に表示されたらしく、僕の頭の上に大きくAGIの3文字が表示された。
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