第52話亜人①

俺はカレーを1皿ずつ丁寧に入れて亜人たちに渡していく。しかしまだまだ先は長いな。これどれだけ並んでいるんだ?そんなことを考えていると…。


「あ、あの…私の事…覚えていますか?」


うん?俺が前を向くとそこにいた亜人は兎の亜人で女の子だった。だが、どこかでみたことあるような…。あぁ。思い出した!


「あ!あの時売られてた亜人ちゃん!タイチ、おかわり!」


「め…女神様!?覚えてくれてたんですか!?」


そう。奴隷市場で最後に助けた売られかけの亜人だった。確かルアが治療したはず。そんなことをルアの皿にカレーを注ぎながら思い出す。



「それで?何か問題でもあるのか?」


「い、いえ!ただお礼を言っておこうと思って…。」


「別に気にすんな。全員助けたんだから結果は同じだ。」


あぁ〜やべぇ。カレー渡すのめんどくさくなってきた。よし!ゾーン使おう。


「その…ありがとうございました!」


「おう。」


「わ、私に出来ることであれば何でもしますので!」


「そうか。」


俺も自分で作ったカレーを食いながら適当に相打ちする。うん。地球のカレーより味は薄いが全然食べれるな。


「タイチ〜、おかわりー!」


次はエマだった。あぁ〜ゾーンでやったら結構魔力減るなぁ。


「あら、この子…いいわね。タイチ、この子に商業を教えてもいいかしら?」


「ん?あぁ。いいんじゃね?」


「えっ?えっ??」


「ねぇ、あなた名前はなんて言うの?」


「シファです…。」


「そう。シファね。あなたこのギルドで商業をやってみる気は無い?」


「なんか理由でもあるのか?」


俺は商業については全く知らないがエマは知識は豊富だ。実際に商売をしたこともあるらしい。そのエマが1目見ただけで商売に向いていると思ったのだ。何か理由があるなら少し気になる。


「そうね。まだ幼くて顔がいいから。」


「「は?」」


これにはシファも俺も?マークを浮かべた。


「幼いなら知識の吸収は早いわ。それに亜人で幼くて顔がいいなら相手も少しは油断するわ。そこを突いたら上手くいくと思うの。」


「そんなんで相手は油断するか?」


「一流の商人は無理でしょうけど三流程度なら油断するわ。狙うならそこよ。それにタイチに直接お礼を言いに来る度胸もあるわ。それに意外と美形と言うのは商売でも役に立つわ。」


「シファはどうする?やるか?」


「はい!それでタイチ様の役に立てるなら!」


そこは女神様じゃなくて俺なんだな。


「そうか。頑張れ。」


「はい!頑張ります!」


ということでシファはいきなりエマと一緒にカレーを食べながら軽〜くお勉強をすることになった。


「ねぇ、タイチ。1つ気になることがあるんだけど…?」


「どうした、ルア?」


2杯目のカレーを平らげて満足したルアがこちらに来た。少し眠たそうなので俺は膝を叩いて合図する。するとルアは俺の太ももに頭を置いてこちらを向いてきた。


「その傷…時間魔法で回復しないの?」


やはりルアは戦闘と魔法に関しては本当に天才だな。こんなこと普通は気づかないだろ。


「あれは時間魔法で傷を回復したんじゃなくて傷があった部分の時間を巻き戻して傷がなかった時間にしたって前に言ったよな?」


「うん。その時から思ってたんだけど、全身の時間を巻き戻したらいいんじゃないの?時間がかかるだけなんでしょ?」


やはりルアの目のつけ所はいいな。


「それ以外にもあの魔法は欠点があるんだ。」


「欠点?」


「あの魔法はその本体に触っていないと発動できないこと。」


「それならタイチが自分に触れたら発動できるでしょ?」


「まぁ、問題はそこじゃない。もし俺自身の時間を戻して傷を治したらどうなると思う?」


ルアはこの質問に真剣に考えていた。


「あ…。記憶がなくなる…?」


「正解!」


例えば昨日の自分に巻き戻したら今日、それまでやっていたこと全て記憶の中ではなかったことになるんだ。


それは混乱を招くことになる。そしてその一瞬は命取りだ。だから戦闘では使えない。一部分だけ時間を戻そうと思ったら結構繊細な魔力操作が必要だからな。


そして時間魔法にはこれ以外にも弱点がある。こればっかりはルアにも言えないが。


この魔法を何とかして使えば俺が記憶を保ったままルア以上に長く生きるのも不可能じゃないと思うんだよなぁ。


「なるほど〜。そんな弱点があったんだ…。」


ルアの頭を撫でながらルアはすやすやと眠りにつこうとしていた。その時だった…。


「女神様!!お願いします!お姉ちゃんを救ってください!お願いします!」


カレー渡しの横で土下座しながら泣いている男の亜人がいた。狼?獅子?そこら辺の亜人だと思う。


眠りかけたルアも起き上がってそちらを見ている。正直このままルアの寝顔を堪能したかったんだけどなぁ!!このガキめ!


「どうした?お前の姉ちゃんが何だって??」


「お、お願います!お姉ちゃんを助けてください!し、死にそうなんです!!」


「そういうことは早く言え!」


カレーなんか作る前にそう言えよ!ルアも目がバッチリ覚めた。


亜人を抱えて亜人の言う方に向かった。そこで見たのは…。


「お願いします!お姉ちゃん助けてください!」


包帯まみれで皮膚はただれ、屍と言われてもおかしくないぐらいの亜人だった。


ルアは息を飲んだような顔をしている。


「ルア、これは…。」


「…無理…だね。回復魔法はその人の回復速度を早めるだけなんだよ…。こんな状態じゃ…。」


「そうか。」


今も包帯まみれの亜人は弟に何かを伝えようとしている。


「ごめん…タイチ…。」


「気にすんな。一人で何もかもできるなんて幻だ。魔法もそこまで万能だと思ってない。それに俺とルアは無敵なんだ。ルアに出来ないことは――――俺がやる。」

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