第53話亜人②
「ごめん…タイチ…。」
「気にすんな。一人で何もかもできるなんて幻だ。魔法もそこまで万能だと思ってない。それに俺とルアは無敵なんだ。ルアに出来ないことは――――俺がやる。」
「えっ?」
「ガキ、どけ。」
俺は子供の獅子?の亜人をどかして包帯まみれの亜人の前に座る。
「お前はこのキズを治したいか?」
「う…あ…?」
しわがれた声だ。何言っているのかもよく聞き取れない。
「治したいか?」
すると、包帯まみれの亜人はこくんと頷いた。
「よし。やるか。ガキ。どうしてお前のお姉ちゃんはこうなった?生まれつきか?」
まずは情報収集だ。状態が分からないんじゃ手の打ち用がない。
「ち、違う!俺たち2人はその2年前まで…奴隷だったんだ!そこで酷い仕打ちを受けて…。でも、お姉ちゃんは俺を庇ってさらに酷い仕打ちを受けたんだ!それでお姉ちゃんは…お姉ちゃんは…!」
「おい、泣くな。まだあるんだろ?しっかり話せ。こっちは
本当にな。一分一秒を俺は争っているのだ。ここで泣かれては俺が困る。
「うっ…!お姉ちゃんは俺を庇って見たことない薬や変な魔法を受けたんだ!それで…!屋敷から追い出されて…!」
全く。どこの国の貴族もクソ野郎しかいないな。そんなに人をいたぶって楽しいのか?なら、俺はお前たちをいたぶっても全然面白くないぞ?
「ルア、その魔法がかかってすぐの時なら治せるのか?」
「う…うん。すぐなら大丈夫だと思う。ねぇタイチ、何する――まさか!?」
「そのまさかだ。」
「ガキ。お前はどっか行ってろ。ルアこっちに来てくれ。俺が合図をしたらすぐに回復魔法をかけてくれ。」
「うん。わかった!」
俺は包帯まみれの亜人に近ずき頭に手を置く。そして…。
「
その亜人自身の時間を2年前まで巻き戻した。
「ルア!!」
「エクストラヒール」
帝級の回復魔法の中でも最上位に位置する回復魔法だ。
よし!これで魔法と傷は治った!だが、亜人は2年前で幼くなった上に記憶が無くなったのでどういう状態なのか分かってない様子。
「えっ…?えっ?」
「落ち着け。」
ここからが本番だ。正直これだけでも十分だと思うが。
フゥ。初めて使うんだ魔法だから緊張するな。
「
この魔法は
この亜人を2年後にしたのだ。その間の記憶は本来のここまで苦しんできた記憶のままだがな。
仮に
もちろんこの魔法にも代償は生じる。
「ふぇ…?え…?あれ?声…。」
「お姉ちゃん!!!」
「レオン…?」
「良かったぁ良かった!」
姉弟で抱き合っているが俺はそれどころではない。
「ハァハァハァ…!!」
「タ、タイチ?どうしたの?」
「大丈夫だ…ハァ!魔力の使いすぎだ…ハァ!」
この魔法の代償…、それは寿命の減少。アイツの時間を2年飛ばした。その時間分、つまり2年分の寿命を俺は急に削ったのだ。そのせいで俺は息切れが今激しくなっている。それだけでなく目眩もする。そのくせに心臓の音しか聞こえない。
時間魔法最大の弱点…、それは俺の命を削ること。
時間魔法は俺の命に関係することが多い。例えば時間を加速させれば俺の寿命は使っている間だけより早く死に向かう。
こんなことはさすがにルアにも言えない。
「あ…ありがとうございます…。あなたが治してくれたんですよね?」
「あ…あぁ。そ…そうだ。待ってろ。今カレーを入れてきやるから。ルアはすまないがここにいてくれ。そこの亜人に何かあったらすぐに知らせてくれ。俺も初めての魔法だから上手くいったか心配でな。」
「う…うん…。分かった。」
ルアは渋々だが頷いてくれた。俺はルアに背を向けるとすぐに心臓を抑えた。発汗速度も急激に上がる。体中から汗が抜けていく。
「ハァハァ…!グッ!!」
クソっ!今日は血液を失いすぎたこともあってかなりヤバい!このまま死ぬことは無いが苦しい…!!
ルアから離れて誰の姿も見えなくなったら倒れ込んだ。
「ハァハァ…!クソっ!」
急激に寿命を2年削るのは少しやりすぎたか…!
しばらくは安静にするしかないな。30分はほしいところだな。多分明日には完治すると思う。感覚だからなんとも言えないけど。
この問題は俺の時間を止めてしまえば解決するが、そうなると俺は止まったまま動けなくなる。この問題を解決すれば時間魔法は問題なく使えるんだがな。
仮にこれが成功すればルアより長生きできる。何としてもこの方法を探さなければならないのだ。
せめて同じ時間魔法を使える人がいれば!時間魔法の情報がもっとあれば!とは思うが、ユニーク属性はその人特有の魔法。しかもごく稀にしかいない。そんな奇跡があるわけが無いのだ。
「タイチ、何してるのよ?っ!?顔色悪いわよ!大丈夫!?」
とてつもないタイミングでエマが来た。
「大丈夫だ…ハァ。魔力の使いすぎとさっきの傷で血を失っただけだ。」
俺は何とかもう一度立ち上がり、
「い、いやどう見ても大丈夫じゃないじゃない!」
「いや、ホントに大丈夫だ。ハァ。すぐ…治る。」
「いや、顔も青いし息も切れ切れじゃない!どう見ても危ないわよ!」
俺の目の前にエマが立ち塞がる。今の俺の進行速度で抜くのは難しい。
「エマが気にすることじゃないから。だからそこをどいてくれ。」
「今のタイチは私でも勝てそうなぐらい弱ってるのにどくわけないでしょ!ほら横になりなさいよ!」
「いや、本当に…ハァ。大丈夫だから…。」
クソっ!これ以上は立つのもしんどいぞ。だが、さすがにこんなところで倒れ込む訳にはいかない。人の目につかないところに行かないと!
「もうっ!バカ!!」
ポコ!
エマの弱〜いパンチが直撃する。本人は本気なのだろうな。普段なら笑ってやるところだが…
「グッ!!なんてことしやがる!」
俺は倒れ込んで下からエマを睨む事になった。
「そんなに睨んでも効かないわよ。私はタイチの嫁だからね!」
そう言ってるエマだが足が少し震えている。倒れ込んだせいでよく見える。まぁ、こんな悪人面に睨まれたら誰だって怖い。その上威圧は本物だからな。
なんで強がってんの?エマは。
「ほら、私はタイチの嫁で…仲間でしょ…。少しは頼って欲しいのよ。少しも頼ってくれなかったら…その…心配になるし…。」
今のエマの顔を見て少し後悔した。もっとしっかりエマを見ておくべきだった。
「それで?ルアを呼んできたらいいの?」
「エマも…回復属性持ってたよな?」
馬車で見た時のエマの属性は雷、水、風、回復とこの世界では珍しいぐらいに多くの属性を持っていた。
「え…えぇ。けど、ルアより全然使えないわよ?」
「それでいい。さっきあんなこと言った手前悪いんだが俺に回復魔法をかけてくれないか?心臓部分を重点的に頼む。」
「いいけど…私でいいの?」
「さっきまでの威勢はどうしたんだよ。10分だけでいい。頼めるか?」
「うん!」
エマはさっきまでと違い笑顔になった。
本当にツンデレだと思った。ツンデレラという異名をあげたいぐらいだ。
「グッ!ガハっ!」
ヤバい。さっきまで我慢していたから急に来た。
「ちょっと!血、吐いてるじゃない!大丈夫なの?」
「大丈夫だ。気にするな。」
「気にするわよ!?そ…それよりルアみたいに膝枕してあげてもいいわよ。べ、別に私がしたい訳じゃないんだからね!」
「ツンデレラかよ…。」
「な、何よそれ!」
この世界ではどうやらツンデレというワードは広がってないようだな。もしくはエマが知らないのか?
「気にするな。それよりその有り難い申し出は今回は断る。今は頭ひとつも動かすことが出来ないからな。」
「そ、そう…。それは残念ね。」
明らかに落胆している。やっぱりしたかったんじゃないか。だが、頭一つ動かせないのは嘘ではない。無理矢理なら動かせるだろうができることなら動かしたくない。
「まぁ、明日には治ってるだろうから明日の夜にでも頼むわ。」
「そ、そう!なら仕方ないわね。タイチのために私が膝枕してあげるわ!」
急に元気になったな。いやまぁ、それで問題ないんだけどな。
「……私、強くなれるかしら。」
「…強くなりたいのか?」
「えぇ。私がタイチとルアに頼って貰えるぐらい強くなりたいわ。」
「それなら大丈夫だ。エマは強くなる。俺が保証する。」
「そう。なら大丈夫ね!」
エマを強くするプランも実際に組んであるからすぐに強くなれるだろう。
「サンキュー。もう、大丈夫だ。」
俺は足に力を入れて立つ。もう立ちくらみもないし、心臓も少し痛むだけだ。
「本当に大丈夫なの?」
「今回は本当だ。」
「信じるわ。また何かあったら言ってね。」
「おぉ。それじゃあシファに商売でも教えてやってくれ。」
「えぇ!任せなさい!」
俺は2つの皿にカレーをそそいで、さっき治した亜人のところに持っていた。
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