第40話王都動乱

「王都で暴れればいい。」


「えっ?そんなことしたら王都が消しとんじゃうよ?」


これが冗談ではないから怖い。ルアが本気で魔法を使えば王都なんて一瞬で消し炭になるだろう。


「まぁ、俺の言い方が悪かった。だから暴れないでくれよ?」


「それぐらいわかってるよ!詳しく説明してよ!」


「ん〜、1000年前のルアならどうやって偉い天使に会ってた?」


「……私はそんなこと出来なかった。他のみんなから嫌われてたし…。」


やっちまった……。


「本当にごめん。でも、俺はルアが好きだぞ。」


「うん!今はタイチがいる!それだけでいい!」


本当に可愛い。俺はルアの頭を撫でる。


「さっきの答えはいいことをする…だ。それもとびっきりのな。」


「いいこと…?なるほど。確かに強い悪魔を倒したら偉い天使に褒められたっていう話を聞いた気がする。でも、ちょっといいことをしただけじゃ会えないよ?何する気なの?」


ニヤッとした顔で俺はルアに言う。

「…王都の奴隷市場を襲う。」


「奴隷!?でも、王国は奴隷を禁止しているんじゃないの?」


「表向きはな。でも、実際にそんなにキレイな国なんてあるわけが無い。絶対に裏では奴隷の売買が行われてる。貴族向けのな。」


王国の政治で、少なからず貴族たちが不満を抱くことがあるだろう。それを解消するために憎悪の対象である亜人の奴隷を使う貴族もいるだろう。多分王国はそれを知ってはいるが黙認しているんだろうな。


そちらの方が政治には都合がいいから。平民たちはそれに気づきもしないだろう。


俺達らしく、すごくいいことだろ?


「だから、それを俺とルアが暴れて襲う。そうすれば奴隷を買いに来た貴族の目に俺たちが入る。王様は、すぐに俺たちを見つけるだろうな。俺たちに奴隷を解放したことでお礼をするために。実際には「何してくれてんだ?」っていう用件かもしれんが。」


「でも、私達をすぐに見つけられるかな?王都って結構広いよ?」


「そこは大丈夫だ。本来なら真正面から「アレやったの俺たちだ」って言う予定だったが、そんなことしなくてもすぐに分かる。」


「どうし……あ!エマちゃんだ!」


「そういうこと。偉いぞ。」


頭を撫でられているルアから「えへへ」なんて言う気持ちの良さそうな声が聞こえる。


俺たちはこの世界でも目立つだろうな。超絶可愛くて、長い金髪のルア、白髪で目立つ服装の俺。奴隷市場を襲った俺たちの格好が伝われば多分王女さんとその護衛が俺たちだと特定してくれる。


俺が泊まる宿も言っといたし、すぐに分かるだろう。それに王女を助けたことで何かしらのお礼が貰えるはずだ。


「でも、助けた亜人はどうするの?」


「そっちも問題ない。」


実は王都に来る前…王女とも出会う前にルアに頼んで、魔法で地下に100人は暮らせるぐらいのスペースを作ってもらった。そこを俺は魔力でマークしている。そうすることでいつでもゲートが開ける。


さらに大量の金貨で食糧と生活に必要なものも買ってある。そこでしばらく過ごしてもらう予定だ。確実に快適なスペースなはずだ。


それをルアに伝えると、「なるほど〜」と感心していた。


「それで奴隷市場ってどこにあるの?」


「王都を歩いていたら地下に亜人がいる場所を見つけた。そこが奴隷市場だろう。」


「それじゃあ、今日やることって…」


「そう。王都で暴れることだ。」


ということで早速行動開始。


俺が見つけた地点まで向かって、近くに地下に降りれる場所、今回はマンホールから入って後はひたすら下にいく。時には魔法を使って強制的に下に行く。


「ルア、亜人の前だけ変身魔法解いて羽を出しといてくれないか?」


「わかった!」


目的地には割とすぐに着いた。予想通り劣悪な環境で檻の中に鎖に繋がれた亜人がいた。全員衰弱しているのが分かる。それだけでなく、怪我をしている者までいる。


これに俺とルアは顔をしかめてしまう。


俺とルアは武器を使ってを使って檻と亜人につながっている鎖を切る。


「お兄ちゃんたち誰?」「…助けてくれるの?」


「ルア、全員に回復魔法をかけろ。」


「わかった。"ヒール"!」


「聞け!亜人の諸君!俺はここにいる女神の使いだ!女神様の意思により、お前たちを助けに来た!女神様が作ったこの門を通れ!その向こうにはお前たちが生活できるようにスペースが作ってある!食料も沢山あるから食べろ!ここにいる全ての亜人を救った後で事情は説明する!それまで待ってて欲しい…と女神様が仰っている!」


「ふぇ!?タイチ…どういうこと?」


「ルアを女神様にして亜人を救出する。その方が亜人も信じてくれるだろう。」


ルアは外見がとてつもなく美しい。それに加えて天使族の羽があれば女神にしか見えない。1人の人間が言うより、女神様って言うことにしたら信用してくれるかもしれない。


回復魔法も敵じゃないって信用してもらいたいからルアにしてもらった。


「め…女神様!?」「本当に俺たちを助けてくれるのか!?」「確かに回復魔法をかけてもらったが…」


「他の亜人を助けるために時間が無い!早く決断して欲しい…と女神様は仰っている!」


「確かにここより悪くなることは無い!」「他の仲間のために急ごう!」


亜人は次々とゲートの中をくぐってくれた。誘拐犯になったみたいだ!全て通ったらゲートを閉じた。


「な…なんの騒……グェっ」


亜人を助けるために騒いでいたら奴隷商の人間がやってきたが、一瞬で気絶させた。殺したら俺たちだって言う証言をしてくれなくなるからな!


俺の空間操作の範囲に人間が集まっている場所がある。恐らく今、亜人の売買が行われているのだろうな。それを貴族がせりをしているんだろう。オークションみたいだな。


「ルア、出来れば攻撃はするなよ?」


「…なんで?」


どうやら、ルアはさっきの劣悪な環境にいた亜人を見て少し苛立っているようだな。多分俺が奴隷商をやらなかったら、ルアが殺しにかかっていたかもしれない。…エフィーさんも亜人に含まれるからな。


「俺たちの顔を覚えてもらうためだ。」


「……わかった。じゃあ私が我慢できそうになかったらタイチが止めてね。」


俺は何も言わない。ルアを止める自信が無いわけじゃない。俺だって多少はイラついている。止める役目はルアになるかもしれない。極論だが別に俺は俺とルアさえ無事であれば、その他全て殺してもいいと思っている。


ルアは多分今まで仲間がいなかった。だから、仲良くなったエフィーさんや王女さんは守りたいと思っているんだろう。初めてできた友達と言える存在だから。それに昔仲間から、いじめらてた自分と今の亜人が重なるんだろうな。


俺はそんなの関係ない。既に友達と言える存在はいない。


けど、さっきの亜人たちの鎖につながった姿がどうしても重なっちまうんだよ。鎖から解き放ってすぐのルアの時に…昔の俺に…。何もかもに失望したあの顔が。


それが気に入らない。


それにルアに今のような顔をさせたからには多少なりとも後悔してもらうつもりだ。不快なもの見せやがって。


「さぁさぁ!やってまいりました!今回も品揃えのいい奴隷が沢山いますよ!では、早速いって参りましょう!こちらの亜人!傷もない、キレイな女の亜人です!」


「金貨10枚!」「金貨15枚!」


俺もルアも足を止める。亜人の女の子の体は震えていた。明らかに怯えている。


「……ルア、俺がやる。ルアはあいつを解放してやってくれ。」


「…うん…でも、全部はやらないでね…?」


「それでは金貨20枚で……ブホォ!」


俺は奴隷商を空間操作で吹き飛ばした。


「な…何が起こった!?」「誰だ!?」


なんて言う貴族の声が聞こえる。


…俺がこれからすることは間違いなんだろうな。この世界にはこの世界のルールがある。亜人を虐げるのはこの世界では正しいのかもしれない。俺が元いた世界のルールをこの世界に持ち出すのは間違いなのかもしれない。


……帝国で書物を読んでいた内容を思い出す。ある者は亜人に恋をしてしまった。これは罪だった。ある者は亜人を助けた。これは罪だった。


ある貴族は助けてもらった亜人を、なんの恨みもないのに亜人を殺した。自分のプライドのために。自分の欲望のために。これは罪ではなかった。


これらは本当に正しいのだろうか…?亜人と人間の差は何がある?俺から言わしてみれば人間の方が醜いぞ?


俺はこの世界で生まれてこの世界で生まれ育ってきた住人じゃない。それがどうした。この世界のルール?それがどうした。俺には関係ない。


決めた。俺は俺の価値観、倫理観にしたがって動く、そのために力を使う。本当に間違いだと言うならルアが止めてくれる。


やりたいことをしよう。やりたいことを俺たちなりに、自由にしよう。それが間違いだとか正解だとか知らない。


誰にも望まれてなくていい。俺がやりたいように。無責任に、暴力的に、最低に。どうせ俺に仲間なんてルアしかいない。好きなようにやりたいことを自由にやってやる。


ごちゃごちゃ考えるのは性に合わん。


やることはシンプルだ。邪魔するものを、気に入らないものをぶっ潰す。


「初めまして、俺はただの冒険者だ。この国では奴隷が禁止されているはずだ。よって貴方たちを全員捕らえさせてもらう。」


「たかが冒険者風情が!」「いい気になるなよ!」


近くの兵士が俺たちを捕まえようと舞台の方に向かってくる。


「動くな。」


空間操作で動くことすら許さない。


「なっ!?」「何をしている!さっさとやつを殺せ!」


「喋るな、貴族の豚ども。うっかり殺してしまいそうだ。」


「貴様っ!何様の……」


「喋るなって言っただろ?」


俺はうるさい貴族を空間操作で吹き飛ばした。


そして空気を凍らせて一人一人首の前に氷の針を作る。


「現実を理解しろ?今、喋ったら殺す。すぐにてめぇらが所持してる奴隷を解放しろ。てめぇらの顔は全て覚えた。やらなければお前らの家族ごと死なんて生ぬるい程の地獄を見せてやる。」


どうやら黙って聞いてくれたようだ。ルアの方も既に回復は終わっている。ちなみに全員の顔を覚えたのは本当。30人程度なら、一瞬で覚えれる。


すると急に爆発が起こった。魔法か、そもそもこの施設に爆弾があったのかもしれないな。俺は魔法を解除した。本来の目的は俺たちのしたことを広める…だからな。殺すことではない。どうやら逃げたようだ。


「タイチ…結局私の分残してない。自分だけスッキリするのはずるい。」


「悪い。まぁ、安心しろ。アイツらとはまたすぐに会える。その時に思いっきり魔法を使って痛めつければいい。とりあえず、俺たちも行くぞ。その子連れてな。」


俺はゲートを開いて亜人たちを送った場所に向かった。おおよそ50人ぐらいの亜人が奴隷になっていた。

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