第41話仮説

しばらくの間は亜人たちにはルアが作った地下で過ごしてもらうことになった。亜人たちも特に不満がないみたいだ。むしろ、快適なんだと。


俺たちは宿に戻って今後のことを話す。


「このまま国が迎えに来てくれるまではここにいるか。」


「ねぇ、そのあとはどうするの?」


「ダンジョンに潜る。」


「……亜人たちは?」


「その前に1つ俺の考えを聞いてくれないか?」


「考え?」


「あぁ。ラギルダンションを攻略した時の勇者の仲間の記憶を見て、最後にあいつが言った言葉覚えてるか?」


『見ているものが全て敵、味方とは限らない。気をつけろ』


「うん、覚えてるよ。」


「ずっと謎だったんだ。ダンジョンを初代勇者の仲間が作ったと言われてもなんとも思わないが、何故あんなものを作ったんだ?」


「?どういうこと?」


「初代勇者は魔王を倒した。天使族は悪魔に勝った。これ以上問題があるようには思えない。なのに天使族は今の時代には誰もいない。」


「でも、人間とか、亜人とか、魔人とか他の種族はいるんでしょ?天使族って今の人間ほど人数は多くなかったから、それに負けたって言うことも考えられるよ?」


「かもな。けど、どこにもその記録がなかった。もし、天使族と争ったのならとんでもない出来事だ。それが記録にはない。少なくとも帝国には。天使族と悪魔が戦った話があるのに、そのあとの話はひとつもなかった。」


この世界は魔法が発達している。帝国には500年前ぐらいの記録は存在した。けど、その前の記録は一切なかった。おかしいとしか思えない。何らかの方法で記録は残すことが出来るはずなんだ。魔法が発達しているんだから、見つけることも出来たはず。…俺が地球から来たからそう思うだけかもしれない。けど、これには何者かの意図を感じる。


「それに勇者と亜人にも思うところがある。」


「勇者はともかく亜人?」


「あぁ。歴代勇者が今まで元の世界に戻ったことがないって言ってたけど、ルアの記憶から言うなら勇者の仲間の1人は空間属性を持っていたんだろう?なら、全くの不可能って訳じゃないだろ。これは憶測でしかないがな…。これも憶測だが、亜人に関しては従順すぎるってことが変だ。」


俺も空間属性を使っているが、ゲートをもっと極めることが出来れば不可能では無いはずなんだ。それを試しもせずにダンジョンを作った…だと?


「?どういうこと?」


「1000年前も亜人は奴隷みたいに扱われてたんだよな?」


「うん…私の記憶が正しければ…。」


「1000年…1000年だぞ?その間ずっと亜人は反乱を起こさなかったのか?」


地球で1000年もあれば王政に対する市民の反乱なんか沢山あった。それなのに、この世界の亜人は1度も反乱が起こった記録がないんだよ。1度くらい決起して、人間に反乱を起こしてもいいだろう。チャンスもあったはずなのに。


「確かに……。ちょっとおかしいね。」


ついでに言うなら宗教もそうだ。この世界は少し強すぎる上に、ひとつしかない。別にこれは俺の勝手な違和感だが。


「これらに確証はない。それに記録だってまだ帝国のものしか見ていない。俺が地球から来たから変だと思うだけかもしれない。けどここでさっきのダンジョンの意味に繋がる。」


「えっ?」


「天使族はルア並とはいかなくても、かなり魔法を使えたんだろ?」


「うん。今の私より使える人もいたよ。」


「なら、初代勇者の仲間たちと協力したら、元の世界に帰る魔法、魔道具のひとつぐらい作れたはずなんだ。古代の魔法は現代より発達していたんだから。それに魔力操作と魔法陣もだ。あれは人間にも簡単に使える。その上に有用性が高い。それが現代では無いだと…?とてもじゃないが俺は信じられない。」


「なら、何故帰らずにダンジョンを作ったのか?それは…帰ることが出来なかった。俺たちと同じように来たけど、帰ろうとしたが出来なかった。つまり、何者かに邪魔されたとしか思えない。」


俺がこの世界に来た時の帝国の奴らの言葉…。


『そもそも御使い様をこちらの世界に呼んだのは私たちではございません。我らが世界をお作りになった創世神"ゼヘム"様です!我々はただシャルロット皇女の預言の通りに行っただけで我々は何もしていません!これも全てはゼヘム様の素晴らしきご意思なのです!』


ならば邪魔したやつとは…?


「か…み…様?」


「そうなんだよ。俺にはそうとしか思えない。」


そう、全て神の仕業と考えれば納得がいってしまう。魔王が何回も現れることも。勇者が今まで呼ばれて帰れることができなかったことも。記録がないことも。亜人のことも。ルアの仲間…天使族がいないことも。


これはあくまで俺の予想。しかも神様が万能だぜ!ってことと、勇者は元の世界に帰りたかったってことが前提。もしかすると、魔王より上位のやつなのかもしれない。本当に勇者は帰りたくなかっただけなのかもしれない。


けど俺たちだって来た時は帰りたかったんだ。ならば実際に帰らなくても帰る方法ぐらいは探すだろう。今の俺も探しているんだし。


それに神様がどうやってそんなことをしているのか、その目的は何なのか?皆目見当もつかない。


「でも、そんなこと言われたらみんな敵に見えない?宗教に入ってる人全員神様の手下に見えちゃう。」


「だから、ダンジョンの言葉だ。」


「あ、なるほど…。」


こう考えたら一応無理矢理だが、辻褄は合う気がする…。


「それで亜人の方だが…」


「亜人…。あっ!」


ルア、完璧に忘れてたな…。


「俺は亜人のギルドでも作るつもりでいる。」


「?珍しいねタイチがそんなことするなんて。」


まぁ、確かに俺は俺とルアさえ良ければほかはどうでもいい主義だからな。


「理由は3つ。1つ目は金儲け。2つ目は亜人の地位向上。3つ目は兵士の育成。」


表向きはギルド、裏では兵士育成だ。


1つ目は言うまでもないな。


2つ目は色々とある。まず、俺が元の世界に帰るにあたって邪魔するもの、さっきの仮説からそいつを神としよう。そいつは理由は知らんが亜人を常に奴隷にさせようとしていた可能性が高い。そこで俺が亜人の地位を向上させることでそいつを刺激してみようということ。それで神が何らかのアクションを起こすかもしれないし。あとはあの胸糞悪い環境にいる奴隷を解放する目的もある。別に喜んで奴隷になったやつはほっとくが亜人だから、っていう理由で奴隷になったやつは解放する。これでアクションを起こしてくれたら嬉しいんだけどな。


3つ目は帝国と戦そ……じゃなくて、魔人との戦いを想像したものだ。まぁ、亜人のギルドを作るんだから、どうせ帝国とも神聖国ともやり合うことになる。そこに俺も加担するが、亜人が主に活躍することで地位向上にも繋がる。俺はあくまでそのサポートだ。


どうだ!このナイスな作戦!一石三鳥だろ?


…亜人はこの世界では獣扱いされている。なら、味方が多い可能性が大きい。全ては味方では無いだろう。何人かは敵だと思う。けどまぁ、そっちの方が都合がいい。見つけたら情報を吐いてくれるかもしれないし。


しかしこれには問題がある…


「でも、ギルドって何するの?それにタイチ…こういうの管理出来ないでしょ? 」


「ギルドでやることは大丈夫なんだがなぁー。そこなんだよなぁ。」


そう誰が運営するかである。俺とルアにはそこの知識がない。多分亜人たちにもないと思う。なら、できる人を探せばいいだろうって?


難しいな。亜人のギルドに入る人間なんか極々少数だぞ?国に1人いれば上出来だ。


まぁ、そこは何とかしよう。最悪奴隷市場で出会った貴族にやらせよう。どうせ奴隷を解放なんてしてないだろう。宣言通り、死ぬことすら許さない地獄、もとい運営をやってもらおう。


「まぁ、そこら辺はあとで考えよう。最悪国王でも脅は…じゃなくて、国王からのお礼で人を借りればいい。」


ルアがジト目で見てくる。


「それにいい人材は既に見つけてる。経験はなさそうだがな。」


「えっ?誰なの?」


「内緒だ。ほら寝るぞ。俺の予想なら明日には国が動くだろうから。」


さて、勝負は明日だな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る