第22話価値

「私を殺してくれないかな?」




はぁ??



もはや意味がわからん。助けたと思った堕天使から堕天使を殺してくれっていう依頼が来た。うん、意味がわからないな。


「意味がわからん。死にたきゃ死ねばいいだろ?」


「…私じゃ私を殺すことが出来ないから…。」


そんな寂しそうな表情で言うなよ…。あぁ、なんか今のこいつを見ているとイライラする。なんでかは分からないが。


「私は…昔の記憶があまりない。君が寝ている間に思い出そうとしたけどあまり思い出せなかった。」


記憶喪失と言うやつか。それはあの鎖の影響なのかもな。俺がそう思っている最中も彼女の話は続く。


「私の記憶はいつも仲間が私の事を嫌っている。死ね、消えろ、なんてていう暴言は何回も聞いた。みんなとわたしは違うから化け物って言われた。私に生きている価値は無いなんてみんなからも言われたし、私もそう…思う。もう生きているのが辛い。だから殺して欲しい。この苦しみしかない私の生を終わらせて欲しい。」


あぁ、やっとわかった。こいつがなんでイラつくか。


俺に似てるんだ。仲間だと思ってたやつに裏切られた俺に。


チッ!と舌打ちしてから




「おい」




と彼女を呼ぶ。彼女が俺の方を向いた瞬間に




パンっ!!




思いっきり頬を平手打ちでぶっ叩く。




「ふざけんな。なに思いだせもしねぇ過去だけ見て今から逃げてんだよ!仲間に裏切られて、仲間に言われて死にたいだぁ?甘い事言ってんじゃねぇぞ!

化け物だ?それがどういう事なのか知らねぇが、他のヤツらと違うことは悪いことじゃねぇ!むしろてめぇだけの長所じゃねぇか!

生きる価値がない?それを決めるのはお前とお前の仲間だけじゃねぇ。お前が寿命が尽きるまで生きて!そこまで出会った人とお前自身が!決めることだ!!けど、お前に価値がないということは絶対にありえねぇんだよ!俺が今!お前に価値を感じてるからな!!

生きてるのが辛いだぁ?そんなもん当たり前だ!!どんなやつにも大なり小なり辛いことはある!けどな!大きな辛いことも我慢してみんな生きてんだよ!それに、生きてりゃあ、楽しいこともある!悲しいこともある!嬉しいこともある!辛いことばかりってことは無い!今まで辛いことが多かったんなら!!これから辛いこと以外が増えるだろうよ!!」


堕天使はピクリとも動かないが、俺は構わずに続ける。堕天使が聞いていまいと関係ない。


「俺がお前を助けたことを意味がなかったみたいに言うな!!生きてる者がやったことの全てには意味があるんだよ!!

それに、本当に死にたいって思ってる奴は「殺してくれ」なんて頼まないし、理由なんて言わない。そういうやつは静かに自分で死ぬよ。死ねなくても死ぬ方法探すよ。自殺なんて逃げの最終手段で弱いやつがやることで、自分からまだある命と可能性を閉じるなんて馬鹿げてるがな。お前がそうしないって言うことは死にたくないんだろ?まだ生きていたいんだろ?お前のその寂しい顔が証拠だ。」


まだ動かないが、少しだけ動揺した。見れば目元が赤くなってる。死ぬ勇気がこいつにはなかった。だから、俺に殺してくれって頼んだのは間違いないな。


「チッ!もしまだ死にたいなんて言うなら、その命俺によこせ!俺のために生きろ!

生きる意味なんてのは1つじゃねぇ。化け物と呼ばれたことが生きた意味の1つなら、俺のために生きることも生きる意味の1つだ!そうやって自分で生きる意味を増やしていけばいい!」


言い切ってからすごい後悔した。17年しか生きてない餓鬼が何言ってんだって話だよな。


でも仕方ないだろ?昔の俺に似てるその姿に腹が立ったしょうがないから。


頭をガシガシとかいてから、堕天使の方を向いた。


すると


堕天使は泣いていた。


う、嘘だろ!?そんなにビンタ痛かったのか!?いや、ムカついたから全力でやったけど!死にたいとか言ってるからこれぐらい余裕かと思ってたんだけど?!いやでも、頬は赤くなってるな。やりすぎたか…。


「…うっ…ひっぐ…うぅ…」


堕天使が泣きながらこっちを見てくる。


「な…なんだよ…?」




「うぅ…ありがとう…」


「は…?」


意味がわからない。思いっきりビンタして毒吐きまくったのになんで感謝されてんだ、俺?




「…う…うぅ…ぐぅ…ひっぐ…」




それから泣き崩れてしまった。このままスルーする訳には行かないよな。未だに泣いている堕天使の頭と背中を撫でることにする。




膝枕してもらった礼だ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




「ごめんね、ありがとう。」




「あ…あぁ、気にするな。元はと言えば俺が原因だからな。」


うん、でもまぁ体感で1時間ぐらい撫でてたのはキツかった。ずっと俺、やっちまったな〜っ思ってたからね?


「私はもう「殺して」、なんて言わない。今は助けてくれた貴方のために生きたい!だから、私も連れてって欲しい!!私の生きる意味と価値を探したい!」


「そうかよ…。ま、好きにしたらいいんじゃねぇの?てめぇの人生だし。」


こういう時にもう少し気が利く言葉が言えたらなぁー。なんてこと考える。


「うん!!よろしく!」




だけど彼女の笑顔を見て安心した。そこにはさっきまでの寂しい顔がなかったからだ。


「あれ?そういえば今更だけど、名前なんなの?」


全く気にしてなかったが、まだ名前を聞いていない。ていうか名前も知らないやつにめっちゃ怒ってたのか…。失礼なやつだな。まぁ、今更か。



「名前、覚えてない」


「は?」


「誰も私を名前で読んでる記憶が無い。だから、名前も覚えてない。みんな私のことを化け物、クズ、ゴミとしか呼んでない。もしかするとそれが名前なのかもしれないけど……。」


マジかよ。名前ないのにどうしたらいいんだ。でも、化け物とかクズとかって呼びたくはないしな。それが名前ってことはまず無いだろう。


そう思っていると、


「名前つけて」


「は?」


「覚えてないから名前をつけて欲しい。」


おいおいマジかよ。とてつもない大役が回ってきたもんだな。




「じゃあ、ルアだ。」



「ルア?なんで?」


「俺が元々いた場所でな?神話で堕天使が出てくるんだよ。お前は堕天使に見えるからな。その中で1番有名なのがルシファーだ。そこからもじってルアだ。」


まぁ、ルシファーって悪魔の王サタンの別名とかって言われてるんだけどな。そんなことはスルーだ。


ルシファーって天使の中で最も美しく、光をもたらすものって言う意味があるらしい。


彼女を見てるとその名にふさわしいなと思った。美しく、明るい性格が、体現していると感じた。


「うん!気に入った!私はルア!君の名前は?」


「それは良かった。俺の名前は太一。司馬太一だ。」


「タイチか。覚えた!これからよろしくね?タイチ!」


そんなふうに笑うルアを見て、少し寂しかった心が暖かくなるのを感じた。


「あぁ、よろしくな。ルア。」


俺はルアに苛立つことはすでに無くなっていた。


こうして俺とルアは出会った──









後書き

ヘイトが沢山来る予感がします。私もいつか太一みたいなことを言いたい…




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