第4話 通話

 土曜日。学校が休みで、明日も日曜日だと思うとついつい「今日ぐらいは」という気持ちでダラダラしてしまう。

 自室のベッドでスマホを片手にネットサーフィン。それだけで数時間は余裕で潰せる。

 そんな凛太郎のスマホにメッセージアプリの通知がピコンと表示された。


「ん?」


 開いてみると、詩春からのメッセージが届いていた。


 ――先輩。


 とだけ書かれている。

 そして続けて、


 ――結婚したいです。


「ブッ!」


 思わず吹き出してしまう。


 ――打ち間違いました。


 ――声が聞きたいです。


 何をどうしたら、その文を打ち間違えるんだ? 

 一応、詩春なりのジョークと受け取っておく。

 すると通話がかかってきた。もちろん詩春からだ。


「もしもし?」

『私です』

「ああ」

『先輩の彼女は預かりました。助けたければ、要求に従ってください』


 急に何かが始まってしまった。とりあえず乗っておく。

 少し声のトーンを落として、


「要求は何だ?」

『先輩が欲しい』

「プロポーズしてくんな」

『先輩の胃袋が欲しい』

「料理を練習しろ」

『お金が欲しい』

「犯人らしいこと言うな。バイトでもしろ」

『トイレに行きたいです』

「行ってこいよ」

『分かりました』


 するとガタガタと物音が聞こえ、扉が閉まる音も聞こえる。


『今からします』

「通話を切れ!」

『大丈夫です。小さい方なので』

「大丈夫じゃない!」


 とそこで凛太郎から通話を切った。

 数分が経って、再び詩春から通話がかかってくる。


『終わりました』

「良かったな」

『いきなり切るなんて酷いです』

「いきなりトイレに行く方がおかしいわ!」

『では、これが最後の要求です』

「まだ続いてたのかよ……」

『先輩、明日は暇ですか?』

「まぁ、予定はないぞ」

『明日の正午。駅前のパン屋の前に来たら彼女は無事に解放します』


 なるほど。デートのお誘いか。


「分かった。従う」

『では、楽しみに待ってます』


 今度こそ通話は終了した。

 まったく愉快な誘拐犯だったな。


 でも少しだけ楽しかった凛太郎であった。

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