第3話 髪の長さ
今日も文芸部部員の白川詩春は本を読んでいる。そして部長の九重凛太郎は適当にスマホを弄りながら時間を潰していた。
すると前の方で本を閉じる音が耳に入る。スマホの電源を落として視線を向けると、詩春は小さく嘆息した。
「どうした?」
「いえ、最近髪が伸びてきたせいで本を読むときに邪魔で」
確かに詩春は髪が長いよな、とは思う。いや、女子なら普通の長さなんだけど。
「切ればいいじゃん」
「でも、先輩は髪の長い女性が好きなんですよね」
「おい、待て。誰がいつそんなことを言った?」
「部活動会議の時に先輩は生徒会長に見惚れていましたので、あんな風に綺麗なロングヘアーが好きなのかと思いまして」
「誤解だ。確かに生徒会長は綺麗な人だ。だが見惚れてなどいない」
「浮気の言い訳は醜いですよ」
「おいおい、さらに酷くなったじゃねーか!」
「嘘です、安心してください。先輩は私以外に仲の良い女子がいない非モテ男だということは知っていますから。浮気は疑いません」
「もう勘弁してくれ。俺のライフはマイナス値に入った」
後者に関しては真実なのがまた泣けてくる。
ていうか、また話が脱線している気がする。
「なんの話だったっけ?」
「私の髪のお話です。では、先輩は別にロングヘアーにこだわりはないのですね?」
「ああ。ていうか、どちらかと言うと髪の短い方が好きだ。なんて言うんだっけ? えっと……ショートボブ? ボブカット? あのふわりとした感じの髪だ」
「なんてことでしょう。先輩がそこまで女の子の髪にこだわりが強い変態さんだったとは」
「おい、酷いこと言うな! 別にいいだろ。詩春にもそれを強要してないんだし」
「いえ、私も髪を短めのボブカットにしてもらいます」
「え、いいのか? 別に無理しなくていいぞ」
「いいえ、それでさらに先輩が私に惚れてくれるのなら本望ですから」
詩春は行動力のある女の子だ。
すぐに美容室に行ってくると言って、部活を早退してしまった。
翌日の放課後。
「先輩、どうですか?」
部室にやってくると、本当に詩春は髪をバッサリと切って、話していた通りのショートボブの髪型になっていた。
「……」
「先輩? やっぱり似合ってませんか?」
詩春は相変わらず表情を変えないが、少しだけ不安な気持ちが瞳を揺らす。
凛太郎は素直に答えた。
「最高に似合ってる。可愛いぞ」
僅かに詩春の目が丸くなる。
「私のこと、もっと好きになりましたか?」
「ああ、もっと好きになった」
「……」
「…………」
「…………ご両親のご挨拶はいつがいいでしょうか」
「まだはえーわ!」
だが、どうやらそれぐらい詩春もテンションが上がっているらしい。分かりづらいけど。
こうして凛太郎の後輩はより魅力的になった。
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