Spooky Halloween⑮




大きな×印が書かれている部屋の中



「リオン・・・? いる・・・?」


真っ暗な部屋に、アンジュの高い声だけが静かに響き渡る。 アンジュは今黒猫であるため、より周囲が見えなかった。 部屋には冷たい空気が流れ込んでいる。

とりあえずリオンの名を呼びながら、物や壁にぶつからないように注意しながら、確実に奥へと進んでいく。 すると、もう一枚の大きな扉を発見した。 

躊躇うことなく扉に手を当て、強く押してはみたもののビクともしない。


―――戻ろう。


視界がよかったら色々と探るのだが、ここまで何も見えないとどうすることもできなかった。 リオンからの返事もないため、きっとこの部屋にはいないのだろう。

一度諦めると入口まで戻り、扉に手を当て耳を澄ませる。 そして小さな声で、バッドの名を呼んだ。 だが数秒経っても、彼からの応答がない。


―――あれ・・・?


恐る恐る扉を少し開け、外の様子を確認した。 妖怪は何人か廊下にいるものの、こちらへ注意を向けてはいない。 今なら部屋から脱出できそうだ。


「はぁッ、はぁ・・・」


妖怪は入ることのできない部屋から出てきたということは、見つかれば人間だとバレてしまう。 だから、常にアンテナを張っていなければならない。

緊張を途切れさせることができないため、自然とアンジュの心拍数も上がっていく。


―――バッド、どこへ行っちゃったんだろう・・・。


数分待っても現れる気配はないため、心配しながらも一人でリオンの捜索を再開した。 長い廊下の部屋を、一つずつ入り確認していく。

だがやはりそんな簡単には見つからず、何度も心が折れそうになった。 いや、リオンが見つからないだけならまだいい。 

彼を探している間、周囲から聞こえる自分を非難するような声がずっと耳に届き、とても怖かったのだ。


「あの黒猫、この森にいたっけ?」

「見慣れない奴がいるなぁ」

「誰かあの黒猫と知り合いの奴、いない?」


こちらをチラチラと見ながら小声で話しているのだが、アンジュの耳には全て彼らの言葉は聞こえている。 目が効かない分、耳はよく利くのだ。

隣にバッドがいてくれたら誤魔化すことはできたのだろうが、今は一人で乗り越えるしかない。


人間だといつバレるかも分からないまま、リオンを捜し続け数十分――――

ようやく一階の半分の部屋を確認し終えた時、廊下から外へと出るガラス張りの扉を発見する。 綺麗に整えられた植え込み、威厳のある石造、そしてとても大きな噴水。 

綺麗にライトアップされ、煌めく水がたくさんの色を描いては流れていく。 その光景に魅了されたアンジュは、フラフラと誘われるように足を運んだ。 ここは屋敷の裏庭なのだろうか。 

周りにはいくつかの木が並び、屋敷の廊下で囲まれている。


「綺麗・・・」


目の前まで来たアンジュは、艶やかに輝いている噴水を流れる音と共にしばらく眺めていた。 

水源から流れる音と、勢いよく湧き上がって水面に打ち付ける音が見事に混ざり合い、とても綺麗な音色を奏でている。 光の刺激と水際の涼しさ十分に感じた後、そっと目を閉じ耳を澄ませた。 

そうすることにより、水の音をより鮮明に聞けると思ったのだが――――


―――誰か、いるの?


滑らかな水の音を打ち消すように、かすかに聞こえた誰かがすすり泣くような音。 それに反応したアンジュは、周囲を軽く見渡した。 すると一本の木の横に、大きな妖怪が佇んでいる。 

少しの間様子を見てみるが何も動かないため、声をかけることにした。


「あの、どうかしました? ・・・ッ」


その男に近寄った時、アンジュは内心で少しの恐怖を覚えた。 何故ならばその男の身長は、160センチない自分の身長と比較する必要もなく巨大。 

“巨人”と形容するのが相応しい体格をしていたためだ。 いや、それだけではない。 頭や腕には継ぎ接ぎのような跡があり、その厳つい顔にはネジのようなものが深く埋め込まれている。


―――まるで、フランケンシュタインみたい・・・。


それでも足を止めなかったのは、そんな巨人がすすり泣いていたというギャップからだろう。


「この間抜けがついに井戸にはまったのさ! いくら図体がデカいからって靴と井戸を間違えるなんて、馬鹿な奴!」


近くで囲むようにはやし立てていた三人組――――といっても、どう見ても人間ではなくネズミ男というべきだろうか――――の、一人の言葉。

それに続くよう残り二人も、飛び跳ねながら罵声を浴びせていた。


「お、おで・・・。 靴と、間違えてなんか・・・」

「あぁーん? 図体はデカい癖に、声は小さくて聞こえないね!」


「ちょっと止めて! どうして助けてあげようとしないの?」


アンジュの言葉に、三人組は顔を見合わせケラケラと笑い始めた。


「どうやって助けるってんだ? コイツは図体がデカいくせに、非力なんだぞ? 俺たち三人でコイツのデブな足を持ち上げるなんてことは、絶対にできっこない! 

 そんなこと考えたら分かる・・・って、何だお前新入りか?」


―――・・・そっか。

―――力の強いはずのフランケンシュタインが、ここでは力が弱い。

―――だから、自分の体重を制御することができないんだ。

―――私が知っているフランケンシュタインなら、きっと井戸なんて軽々と壊しちゃうから。


「だからって、からかっちゃ駄目だよ。 もし自分が同じ目に遭った時、笑われたらどう思う?」

「何だー? コイツ! つまんねー奴が来やがった! 絶対にモテないな!」

「モテない! モテない!」

「ぶーす! ぶーす!」

「・・・もういい。 巨人さん、私が助けてあげるね」


そう言ってアンジュは、巨人へと向き直した。 近くで見れば見る程、彼は大きく思える。


「ちッ、もう行こうぜ。 あーぁ」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る