Spooky Halloween⑭
デッドゴッドの屋敷の前
バッドがアンジュと、屋敷の中へ入ろうと門を潜り抜けているところまで遡る。 中へ入る前にバッドは何かを思い出し、アンジュへと振り返った。
「そうだアンジュ。 ちょっと待っていてくれる?」
「え? どこへ行くの?」
「すぐに戻るからさ」
バッドはコウモリの姿に変身し、上空へと羽ばたいていく。 アンジュを一人にするのは心配だが、そうも言ってはいられない。
―――確か、エルフはほとんど屋根裏部屋にいるって言っていたよな。
―――上へ行ったら、エルフを見つけられてアンジュと会わせることができるかもしれない。
バッドはこの屋敷にはあまり来ないため、屋根裏部屋がどこに存在するのか分からない。
―――・・・あれ?
―――窓が空いてる。
最上階であろうところへ来ると、不自然に窓が開かれていた。 窓枠へ着地し、廊下を見渡す。 廊下は短く、誰かがいる気配はない。 そこで一度、コウモリから人の姿へと戻る。
声を出すことができないためだ。
「エルフー? いるかぁー?」
呼びかけてみるが、返事はない。
―――エルフは外出中か何かかな。
―――つっても、ここには部屋があるとは思えないけど。
眺めているうちに、目の前に大きな鏡があることに気が付く。 そこには真っ黒な服を身に纏った自分が、映し出されていた。 特に意味はないのだが、鏡の前で格好付けてみる。
―――・・・何をやってんだろうな、俺。
エルフはいないため捜すのを断念し、アンジュのところへ戻ることにした。
「バッド! どこへ行っていたの?」
「いや、何でもないよ。 さぁ、中へ入ろうか」
鏡の前でポーズをとっていたことを見られてないことに少し安心し、屋敷へと案内を始めた。 下からは四角になっていて、何も見えなかったのだろう。
「さて、どこから捜す?」
「んー、捜したところが分かりやすいように、端っこからかな」
「いいよ。 じゃあまずは一番左奥へ行ってから、順に捜していこうか」
二人揃って左の長い通路を歩いていると、アンジュは突然尋ねてきた。
「そう言えば、部屋はどこも勝手に入っちゃっていいの?」
「あぁ。 本来は勝手に入っちゃ駄目なんだけど、ハロウィンである今日だけは特別どこの部屋も出入りが自由なんだ。 ある一部屋を除いてね」
「ある一部屋?」
「この館の主人なんだけど、明らかに他の部屋とは違うから気にしなくていい」
「なるほどね。 とりあえず、怒られることはなさそうかな」
そう言って、彼女は微笑む。 今は二人だが、廊下には他の妖怪がたくさんいると言うのに、アンジュは危機感を感じていないようだった。
確かに妖怪の姿で長時間いれば、人間の匂いは薄くはなってくる。 とはいえ、どんな拍子にバレるのか分からない。 その時、アンジュの命の保証はない。
「どうして、そんなに楽しんでいられんの?」
「だってこんなに大きなお屋敷、私入ったことないんだもん。 もちろんリオン捜しも大事だけど、何か探検しているみたいでわくわくするでしょ」
彼女はそう言いながら、軽くスキップをしながら廊下を進んでいく。 流石にバッドも呆れ顔である。 更には前から来た妖怪と、ぶつかってしまうのだから。
「きゃっ!」
「ッ、アンジュ!」
だが相手は何も感じていないようで、アンジュのことを一瞥するだけでそのまま何もなかったかのように通り過ぎていく。
『ごめんなさい!』と頭を深く下げて謝っているアンジュをよそに、バッドは“やれやれ”といった態度で彼女を追い越した。
少しはしゃいだことに反省したのか、バッドの後ろを静かに付いてくる。 そんな彼女に更に緊張感を持たせるため、言うのを躊躇っていたことをここで伝えることにした。
「本当は、言わないでおこうと思ったんだけどさ」
「?」
「この屋敷をのんびりと探検している時間なんて、ないかもよ?」
「え、何で?」
「・・・この屋敷に迷い込んだ人間を、アイツらは食おうとしているから」
「ッ・・・!」
ジャッキーは『人間をデザート代わりに後で食おう』と言っていた。 人間をただの食糧でしかないと思っている妖怪もいる。
アンジュを不安にはさせたくなかったため言うのを控えていたが、流石にここまで呑気だと困る。 バッドも人間に協力しているというのがバレたら、どうなるかが分からないのだ。
「じゃあ早く見つけ出さないと!」
「だから俺はさっきからそう言っているだろ」
バッドは大きく息をついた。 あまりにズレた感覚に、先行きが不安になったのだ。
そうこうしているうちに、左側通路の一番奥へと辿り着いた。 奥の扉には、大きな×印が書かれている。
―――あれ、確かこの部屋は・・・。
「ねぇ、この部屋って入ってもいいの?」
アンジュも何か思うことがあったのか、バッドにそう尋ねてきた。
「あー・・・。 確かに今日はハロウィンだし、入っても言い訳ができるからいいと思うんだけど・・・。 この部屋には、妖怪が入ることはできないんだ。
中には入れないように、何故か結界が張ってあって」
「そうなの? じゃあ、私は入れるってこと?」
「え?」
ふいにそう言われ、バッドはアンジュの方を見た。
―――アンジュは今はこんな姿だけど、元は人間だったっけ。
「・・・そうだね。 アンジュなら入ることができるかも。 人間の子も、もしかしたら安全なここへ逃げ込んだ可能性もある」
「じゃあ私、一人で見に行ってくるよ」
「大丈夫か?」
「うん。 バッドはここで待っていて」
「分かった。 じゃあ俺はアンジュがここを出入りしているのを見られないよう、背中で隠しておいてあげるから。 出る時はすぐに出ないで、俺に声をかけてからこっそりと出るんだぞ」
「ありがとう!」
話し合い、バッドはアンジュを背で隠すようにして扉の中へと入らせた。 そのまま扉に背を預けながら、考える。
―――ここの部屋、どうして妖怪は入れないんだろうなぁ。
―――・・・もしかして、ここはデッドゴッド様と人間だけが入れる場所だから、この部屋には人間の死体がいっぱいあったりして。
―――そして、その人間をデッドゴッド様が一人占めしようとして。
―――人間の保管部屋、っていうのもあり得るな。
―――つか・・・アンジュ、怖いもの知らず過ぎだろ。
一人で中へ入っていったアンジュのことを心配していると、ふと遠くにいる妖怪が目に付いた。 全身に巻かれた包帯が特徴の、マモーだ。
「・・・あ」
彼もバッドの存在に気付き、思い切り目が合ってしまう。
―――ここでマモーと出会っちゃ、色々とマズいんじゃ・・・。
そのようなことを考えていると、マモーが大きな声で話しかけてきた。
「バッド? そんなところで何をしているんだよ」
「そっちこそ。 マモーはこんなところで何してんの?」
「デッドゴッド様が大量の包帯をプレゼントしてくれるみたいでさ。 その包帯を取りに、この部屋へ来たんだ」
「へぇ・・・」
気まずくなり目をそらそうとしたが、もう一度彼は尋ねてくる。
「で? バッドはどうしてそんなところに?」
「いや、俺することがなくてさー。 だから廊下の端っこで、行き交う妖怪たちを見ていようかなーって」
「ふーん・・・。 じゃあすることがないなら、俺を手伝ってくんね?」
「え?」
「包帯を運びたいんだけど、一度に運び切れないからさ。 何もすることがないなら、俺を手伝ってよ」
「それはー・・・」
「何か不都合でもあんのか?」
―――ここでアンジュを一人にしてしまうのもな・・・。
―――でもだからと言ってここに居座り続けるのも、マモーに怪しまれる。
―――じゃあやっぱりここは、素直にマモーの言うことを聞くしか・・・。
アンジュは思っているよりも、心が強い。 だからアンジュを信じ、マモーをこの場から少しでも離れさせるため彼に協力することにした。
「・・・分かった、今行くよ」
そう言ってバッドは、走ってマモーのもとへと向かった。 最後に一瞬だけ扉の方を不安気に見つめたのは、心の中で詫びと労いの言葉をかけるためだったのかもしれない。
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