Spooky Halloween⑪




デッドゴッドの屋敷



屋敷で、リオンは一人彷徨っていた。 ベランダを次々と移動し部屋の中を覗くが、アンジュらしき少女は見つからない。


―――まぁ、こんな広い場所ですぐに見つかるわけもないか・・・。


動き疲れた身体を少しでも休めようと、ベランダの手すり部分にまたがり、森全体を見渡してみる。


―――にしても、ここは広いなー・・・。

―――森だらけだし。

―――こんな場所、昔からあったっけ?


続けて、仰々しく見上げてみた。 空には、綺麗な満月が輝いている。 


―――こんなに月がハッキリと見えるなんて、珍し・・・。


その美しさに見とれ、眺めながらそのようなことをぼんやりと考えていると、突然背後から声をかけられた。


「こら君! そんなところにいたら危ないだろう!」

『ッ!』


その声にすぐさま反応し、身体の向きを変えると手すりから降りる。 立っていたのは――――全身黒いコートを着込んだ、一人の男。


―――吸血鬼?


まるで伝承の吸血鬼、そのままの姿。 こちらへと近付いてくるが敵意は感じない。


―――ここで捕まったら、また面倒なことになる。

―――でも逃げ出して延々と追いかけられるのも、なぁ・・・。


考えているうちに、吸血鬼はいつの間にかリオンの目の前まで来て窓をガラリと大きく開けた。


「早く中へ入りなさい! 落ちて怪我でもしたらどうするんだ!」

『え? はい・・・』


まさか心配されるとは思っておらず、呆気に取られながらも吸血鬼の言う通りにした。 誰にも聞こえない程度の小さな返事をして、部屋の中へと入っていく。 

だが先程のカボチャの妖怪と違って、リオンを襲ったりはしてこない。 


―――ここには、人間の味方をしてくれる奴もいんのか?


吸血鬼の横を通り過ぎ、更に部屋の奥へと入った瞬間――――リオンは、室内の異様に気付いた。


―――うッ・・・ニンニク臭い。

―――・・・ん、ニンニク?

―――確か、吸血鬼の苦手なものだったはず!


このまま吸血鬼を退治して、アンジュ捜しに戻ろうと考える。 これだけ、どギツい匂いがしているのだ。 部屋のどこかにニンニクが置いてあるに違いない、と思い必死に捜した。

すると、部屋の真ん中に置かれている大きなテーブルの上に欠けたニンニクが一つ、置いてあった。


―――これだ!


すぐさまテーブルへと駆け寄りニンニクを手にしたリオンは、躊躇いもなく全力で吸血鬼に向かってニンニクを放つ。 が――――吸血鬼は、投げたニンニクをあっさりとキャッチしてしまった。


「!?」

「ん? 私の好物だと知っていたのか? 有難くいただこう」


全く動揺せずリオンを一瞥しながら礼を言った吸血鬼は、手にしたニンニクを躊躇せず食べ始めた。


―――ッ、マジかよ!?

―――吸血鬼はニンニクが苦手だっていう俺の知識は、間違いだったのか!?


異様な光景に慌てふためくリオンをよそに、吸血鬼はニンニクを口の中へと放り込んでしまった。 おもむろに棚へと近付き、彼は背中越しに言う。


「そう言えば、君はどうしてあんなところにいたんだい?」

『それは・・・』

「私は友人にお使いを頼まれて、この部屋にやってきたんだが・・・。 んー、見つからないな・・・」


引き出しを探りながら、吸血鬼はウンウンと唸る。


―――・・・ここで人を捜しているとか言って、変に首を突っ込まれたら嫌だからな。


『別に、何でもないです』

「だから、それを言いなさいと言っているのだ」

『は? いやだから、何でもないって・・・』

「うん? ・・・おかしな子だ」


―――何だよ、言葉が通じていないのか?

―――話が噛み合っていない気がする。


吸血鬼はふと何かを思い出したかのようにリオンのことを見据えると、距離を縮めてきた。 あまりにも突飛な行動に、リオンは少しずつ後ずさっていく。


―――・・・何、なんだ。


ある程度距離が近くなったところで、吸血鬼は足を止めリオンのことをまじまじと見据えてきた。 距離が近いせいで、ニンニクの匂いがより強い。


「あれ、お前さん・・・。 あまり見ない顔だね」

『ッ・・・!』


―――マズい!


これ以上関わっては危険だと思い、反射的に吸血鬼の身体を押し倒した。


「あ、待ちなさい!」


押し倒すのと同時にこの場から逃げるようにしてドアから出ていったリオンは、行く当てもなく妖怪がたくさんいる長い廊下を駆けていく。


「・・・本当、おかしな子だ」


怪しむような表情でそう呟いている吸血鬼をよそに、リオンは必死に走っていた。 だが思ったよりも、周りの妖怪たちは自分に反応してこない。

そのことに違和感を憶えたリオンは、走るのを止め今来た道を振り返った。 吸血鬼は追いかけてこなく、周りは誰も自分に注目していない。


―――あのカボチャが言っていた俺を喰うっていうのは、冗談だったのか・・・?


“ここにいる妖怪たちは人間を喰う”と思っていたのだが、今の状況を見る限りそうではなさそうだ。 ならこそこそとアンジュを捜すより、堂々と捜した方が早いかもしれない。


―――まずは上から順に、アンジュを捜していくか。


そう思い、上に繋がる階段へと足を踏み入れた。



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