Spooky Halloween⑧




その頃、ハロウィンパーティの会場では――――



「わぁ! 今年も賑わってるねー!」


ユーストは会場に姿を現して早々、楽しそうに声を上げる。 ハロウィンパーティの会場は、エンの屋敷とは別の屋敷の一つの広間で行われていた。


「ユースト、マモー。 二人は好きなところへ行っていいぞ」

「わーい! エン、また後でね!」

「りょーかいー」


今にもはしゃぎ出しそうな彼らに許可を出すと、すぐにこの場から離れていった。 バッドは主人であるエンのそ傍にピタリと付いている。

基本的にエンがいる時は、バッドは身の回りの世話をしているのだ。


「エン」

「ん? ・・・おぉ、デッドゴッドじゃないか! 久しぶりだな」


話しかけてきたのは、この屋敷の持ち主であり主催者のデッドゴッド。 大きな黒い布を頭から被り、片手には大きなカマを持っている。 いわゆる死神といった容姿だ。


「元気そうで何よりだ。 バッド、君もね」


デッドゴッドはエンの隣にいる自分にも声をかけてきた。 エンの友人であるデッドゴッドは、立場的にかなり上。 失礼のないように深々と頭を下げた。


「会えて光栄です、デッドゴッド様」

「はは。 相変わらず、立派な使い魔じゃないか。 エンはどうだ? 最近変わったこととかは」

「いや、特には。 バッドたちと、楽しい日々を送っているよ」


3人で話をしていると、もう一人この輪の中に加わってきた。


「久しぶり。 デッドゴッド、エン、バッド」


彼の名はノンビ。 死んだはずの人間が蘇ったいわゆるゾンビである。 皮膚はただれ肉は崩れかけた彼が、スーツを着込み身なりを整えているのは滑稽に思える。


「おぉ、ノンビじゃないか! ノンビも相変わらずそうだな」

「それはこっちの台詞だよ、エン」


ノンビの登場に、バッドは小さく微笑みながら軽く会釈する。 するとエン、デッドゴッド、ノンビは3人で談笑し始めた。 

そんな彼らを見守りながら、バッドはこの会場をゆっくりと見渡していく。 たくさんの人が行き交う中――――ふいに視線が止まった。

他には聞こえないようひそひそ話をしているが、耳のいいバッドからしてみれば筒抜けだった。


「なぁ、聞いてくれよケルストン!」

「何? ジャッキー」

「実はさ、さっき俺、人間の男の子を見つけちゃったんだよね・・・」

「・・・え? それマジ?」

「マジマジ! これはチャンスだと思って、早速捕まえちゃったんだ」

「もう喰っちゃったの?」

「いや、まださ。 一人で喰うのもあれだから、ケルストンも一緒にどうかなと思って。 今はこの屋敷の部屋に、閉じ込めてある」

「マジで! ジャッキーありがとう! 今からでもすっごい楽しみなんだけど!」

「だろ!? このパーティが終わったら、デザートとして喰いに行こうぜ」


―――アンジュみたいに、今日この森に迷い込んだ人間なのか・・・?


彼らのことを冷たい目で見つめていると、ふと聞き慣れた音が届いてきた。


―――ッ・・・!

―――この音・・・!


「ご主人様」

「ん?」

「ちょっと俺、席外しますね」

「あぁ、分かった」


小声でそうエンに伝え、バッドはコウモリの姿となってこの屋敷を後にする。 自分を呼ぶ音はエンがここにいるため彼ではない。 傍を離れたくはなかったが、やはりその音が気になった。


―――こんなパーティの時間に俺を呼ぶって、一体誰だ?

―――しかもご主人様の屋敷からって、かなり遠い・・・。


そこでバッドは、一人の人間の少女のことを思い出した。


―――もしかして・・・アンジュ?






屋敷内 とある部屋



パーティが開かれているのと同時刻、屋敷で一人の少年が縛られていた縄から抜け出した。 名はリオン――――アンジュが探している少年だ。

アンジュと同様に森に迷い込み出口を捜していたところ、カボチャの妖怪に掴まりこの部屋に閉じ込められた。


―――ドアに鍵もかけてないとは『抜け出してください』と言っているようなもんだ。


ドアを開けると、身を潜めて廊下を覗き込む。


―――・・・ちッ、駄目か。

―――化け物がうじゃうじゃいやがる。


そう思い、ドアを閉めて部屋の中を適当に歩き回った。


―――一体ここは何なんだ?

―――見ている限り、人間らしき姿は見当たらない。

―――最初は仮装パーティーかと思ったが明らかに違う。

―――まるで異世界にでも来てしまったような・・・。


彼らの使う言葉が自分たちと同じであるということが、唯一の救いでもある。


―――夢オチかもしれないけどな。

―――・・・とりあえず、アンジュを探し出してこんな不気味な場所からさっさと出ないと。


この屋敷から抜け出す方法を考えるが、廊下にはたくさんの妖怪がいる。 見つかればアンジュを捜すどころではないだろう。

先程、カボチャの妖怪に涎を垂らしながら『美味そうだな』と言われたのは記憶に新しい。


―――簡単に喰われてたまるか。

―――ただ力はかなり強かったし、また出会うとヤバいな。


カボチャの妖怪のことを考えれば、他の妖怪に見つかるのもマズい。 そのため、この部屋からなかなか抜け出すことができずにいる。 色々と試行錯誤していくうちに、一つの答えに辿り着いた。


―――わざわざこの屋敷から出なくてもいいじゃないか。

―――第一の目的はアンジュを探し出すことだ。

―――もしかしたらアンジュも俺みたいにこの屋敷内にいるかもだし、抜け出して外を探すよりも先にこの屋敷をくまなく探した方がいいよな。


そう思い、リオンは部屋のベランダの方へ歩いていく。 窓を開け風を感じながら、周囲を見渡した。 

ベランダは隣の部屋とは繋がってはいないが、上手くいけば下へ落ちずに飛び移ることができるくらいの距離。 

アンジュが部屋に閉じ込められている可能性も考え、一つ一つ部屋を探していくことにした。


―――その前に、喉が渇いたな。

―――これからたくさん動くことになるし、何か飲み物でも置いていないかなー・・・。


一度部屋の中へ戻り、何か口にできるものはないかと探す。 するとテーブルの上に、豪華な作りの水差しが置いてあった。 横にはグラスもきちんと用意されている。

勿論、リオンのために用意された訳ではないと思うが。


―――丁度いい。


一応警戒しながらも、水差しを手に取り中身をグラスに注いだ。 見た目は透明で、サラサラとしている。 匂いを確認してみるが、特に変な匂いはしなかった。


―――飲んでも死にはしないだろ。


欲求に負け、リオンはグラスに注がれた液体を一気に飲み干してしまう。


―――少し身体が熱くなったような気もしたけど、死んではいないな。

―――何も心配することはなかったじゃないか。


水分を補給できたからなのか身体が軽く感じ、動きやすくなったところで早速隣の部屋へ飛び移ろうとした。



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