Spooky Halloween⑦
―――まさか、こんなところで人間に出会えるなんてな。
―――久々な豪華な食事だぜ。
マモーはそう考え、涎を垂らしていると――――突然耳に、声が届いてきた。
「マモー、そこにいるのか?」
―――ッ、エン・・・!
声の主がエンのものだと分かると、マモーは両手を咄嗟に下ろし、小声でかつ力強くアンジュに向かって言葉を放つ。
マモーにとってエンは主人であり、呼ばれたら無視することができなかったのだ。
「アンジュ、こっちへ来い!」
「え・・・?」
「早く!」
そう言ってマモーは、アンジュを連れて部屋の奥へと走った。
本当はアンジュの背中を押したり手首を掴んだりして急いで誘導したかったのだが、アンジュが人間の姿に戻られると、エンに見つかった後が面倒なことになると思ったためできなかったのだ。
触れていると、湖の水の効力は切れてしまう。
「お前はこの中にいろ。 絶対に出てくるんじゃねぇぞ!」
そう言って、アンジュを暗く狭い部屋の中へと無理矢理押し込める。
「お願い止めて! ここから出して!」
「静かにしろ!」
声を上げるアンジュを無視して、マモーは部屋に鍵をかけることにした。 ドアノブがガチャガチャと回るが、当然ドアは開かない。 外から鍵をかけてしまえば、中から開くことはできないのだ。
ドアを一度強く叩いて黙らせると、この場から立ち去ろうと足を進めていく。
―――エンの奴に、バレなきゃいいけど・・・。
怪しまれないように、マモーは急いで先程の広間へと向かう。 そこにはマモーを探していたエンと、隣にユーストが浮いている。 マモーの登場に二人が気付くと、エンが尋ねかけてきた。
どうやらマモーとアンジュのことは既にユーストに聞いていたらしい。
「マモー、アンジュはどうした?」
「・・・さぁ? お手洗いにでも行ったんじゃないかなー」
「・・・そうか」
「アンジュに、何か用でもあんの?」
エンは気まずそうにマモーから視線をそらし、言いにくそうに言葉を返した。
「・・・いや。 特にはない。 ただ、今からパーティへ行ってくると伝えたかったんだが」
それを聞き、横のユーストが言葉を挟む。
「大丈夫でしょ? アンジュしっかりしているし、20時からパーティが始まるって既に伝えてあるんでしょ?」
「まぁ、そうだが・・・。 本当は私の部屋の中に、いておいてほしかったんだがな」
「そんなにアンジュのことが大切なんだねー! やっぱり、エンのガールフレンドとか?」
「・・・連れ出したのは、お前のくせに。 もういい。 マモーとユースト、行くぞ」
エンは背を向け広間にある大きな扉から、外に出ようとした。
―――・・・まぁ、いいか。
―――楽しみは最後にとっておかなくちゃな。
アンジュのことは気になったが、マモーもエンの後を追いかけていった。
「どうしよう、ここから出なきゃ・・・!」
マモーがドアの前から離れたと分かると、アンジュはドアから出るのを諦め他に脱出方法がないかを考える。 部屋の中全体を見渡すが、薄暗くてよく見えなかった。
まずは明かりをつけようと、手を壁に沿わせスイッチを探し始める。 だがスイッチの凹凸などは、どこにもなかった。
―――この世界には、電気がないの・・・?
エンの部屋には暖炉があり、先程までいた広間はいくつかのろうそくで照らされていたことを思い出し、明かりをつけることも諦める。
―――黒猫の妖怪になったのに、全然見えないな・・・。
それでも少しは暗闇に慣れてきたのか、時間が経つと視界が薄っすらと広がった。 部屋中に見えたのは無数の包帯。 というよりも、この部屋には包帯しか置いていなかった。
おそらくこの部屋は、ミイラ男であるマモーが倉庫として使っているのだろう。
―――それが分かったからと言って、どうしようも・・・。
その時、上方からキラリと光が届く。 そこは唯一空気の入れ替えができる、小さな窓だった。 窓ガラスが張ってあるのではなく、四角い小さな穴が空いている状態である。
風の流れがあることからも間違いない。 そこから逃げ出すことも考えたが、高過ぎて手が届かない。 それよりも、あの両掌程のサイズしかない窓からは身体を通すことができないだろう。
―――マモーが戻ってくる前に、どうにかしてでも逃げ出さなきゃ・・・。
いい案はないかと部屋中を歩き回り試行錯誤していると、ふとあるモノに目が留まる。 それは、部屋の隅に吊るされている特徴的な一本の紐だった。
この紐はここ以外で見た記憶がある。 それは、エルフと再会した時のこと。 エルフがこの細い紐を引いた時、その後に起こったことは――――
―――もしかして、これを引いたらバッドが来てくれたりする・・・?
このまま何もしないのも時間が勿体ないと思い、イチかバチかでこの紐に賭けてみることにした。
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