第8話 練習しましょう!
「ぜんっぜん!ダメです! 」
教室で珠里をデートに誘った後、オカ研部室に戻った。
しかし、なぜか明日香は不機嫌なようだ。
「あれでは、ただ遊びに行くようなものです」
自然な感じに誘ったのがお気に召さなかったらしい。もっと情熱的に誘え、そういうことだろう。
「いや。でも——」
こちらの言い分を口にしようとしたところで口を挟まれる。
「河内さん、デートの経験は? 」
「ない・・・・・・です」
珠里と買い物などに行ったことはあるが男女の仲で、ではない。それはデートとは言えないだろう。
「そうですか・・・・・・。ないんですね・・・・・・」
かわいそうなものを見るような目で見つめられた。
やめていただきたい。街中でカップルなど見ても自分は惨めだ、といった思いは抱かないが、かわいそうに見られるのはなんか
それにしても、そういう風に見てくるということは、この子にはそういう経験があるのだろうか。ふと疑問に思う。
よく考えれば、この子のことをよく知らない。
まあ、どうでもいいか。
「それでは、練習しましょう! 」
明日香は、頑張りましょう、といった表情で言う。
練習・・・・・・。デートの最中の会話やエスコートみたいなやつの練習だろうか。たしかに自信はない。というかエスコートってなんだ。なにすればいいかさっぱりだ。
「わかった」
まともな意見のように感じたので了解する。
明日香は少し驚きの表情をした後、ぱっと嬉しそうな顔に変わり、口を開く。
「それでは、今週の土曜日に一緒に動物園に——」
「行かないぞ」
前日に一緒に動物園に行って予行練習をしようという考えだったのだろうか。それはさすがにごめんこうむる。面倒くさそうだ。
明日香はムッとした表情に変わる。
「じゃあいいです。動物園へは一人で行きます」
ふてくされてしまった。そんなに動物園に行きたかったのだろうか。高校生が一人で動物園。というか、高校生じゃなくても動物園って一人で行くとこか?
もしかしたら、この子は思ったより寂しい人間なのかもしれない。今度からもう少し、優しく接してやろう。
「ですが、それとは別にここで練習しましょうか」
うん。初めからそうして欲しかった。
「では、待ち合わせのところからスタートです」
そう言うと明日香は、少しだけ距離を取り、壁にもたれかかる。そして、スマホを取り出し、いじり始めた。
どうやら、話しかけてこい、ということらしい。
珠里が先に来ており、待っているというシチュエーションだろうか。
しょうがない。茶番に付き合ってやろう。
「おはよう。珠里」
明日香に声をかける。
「ストーップ! カット! カット! 」
突如、明日香は大きな声を上げて近づいてくる。
映画監督かよ。
「そんなんじゃダメです! やり直し! 」
なにがダメだったのだろうか。いたって普通だったと思うが。
「いいですか。男の子として見てもらいに行くんです。もっとかっこいい感じでやってください」
かっこいい感じと言われてもいまいちピンとこない。どうしたものか。
考えていると、明日香は待ちくたびれたのか口を開いた。
「しょうがないですね。私がお手本見せるのでそっち行ってください」
先ほどまで明日香がいた位置が指さされる。
かっこいいお手本か。どんなものやら。先ほど明日香がしていたように壁に寄りかかり、スマホを取り出して待つ。
「お持たせ、待った? 」
耳元で、作ったようなイケボっぽい声で話しかけられた。
内側からこみ上げてくるような恥ずかしさを感じる。なんだろうか、拒否反応だろうか。むずむずが止まらない。
「っていう感じでやってください」
自信満々に言う。今のが、明日香の中ではかっこよかったらしい。よくわからん。しかし、やらないと満足しないだろう。
明日香と入れ替わり、もう一度初期配置に戻る。
少し声を低くして話しかける。
「お待たせ、待った? 」
「ううん。今来たとこ」
どうやらよかったらしい。続けよう。
「それじゃ、行こっか」
「ストーップ! 」
また止められた。今度はなんだろうか。
「女の子とデートに行ったら服装を褒める。常識です」
たしかにドラマや少女漫画の初デートではそういうシーンがよく見られるが、常識とまでは思えない。
「いいですか! ちゃんとやってください! 終わるまで帰しませんから」
明日香はいかにも、もー、とでも言いそうな感じで不満そうにしている。
いたって真面目にやっているのだが。
どうやら初めからリスタートらしい。明日香は初期位置の壁に戻る。
このままじゃ練習をずっとやらされるはめになる。とことんまでやってやろう。スイッチを入れる。
そっと距離を詰め、低音ボイスで
「お持たせ、待った? 」
「ううん。今来たとこ」
明日香は微笑みながら返す。
「今日の服、可愛いね。それに珠里も・・・・・・ううん、なんでもない」
本音っぽくアピール。つい言ってしまった感があり、あざとさポイントも高い。
「それじゃ、行こっか」
手をさりげなくとり、引き寄せる。
「河内さん・・・・・・」
明日香は下を向いて、わなわなといった感じで震えている。
おっと。さすがにやりすぎただろうか。よく考えればあほらしい。どうやら、完全に引かれてしまったようだ。なにがあざとさポイントも高い、だ。恥ずかしくなってきた。
「さいっこうに、よかったです! 」
明日香は由之の手を取り、目を輝かせている。
おいおい。まじかよ。
******
待ち合わせの午前10時まで残り、12時間。明日の準備に取り掛かる。
こんなこともあるのかもしれない、と以前買っておいたちょっとお高めの服に袖を通す。いわゆる勝負服というやつだろうか。
鏡を見る。
映るのは、ダボっとした服を着る少女。シャツはもはやオフショルダーのようになっている。
——忘れてた。服がない。
これではダメだ。急いでクローゼットの中を探す。
しかし、出てくるのはサイズの合わない男物の服か、珠里の趣向が色濃いゆるふわ服。
詰みました。
******
結局服装は、珠里の好きそうなよくわからんひらひらのついた白地のシャツに、ショートパンツというスタイルにした。珠里の好みを取り入れ、変にならずに、なおかつ男の子っぽく活発そうなアピールするにはちょうどいい
集合時間ちょうどくらいに時間を調整する。明日香が言うには、女の子より先に着くのは良くないらしい。待たせてしまった、と思わせるのは避けたほうがいいようだ。人によると思うが、まあ今回はそれに
待ち合わせ場所には珠里の姿を確認する。デニムのジャケットにロングスカート、いつもよりも大人っぽく見えた。
まだ由之には気づいていないようだ。
珠里の姿を見てから途端に緊張してきた。しかしシミュレーションは完璧に近い。落ち着いてそっと近づき想定通りの声をかける。
「お持たせ、待った? 」
珠里は唐突に声をかけられたからだろう、少しびっくりした表情を浮かべてから口を開いた。
「ううん。今来たとこ」
ここで服装を褒める。
「今日の珠里、いつもより大人っぽく見える。素敵だよ」
「え、あ、ありがと」
褒められてびっくりしているのか珠里はおろおろとしている。
効果ありのようだ。
「じゃ、行こっか」
ここまでがテンプレート。想定通りに進んでいる。
そっと珠里の手を取り、歩き出そうとする。
しかし、珠里は立ち止まったまま動き出そうとしない。
「よしのん」
呼び止められた。なんだろうか。
珠里の表情を
そして、口を開いた。
「変」
ですよねー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます