第3話 ようこそ! オカルト研究会へ!
「本当に女の子なんですねー」
先ほど服を脱がされ、全身を食い入るようにチェックされた。急いで制服のスカートを履き、身なりを整える。他人に体をまじまじ見られるのは、なかなかに恥ずかしかった。
明日香は実に満足そうに笑みを浮かべている。
「わざわざ全部脱がして確認する必要あったか? 触ったりするだけじゃダメだったのか? 」
「もし万が一、触ってなにかがあったら、どうしてくれるんですか! 私に一生のトラウマ残すつもりですか! 」
確かに一理ある。納得してしまった。
「それより! この間はどうして逃げたんですか? 」
「どうしてって・・・・・・あれ・・・・・・」
「王女様の
明日香は不思議そうに首をかしげる。
王女様。この学校に昔いたという圧倒的人気生徒。
——王女様じゃなくて女王様じゃねぇか!
そういえばこの部屋にある謎の木馬・・・・・・。世の中には知らない方がいいこともある。忘れよう。
「まさか、私にあれでぶたれるとでも——」
「いきなり脱げって言われたから。そういうことか、と・・・・・・」
先ほどまでの満足そうな雰囲気が一転する。
「なるほど。私がそんなことをする痴女に見えたわけですね。わかりました。もう一度脱いでください。お望み通り、ぶってあげますから」
「——勘弁してください」
目が怖い。勘違いとはいえさすがにいきなり痴女認定したのはまずかったか。
ここは話題の転換をはかろう。
「そういえば、あの手紙はなんだったんだ」
「どうでしたか! 私の考えた華麗なるおびき出しテクニックの数々! 」
なぜか得意げに語っている。本気で不幸の手紙や架空請求業者の真似が効果あったと思っているのだろうか。
だが、機嫌を直すことには成功したらしい。ちょろいな。
しかし、聞きたいのはそれではない。秘密を知っている・・・・・・。なにを知っているというのだろうか。
「そうじゃなくて、秘密を知っているっていう」
「あれもただの興味を引くための嘘です」
マジでつられてた。こんなちょろそうな子につられたのか。ここに来ようと思ったときの自分をひっぱたいてやりたい。
体をチェックするのが目的ならばもうここに用はない。帰ろう。
「じゃ、お疲れ様でした」
明日香に背を向け、扉へ向かう。
——むぎゅっ
むぎゅっ? なんだこれ。
気がつけば右腕をがっちりホールドされていた。
「待ってくださいよー。身体の変化について知っていること話しますからー」
かすかに胸の感触が伝わってくる。まずいですよ! 体が女の子になったからといって、他の女の子に触っても平静を保てるような耐性は付いていない。
どうやら話を聞くまで返す気がないらしい。しょうがない。脱がされた分くらいの情報だけでも手に入れることにしよう。
「それで、なにを知っているんだ? 」
明日香は待ってました、と言わんばかりにホールドしてた腕を離して語りだした。
「身体の変化などの要因は、主に二つに分けられると考えます。内的要因と外的要因です」
いきなりの真面目モードに驚く。さすがオカルト好きといったところか、ちゃんと考えていたようだ。きちんと聞くことにしよう。
明日香は続ける。
「内的要因というのは、つまり自分がこうなりたいだとかこうだったらいいのに、などの願望が身体に現れるということです。例えば、周りの顔色を伺いながら生きてきた人が人の思っていることがわかるようになった、みたいな感じですね」
「いやいや、それは漫画とかそういう空想上での出来事だろ」
「そうですね。河内さんがそれを言うのはおかしいと思いますが」
ごもっともだ。しかし、不可思議なことが我が身で起こっているとはいえ納得はできない。
「たしかにリアリティに欠けますね。ですが、人間は空を飛びたいと思って飛行機を開発し、月に行きたいと思ってロケットを開発しました。人間には、空想を実現する力がある、そういう考えは素敵だと思いませんか? 」
どこかで聞いたことのあるような主張をさらに拡大解釈したような主張だと感じた。だが、まるで自身の夢を語るかのようなキラキラした顔の明日香に流されそうになる。確かに人間にはそういった能力があってもおかしくはないのでは、と思えてきた。つまりこれを自分に当てはめると・・・・・・。
「その考え方だと自分で女の子になりたかったと思ったから、こうなったってことにならないか? 」
「河内さんは女の子になりたいと思ったことは? 」
「ない」
即答する。
「本当に? 女の子になって可愛くなってみたい、可愛い服を着てみたい、などと一度たりとも思ったことはありませんか? 」
明日香はグイグイと詰め寄りながら質問してくる。万が一、仮にあったとしても、姿が変わるような強い感情ではなかったはずだ。というか、女の子になってみたいというのは一度くらいは全男子が思っていると思うのだが・・・・・・。
この話を続けるのはあまり良くない。話を進めよう。
「それで、もう一つの外的要因はなんなんだ? 」
明日香は納得いかない、といった表情を浮かべながら答える。
「例えば、薬を飲んだら体が縮んでしまった、とか吸血鬼に噛まれたら自分も吸血鬼に、みたいなやつですね」
あいにく謎の黒ずくめの組織に怪しい薬を飲まされたり、女の子に噛まれたりした経験もない。
「あとは誰かの願いでしょうか。死んでしまった女の子の霊が河内さんに願いを叶えて欲しいみたいな」
そんな幽霊少女に目をつけられるようなことはしていないと思うのだが・・・・・・。
「それで結局、どうやったら元に戻れるんだ? 」
「わかりません。原因を解決したら元に戻れるかもしれませんね」
——原因か。それが分かれば苦労しないのだが。
まあ、考えても仕方ない。そのうちなにか糸口がつかめるかもしれない。幽霊少女が家を訪ねてきたりして。いや、まさかな。
結局、根本的な解決方法を探ることはできなかったが、情報は得られた。そろそろお
「ありがとう、柊さん。参考になったよ」
「いえいえ、これから一緒にやっていく仲間のためです。これくらい、どうってことないですよ」
——ん? 仲間?
「同好会メンバーが増えて私は嬉しいです!なにせ今までずっと一人でしたから。これからよろしくお願いします! 」
明日香は嬉しそうに手をさしだしてくる。
「いや、オカルト研究会には入らないよ」
情報をくれたことには感謝するが、オカ研に参加までする義理はないし、必要性も感じられない。
明日香はしょんぼりとした顔になる。期待させてしまっていたのだろうか、少しばかりの罪悪感を覚えた。
「そうですか。残念です。河内さんのあられもない姿が全校生徒にさらされるなんて」
意味のわからないことを言い出した。あられもない姿? どういうことだ?
明日香は、したり顔で部室の一角を指差す。
そこには、一台のカメラ。
「——! 撮ってた? 」
「てへっ」
完全にいたずらっ子の顔だ。
「いつから? 」
「河内さんがこの部屋に入ってくる前からです」
「脱いでた時も? 」
「もちろんです!そこがメインですから! 」
急いでカメラに手を伸ばす。
消さねば! なんとしてでも! このまま戻れなければ一生付き合っていく体だ!
さらされるわけにはいかない!
「消してもムダですよー。ここにも撮影してたカメラがありますから」
明日香は制服の胸ポケットからスマホを取り出した。
あー、負けだ。完敗だ。降参します。
「それでー、河内さんはオカ研に入らないんでしたっけ? 」
余裕の笑みを浮かべながら、意地の悪い質問をしてくる。
「・・・・・・いえ、入ります」
「ようこそ! オカルト研究会へ! 歓迎します、河内さん! 」
まったく! やってらんねーよなぁ!
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