第152話 本物の絶望と殺意
オアフ島を文字通り切り裂き、直線上の全てを消し去った一筋の破壊。
生き残る可能性など万に一つもない。
ラプラスの悪魔によって大穴から地上へと飛び出すことを予測して放たれた一撃は避ける余地などなかった。
地形を変えるほどの絶大な破壊力はレート7クラスの実力者でさえ防御を貫いて消滅させるだけのものだった。
まごうことなき、高専生、特務課、捜査班、そして戦う意志を持って立ち上がった一般人。
この場にいる総員の勝利であった。
「レート7下位クラスなら先の一撃で死んでいただろうな」
だが、聞こえるはずのない声がした。
「レート7中位クラスなら、致命傷を負いながらも逸らすくらいはできるだろう」
声の出所は、未だオアフ島の市街地を侵食したままとなっている森林地帯。
「だが、レート7上位クラスならば死したとしても回帰する」
草花が芽吹くように、大地から光り輝く蔓が生えて、次第に人の形を形成していく。
その姿は先まで見ていた敵対者そのもの。
襟足を伸ばした銀髪に、猛獣が如き鋭い目つきの整った相貌。
黄金が入り混じった深緑の瞳。
妖精種の象徴たる半透明で、光の加減により七色に輝く
そして、まるで血を
先までとなんら変わらぬ姿で新生したジェイルの姿がそこにはあった。
だけではない。
「そして、その上で更なる絶望を
大地に芽吹いた新芽は一つだけではない。
一つ、二つ、三つと増えていき、その数は加速度的に増加していく。
その数、優に一〇〇を超える。
その全てが分身や劣化したコピー、人形などではなく、レート7上位クラスとしての実力を秘めたジェイル・グランツそのもの。
たった一人倒すことに死力を尽くしきった彼らの前に、ジェイルという怪物はその一〇〇倍の絶望を突きつけてきた。
「言っておくが、一〇〇人殺しきったとしても無駄だ。幸いなことに今のオアフ島はこの降り
意思を持って立ち上がった一般市民の眼に灯っていた戦意は巨大過ぎる絶望の前にかき消された。
これまでも修羅場を潜ってきたマシュやルーク、高専生らでさえ折れそうになる心を保つので精一杯だった。
「あぁ? 絶望で声もでねぇか。久しぶりに愉しい戦いになるかと思ったが、仕方ねぇ」
これから始まるであろう戦いを夢想し、その口角を釣り上げていたジェイルは戦意を保つのに精一杯な彼らを見て失望した。
釣り上げていた口角を引き下げ、大きなため息をこぼす。
「精々俺の魔力要領を増やすための糧となれ」
失意のまま、質と量を備えた圧倒的な暴力による食事を執り行うべく、その魔の手を彼らへと伸ばす。
絶望の魔手が眼前にいる
(動け! 動け!! 動け!!! なんで、なんで……、動かないのよ……、私の身体!!!)
しかし、あの時の彼は高専生らを殺すつもりなど欠片もなかった。
そこにあったのは弱者を憐れむ
だからこそ、彼らはレート7による本物の絶望と殺意というものを経験したつもりになって、勘違いしていた。
自分たちはレート7の中でも最強クラスの怪物とも対峙したことがある。
だから、実力では未だ及ばずともその殺意には怯まず、絶望もしないと。
だが、違った。
レート7の本物の絶望と殺意は容易く彼らの心を砕きにかかり、その身体を恐怖で縛り上げた。
「それじゃ、いただきます」
ジェイルの右腕が複雑に絡み合う樹木の幹へと変形して牙持つ大口となり、涙を流して悔しさと恐怖で顔を歪める日向を喰らわんとする。
「この世は弱肉強食。されど、ワタシは弱い者いじめというものが大嫌いなのですよ」
声が聞こえたと同時、突如として眼前に何者かが立ち塞がり、その先にいたジェイルを内側から爆散させた。
眼前にいた個体だけではない。
至る所にいた一〇〇体のジェイルが次々と臓物と血飛沫を撒き散らして内側から爆散していく。
「——ッッ!! なんなんだ、……テメェはァァァアアアアアッッッッ!!!!!!」
しかし、それに匹敵するスピードで新たなる個体を生み出し続けるジェイルは日向を護るように立ち塞がった、フードで顔を隠した
日向を護るように立ち塞がる彼は、その手に持つ骨造りのショートソードでジェイルの一撃を容易く打ち払い、
だが、ジェイルもただ一方的にやられるだけではなく、爆散させられる間際に莫大な魔力を込めた咆哮によって闖入者へ一矢報いる。
その一撃さえ難なく防ぎきった彼に傷はないが、その身を隠していた目深なフード付きの
そして現れたのは、神父服に身を包み、首からは主人より
かつて、敬愛する主人の力となるべく、特務課との激闘を繰り広げた平和を愛する怪異。
蘆屋道満の懐刀にして、現在は革命軍に借りを返すために貸与された特大戦力の一。
「我が主人の大切なご学友を護るため
返り血に塗れた骸は紳士的な言葉とは裏腹に、骨造りのショートソードを地面に突き刺し、再度術式を発動して血の雨を降らせた。
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