第147話 神々による太平洋沖防衛戦線
オアフ島より三五〇キロメートル離れた、太平洋沖。
竜巻によって海水は天へと巻き上げられ、滝のような豪雨となってまた海へと帰る。
荒波は戦艦さえも即座に破砕してしまうほどの破壊力をもって荒れ狂う。
そんな天変地異の最中、荒波を
一人は反転の
緑髪長髪で耳の長いエルフのような美女が、見に纏う羽衣を海水で濡らしつつ、骨で造られた牙のような大剣を振るう。
その名は
彼女の異界によって、荒れ狂う大海は流動性を保ちながらも、相反する固体性を獲得して彼らの足場となっていた。
「フハハハハハハハッッ!!! 我が異界さえものともせぬとは、人間の創造性には驚かされる!!」
「大口開けて笑ってる場合じゃないっス!! また来るっスよ!!」
共に戦うのは、革命軍最高幹部の一人、エリック・ハーロット。
シルバーブロンドの
その直後、まるで天罰が如く分厚い黒雲を斬り裂いて一条の光が降り注いだ。
「行くっスよ、コロンゾン!!」
(ええ、任せなさい)
エリックは右手に握る大剣を握り締め、上空へ躍り出ると光の柱へと切っ先を突きつける。
彼女の紋章に宿るは
拡散を本質として人と人の不和を煽り、世界の理の結合を妨げようとする大悪魔コロンゾン。
紋章を覚醒させ、対話することさえ可能な程にその練度を磨き上げた彼女は己に宿る大悪魔の本質をもって向かい来る脅威を穿つ。
瞬間、上空から降り注いだ極大の光は四方八方へ拡散し、周囲の海面を余すことなく焼失させていく。
「途方もない出力だし、貴女に潜む悪魔の性質上仕方ないことだけれど、もう少しスマートに防いで欲しいものね?」
そう言ったのはこの場にいる最後の一人。
エリックと同じく革命軍最高幹部に位置し、彼女とは異なる形の悪魔憑きであるマリア・ルーツだ。
アメジストのように艶やかな紫髪を腰まで伸ばした、真紅の瞳を宿す貴族然とした彼女は
黒を基調として紫の彩りが加えられたロングレースグローブにて包み隠された白魚が如き
両手が空気を撫でると共に、拡散されて荒れ狂っていた光が束ねられて、海中を蠢く怪物へと叩きつけられる。
しかし、海中に潜む怪物にその程度の攻撃は届きさえしなかった。
莫大な海水を操作することで、複数の都市を丸ごと焼失させうる光を屈折させて己から逸らしたのだ。
「アトランティスがこのタイミングで仕掛けて来るのは分かってたっスけど、……この二体が来るだなんて想定外っスよまったく!!」
「そうねぇ、ここまでの本気度とは正直思わなかったわ」
エリックは一時さえも気の抜けない状況の連続に冷や汗を流す。
それもそのはずだ。
太平洋沖、オアフ島を目指して侵攻し、それを止める彼女たちと交戦する敵の正体は科学都市アトランティスがその科学力の全てを注ぎ込んで創り出した究極の機械生命体。
オリュンポスの神々に
即ち、天空の防衛機神、星間狙撃型衛星軌道兵器アルテミス。
そして、大洋の防衛機神、大洋統制型生体戦艦ポセイドン。
アトランティスが開発した機械仕掛けの神々の力は絶大であり、機械だからと侮れるものではなかった。
衛星軌道上から狙い撃ちされる圧倒的なリーチ。
大海全てを武器とする圧倒的な質量。
彼らは共にあらゆる攻撃が大災害クラスの破壊を
エリックら二人とてそれぞれがレート7に相当する実力者であり、
規格外の破壊力とはいえ、同じく規格外と称される彼女らであれば超克によって物理法則を捩じ伏せ、機械による物理現象など意にも解さない、……はずだった。
「意思を持ち、我らにさえ対抗し得るレベルの超克を振るう機械とは、……フッフフフ、いやぁ面白い。こんな怪物があと十機以上も存在すると思えば歓喜が湧き出て仕方がないわ」
天逆毎は心の内に秘めた想いを正直に
つまり、無意識化で己が性質を超克し、それを可能とする程に彼女の身には魔力が
「楽しもうだなんて考えちゃダメっスよ! 相手は機械。戦いが長引くほどこっちのデータを取られちまうんスから!!」
彼女の言う通り相手は機械。
戦闘データは常に採取され、時間経過と共に行動パターンを読み解かれていくだろうことは必至だ。
「そうねぇ。彼ら機神を相手にするなら、全員が未来視を有すると考えた方が良いかもしれないわ」
アトランティスの奥の手であるオリュンポス十二機神。
彼らはアトランティスがその技術の全てを費やして創り上げた最高傑作だ。
演算装置一つとっても、常識を外れた性能を誇っているだろう。
それに加えて超克さえ可能とする程の人工知能だ。
行動パターンを読み解いて正確無比な未来を演算することなど容易いと見て間違いないだろう。
「なら、初見殺しで封殺が最適解ということだな?」
魔力ともまた異なる、神々だけに許された神代の力。
古き時代の神秘が、彼女が天へと掲げた刺々しい骨の大剣に収束する。
「
あべこべの権能によって、回避行動を取れば逆に当たりに行くよう行動してしまい、防御行動を取れば無防備を晒してしまう。
逆手にとって迎撃行動に出ようとも、様子見という選択を強制される。
自前の防御力で堪えようと、それさえ反転されて柔肌が如く改変される。
圧倒的なまでの神威によって超克さえも許さぬ理不尽なまでに不可避の一撃が、大海諸共に海中にいるポセイドンを一刀両断せんと振り下ろされる。
『演算完了』
その時、無機質な音声が聞こえた。
次の瞬間、ポセイドンはあえて回避行動を取る事であべこべの法則に則って海中を飛び出し、
漸く見せたその真の姿は、巨大なシャチにも似ていた。
金属で造られながら、生物的な柔軟性を感じさせるその姿は機械生命体と呼ぶに相応しい。
そして、何よりその巨体。
全長一〇キロメートルを越える威容が、大口を開けて喰らわんとばかりに天逆毎へと襲いかかる。
そして、不可避にして防御不可能の一太刀がポセイドンへと直撃する。
『演算結果。汝の権能であれば我が大洋の権能で相殺可能』
「機械風情が、神の権能さえ振るうか……!!」
目には目を歯には歯を。
ポセイドンは人工的に再現された権能によって彼女の権能を相殺し、不可避にして防御不可の一太刀を完全に防ぎきってみせた。
そして、攻撃を防がれてしまった天逆毎はそのまま一〇キロメートルにも及ぶ巨体によって押し潰される形で海中へと引き摺り込まれてしまう。
「今助けるっスよ!!」
エリックは半径一〇キロメートル圏内の海水全てを拡散させることで、天逆毎の退路を確保する。
それによって彼女は水底に引き摺り込まれることなく間一髪逃れることができたが、彼女たちの敵はポセイドンだけではないと言うことを忘れてはいけない。
『演算完了。必滅の矢にて対象を穿つ』
——
ポセイドンの猛攻から逃れる天逆毎。
彼女を助けることに注力していたエリック。
彼女らが一直線上に重なる瞬間を予測した上で、運命の矢が遥か高空より放たれた。
「あら、未来が見えるのは貴女たちの専売特許ではなくってよ?」
だが、その未来さえ見通す悪魔憑きの令嬢がここに一人。
「神性限定回帰。其の起源は金星の女神イシュタル」
限定的に神性回帰したことで、彼女の両腕に紅い紋様が浮かび上がる。
そして、彼女は黒を基調として紫の彩りが加えられたロングレースグローブにて包み隠された白魚が如き両手で天に弓を弾く。
その動作に伴って、彼女の手には黄金の光の弓矢が顕現する。
それこそは、彼女に宿る大悪魔アスタロト。
その起源とされるシュメール神話の豊穣神にして、金星を司る女神イシュタルが持つ権能。
彼女の神威によって構築された弓へ、仮想権限させた概念としての金星そのものを矢弾の形へと造形したものが装填される。
「さて、高嶺の花を摘み取るといたしましょう」
——
天から降り注ぐ必滅の矢。
地から撃ち昇る黄金の矢。
二つの閃光は成層圏にて激突し、その衝撃波で雲間を吹き飛ばす。
激しい拮抗の末、アルテミスの放った矢は撃ち破られ、地から立ち昇る黄金の矢はそのまま衛星軌道上にて
『第二弾装填。——完了。
だが、即座に放たれた二射目によって黄金の矢は相殺されてしまった。
その事実をこの世全ての過去・現在・未来を見通す千里眼によって観測したマリアは優美な微笑の裏に焦りを隠し、天を仰ぎ見る。
「流石は天に座す女神様。そう簡単には摘ませて貰えないわね」
大空の防衛機神
星間狙撃型衛星軌道兵器“アルテミス”
VS
革命軍最高幹部
大悪魔アスタロトを支配せし淑女
“マリア・ルーツ”
大海の防衛機神
大洋統制型生体戦艦“ポセイドン”
VS
革命軍最高幹部
大悪魔コロンゾンと共に歩む令嬢
“エリック・ハーロット”
蘆屋道満の最優の矛
神さえ喰らう
太平洋沖にて巻き起こるオアフ島防衛戦は激化の一途を辿る。
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