第127話 それぞれが過ごす海辺のひととき
「右右! もうちょっと右だよ!」
「だ、だめです柳生部長! そちらはスイカではありません!!」
「う〜ん。ナンパのお仕置きとしては些かハード過ぎじゃない?」
ビーチの一角にて、
と、言うのも、ビーチにいた金髪美女を片っ端からナンパしていた所を滝澤に捕縛され、
そのすぐそばでは、木の枝を持った
即ち、彼らはスイカ割りVer.DEADorALIVEを楽しんでいるのであった。
「柳生先輩そこです!! 思いっきりぶった斬っちゃってください!!」
「ダメです柳生部長!! なっちゃんの声に耳を傾けちゃいけません!!」
「鍛錬ばかりに打ち込む日々であったが、こういった催しも楽しいものだ、な!!」
滝澤の忠告虚しく、柳生の持つ木の枝は無慈悲に振り下ろされる。
そして、赤い飛沫が撒き散らされ——
——吉良のすぐ横に置かれていたスイカは真っ二つに断たれてその滑らかな断面を晒していた。
「こ、怖ぁ……。なんで木の枝でスイカが真っ二つに斬れるのさ……」
「侍たるもの、獲物が何であろうとこの程度できなくてはな」
柳生は気配で周囲の状況を手に取るように把握できていた。
だからこそ、わざと日向の言葉に乗ったふりをして吉良の顔すれすれの軌道でスイカを両断したのであった。
「ま、これに懲りたらナンパは控えることね」
日向は冷や汗を垂らす吉良をしたり顔で見下ろす。
そんな彼女へ、吉良はふと抱いた疑問をぶつける。
「そもそもなんでお前が怒るのさ。……もしかして妬いちまったのか?」
首から下を砂に埋めながら、吉良はニタァとした笑みで日向を揶揄う。
すると、吉良としても思わぬ反応が返ってきた。
「へ!? や、妬いてなんかないわよ!! わ、私はただ、……その、……そ、そう! 高専の代表者として恥ずかしくない行動を心掛けるよう嗜めただけなんだから!!」
真っ赤な顔でいつになく吃り、早口気味に捲し立てる日向。
まさかの反応に吉良は一瞬目を見張るが、瞬時に彼の悪戯っ子な側面が顔を出した。
「おやおや〜? これはまさかの図星かなぁ〜?」
ニヤニヤとした笑みを深め、下から舐めるような視線を向ける吉良の態度に、日向は先とは別の感情も入り混じらせながらさらに顔を紅潮させる。
「う、うるさぁぁぁあああああああああいっっっ!!!」
「ちょ、それはマジでヤバッ——!!」
耳どころか首まで真っ赤にした日向は巨大な炎の拳を吉良目掛けて放つ。
そして、乙女の純情を揶揄った不届き者は蒼穹に見守られながら、白い砂浜と共に宙を舞うのであった。
◇
また、別の一角では
「そうら、防げるもんなら防いでみな!!」
瀬戸から上げられた絶妙な位置取りのトス。
そこへ浅井が渾身のアタックを叩き込んだ。
空気を引き裂いて凄まじい速度で迫り来るボール。
それを受けるは、
「この程度、造作もありませんね!」
スライム特有の柔軟な流動性を活かして衝撃の全てを地中へと逃してボールを柔らかく受け止める水上。
「篠咲さん!」
そして、水上が打ち上げたボールを
「ありがとう
そして、篠咲倫也が対戦相手全員の動きを硬化させ、硬化が力業で解かれる一瞬の隙を突いてアタックを決める。
一早く拘束を解いた浅井はボールにこそ手が届いたが、返したボールはネットに弾かれてしまった。
「ちっくしょう! 切り替えていくぞ!!」
白熱した勝負はまだまだこれからだ。
◇
ところ変わり、別の一角では八神を始めとした女性陣に囲まれる形で、風早は遊んでいた。
というよりは、
「よーし! 準備はいいかな二人とも!!」
「バッチこーい!!」
「あ、あの本当にやるんですか!? 正気ですか!?」
砂浜の一角にて八神が全能の力をフル活用して即興で作った巨大パチンコ。
そこに装填されるは、先日の水着を買いに出かけた際、真紅のホルターネックビキニと共に購入した、ペンギンを模した着ぐるみ水着に身を包む八神。
そして、うつ伏せで寝そべる形で装填される彼女に上から跨るように乗っかる者こそ苦労人風早である。
「ハッハー!! ハワイの海まで来て正気な無粋者なんているかよ!!!」
「あでゅおーす」
テンション天元突破な
気の抜けた声で送り出すルミを置いて、ペンギンミサイルRide on風早は海へ向かって爆裂な速度で射出された。
「ひゃっほぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
「うひゃぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
高速射出された八神はまるで水切り石のようにお腹で海を切りながら海上を滑空していく。
「あ、これ最後どうするか考えてなかったや」
「なんでさぁぁぁぁぁああああああああ!?」
浜辺から風を操ってグングンと加速させる静にしてもテンションが上がり過ぎて、ただひたすらに加速させることしか頭にはないようだ。
もちろんテンションが上がってアホになってる八神の頭にも『方向転換』や『停止』などという常識的な解決策が浮かぶことはなかった。
結果、超高速で岩礁へと正面衝突した二人は粉々に砕けた岩と共にスカイブルーに煌めく海の藻屑となったのであった。
◇
海の藻屑となったペンギンミサイルを傍目に見ながら、凍雲、ウォルター、マシュの大人びた三人は釣りを楽しんでいた。
「おうおう、見事に吹っ飛んだな」
「アッハハハハハ!! あ、アホ過ぎて……フフ、あー、面白い!」
「ハァー」
ウォルターは綺麗な放物線を描いて吹っ飛んでいくペンギンミサイルの末路を見て感心したような声を漏らし、その横ではマシュがツボに入ったのか珍しく笑い転げていた。
凍雲に至っては呆れて物も言えないのか、深く深く溜息をついて見なかったことにした。
◇
それぞれが思い思いの時間を過ごしていく海辺のひととき。
時は刹那に流れゆき、スカイブルーに透き通る海はやがて夕焼けによって紅蓮に色づいてゆくのであった。
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