第126話 次の舞台はハワイ!!
燦々と降り注ぐ陽射し。
カラッと乾いた爽やかな海風。
そよそよと風に揺れるヤシの木。
サラサラと風に流される白浜。
そして、透き通るようなスカイブルーの海。
「来たぞハワイ!! 満喫……するぞぉぉおおおお!!!」
舞台はハワイ州オアフ島にあるワイキキビーチ。
彼女たちは高専生の修学旅行の引率を兼ねた夏季休暇を存分に満喫していた。
◇
事の経緯は前日まで遡る。
いつもの朝のミーティングにて、第五班の面子は勢揃いしていた。
「ハワイへ修学旅行って……、先の事件で国際情勢が不安定になってるのに大丈夫なんですか?」
八神はソロモンから告げられた言葉に疑問を投げかける。
しかし、その裏では未だ虎視眈々と日本を狙う国や組織が存在することは事実であり、そんな情勢下で学生を海外へ出すなど危険ではないか、と考えたのだ。
「だからこそだとも。日本が狙われているからこそ、海外へリスクを逃して同盟国を巻き込んでしまおうという考えさ」
日本が狙われている原因は
だからこそ、次代の戦力である紋章高専生徒もターゲットとしての優先度は高く設定されている事だろうと判断して、修学旅行を利用して海外へ逃すことにしたのだ。
「でもそれってアメリカに怒られないんですか? 勝手に巻き込むってことなら、下手すればアメリカまで敵に回しかねないと思いますけど」
そう懸念を話すのは
彼女の言う通り、勝手に巻き込むと言うのなら同盟関係にヒビを入れることになるのは間違いないだろう。
しかし、
「いや、むしろこれに関してはアメリカ側から提案されたことなんだ。ハワイで良くないことが起きるから、その対処を手伝ってもらう代わりにリスクヘッジを買って出るって具合にね」
と、ソロモンは訳を話した。
「でも、それはそれで危険地帯にみすみす高専生を送り出す様なものじゃないですか?」
ルミの言うことも最もだ。
危険を回避する為に海外へ逃すというのに、その逃げ場が危険地帯では意味がない。
「まぁそうなんだけどね。でも、不確定な危険よりは確定的な危険の方が対処がしやすいのも事実だ。僕や八神の未来視でも何故かあやふやな未来しか見えない現状ではこれが最適解なんだよ」
百鬼夜行事件では蘆屋道満の貼った結界によって未来視の類は全て無効化されていた。
しかし、彼を打ち倒した後も何故か未来視が上手く働かないのだ。
先のように未来視で見える数ある未来へ意図的に作られた未来を差し込むことでジャミングしているわけではなく、まるでノイズがかかっているかのように見えづらくなっていることから別の要因であることは明らかなのだが、その原因は未だ判明していない。
だからこそ、アメリカの紋章者が察知した危機感知を信用して、分かりきった危険地帯へ向かわせる方がかえって安全なのだ。
「幸い、アメリカで発生するトラブルはおおよそ解明できているしね」
アメリカからの報告によると、危機感地を利用した調査を行ったところ、ハワイで発生する危険は以下の二点に特定できた。
・キラウェア火山の大噴火。
・ハワイ地下大監獄の一斉脱獄。
「前者に関しては僕たち紋章者がいれば造作もなく止められる。後者に関しても原因究明こそできなかったけど、看守の人員強化とアメリカ合衆国最強の紋章者を派遣することで手は打ってあるみたいだしね」
「アメリカ合衆国最強の紋章者っていうと……、確かルーカス・ガルシアとかいうイケメンだっけ」
静はソロモンの言葉でこの前見た雑誌の表紙を飾っていたイケメンを思い出す。
ファッション雑誌の表紙を飾るほどの爽やかなイケメンであり、その強さにおいても有名な男だ。
曰く、アメリカにおける朝陽昇陽。
曰く、この世で最も万能な男。
曰く、世界一報われない男。
「そうだね。メディアにも良く出るからみんなも知ってるとは思うけど、とても気持ちの良い好青年で、とても強い紋章者でもある。そんな彼がもしもの時の人員として派遣されるから安心していい」
なにより、とソロモンは言葉を続ける。
「今回高専生の引率として夏季休暇を取るのは僕たち第五班だけじゃなく、第二班もなんだ。班長クラスが二人に、レート7クラスが六人もいるんだから何も心配はいらないさ!」
◇
「って自信満々に言っちゃったのに早速大戦力が一人欠けてるのは不安だなぁ」
砂浜にレジャーシートを敷き、パラソルにできた日陰で三角座りしながらソロモンはキラキラと陽射しに輝く海辺を眺めてぼやく。
「仕方ないさ。彼には彼の用事があるんだからさ」
ソロモンとは反対側の影で椅子に寝そべりながらマンゴージュースを飲む
黒のレースアップビキニに身を包む彼女は惜しみなくその白磁の
日焼け止めクリームは全身満遍なく塗り込み、日陰に入ることで日焼け対策もバッチリだ。
「
今回の夏季休暇に不参加を表明したのは安倍晴明こと
彼はその実力から蘆屋道満の呪術に惑わされることはないと判断され、面会を許された数少ない人物なのだ。
それ故に、彼はこの休暇を利用して蘆屋道満の元へ面会に向かったのだが、そこにはソロモンの言う式神の数が合わない件について問い正すという要件も加わっていた。
「それは外部流出した式神の危険性を憂いてるのかい? それとも蘆屋くんの心配かな?」
「もちろん後者だよ」
蘆屋道満の式神が脅威であることなど、あの戦いを経験した者ならば百も承知だ。
しかし、同時に蘆屋道満が人類に害をなす悪ではないことも、彼の式神が彼の意に反する行いができないことも理解している。
だからこそ、ソロモンは式神の危険性よりも、それが発覚した蘆屋道満の刑罰がより重くなることを心配していたのだ。
「それなら尚のこと心配するようなことじゃないだろうに。彼を殺すことなんて私にもできないし、精々が刑期を伸ばすくらいしかできないでしょう」
蘆屋道満は既に生死の概念を超越しており、誰かの記憶に残っている限りその存在が絶えることはない。
まして、彼は歴史上の偉人としてネットや書物にもその情報が記される著名人だ。
それを抜きにしても、国防のために中継した戦闘映像によって世界中の人々の目には彼の凄まじい強さが焼き付けられたことだろう。
そんな彼の刑罰など長期間幽閉するくらいしかできないし、神を喰らって悠久の寿命を獲得した彼にはそれもまた瞬きが如き時間に過ぎない。
「それに、どのタイミングかは分からないにせよ、彼がいずれ表に出てくることはその眼で見えているんだろう?」
「まぁ……ね」
ソロモンの未来視には蘆屋道満が脱獄する瞬間がハッキリと見えていた。
何故そうなるのか。
何の為に脱獄するのか。
それは特務課課長である時透の権能である『機密の開示』でさえ解き明かすことはできなかったが、彼が再び表世界に出てくることだけは分かっていた。
「それでも、心配さ。彼は大犯罪者にして世界最高クラスの実力を持つ危険人物であると同時に、僕のかけがえのない仲間の友達でもあるからね」
誰もが蘆屋道満を危険人物、最強の陰陽師、神喰らいの怪物として見る中、彼は蘆屋道満という男をその危険性を踏まえた上でなお、大切な仲間のお友達だと断じた。
だからこそ、心配すると宣ったのだ。
その言葉に天羽は目をまん丸にして、その数秒後に優し気な笑みを溢した。
「ほんと、お優しい王様だね」
ソロモンの過去を知る彼女はそう言葉を溢すと、パラソルの外から見える澄み渡る大空を見上げる。
「大丈夫さ。彼には私の最も信頼する部下がついてるんだから、そう悪いようにはならないとも」
「……そっか。……そうだね」
蘆屋道満には安倍晴明がついている。
己よりも余程彼のことを知って、彼のことを近くで見てきた男がそばにいるのだ。
心配せずとも、いつかまた……。
この晴れ渡る青空の下で、この時代で巡り会えた友たちとありふれた幸せな日常を送る日々が戻ってくることだろう。
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