第78話 ああ、リゾート地が……
「どうだ、見つかったか?」
「見つかったよ。ただ、お宝の周囲一〇〇メートルには
八神らは砂浜から熱帯雨林地帯へと移動して、身を隠しながら索敵していた。
気流操作を利用した索敵は敵チームに気づかれることなく、宝の位置と敵の位置を探ることができた。
しかし、宝の周囲にはAMFが展開されていた。
AMFは内在力場という紋章者の身体に無意識下で働く微弱な魔力の流れを魔力波で乱して紋章術の発動を阻害する装置だ。
今回設置されていたAMFは通常よりも高出力なようで、外部からの魔力干渉すらも弾いていた。
それによって、そこだけがポッカリと穴が空いているように索敵ができず、
「十分だ。周囲に敵が少ない宝の位置へ案内を頼む」
「りょーかい! ……ん? 何か地響きしてない?」
宝の位置へ案内しようと思ったその時。
八神は僅かに地面が揺れていることに気づいた。
それは地震とも異なる。
まるで何かが地面の中を這っているような異質な揺れだった。
「……何かが、地中で動いている? ……まずい!!」
事態を即座に把握した
その直後。
耳を
無人島中央部を引き裂いた大噴火。
噴出したマグマの柱は直径にしておよそ五〇〇メートル。
その勢いは、空を
そして、天高く舞い上がったマグマは当然、次の瞬間には火山弾として豪雨が如く地上へと降り注ぐ。
「いやいやいやいやヤバすぎでしょう!!!?? バカなの!? 初っ端から地形崩壊技とかバカでしょ!!!」
開始数分でリゾート地を思わせる南国の無人島が地獄の業火に飲み込まれてしまうという事態にドン引きする八神。
「いや、理に叶ってはいる。恐らくはああして一人が気を引いている内にもう一人が宝を探しているのだろう」
「だからってさぁ、もう少しリゾート気分味わいたかったのに……」
刻一刻と豊かな自然が。
塵一つない白浜が。
そんな彼女の呑気な態度に呆れてため息を吐く凍雲。
「……ハァ。今度有給取って勝手に行け」
「へーい。凍雲も来る?」
「予定が空いていたらな」
いつまでも降り止まない火山弾に業を煮やした凍雲は凍結した空間から一人外へ出る。
「
彼はただ、右腕を無造作に振るった。
それだけで地下深くから湧き上がり、天を焼き続けていた溶岩の柱を凍てついた樹木へと変貌させた。
氷結の及ぶ範囲はそれだけに留まらない。
吹き荒れた莫大な風は無人島全域を舐め尽くし、風に飲まれた
空から降り注ぎ続けていた火山弾も、大元である溶岩の噴出口が凍りついた為、次第にその勢いを弱めていった。
「何対抗意識燃やしてるの? 位置めちゃくちゃバレたよこれ? どうするの?」
まるでどうしようもないバカを見るような目を向ける八神。
あれだけ派手な技を繰り出したのだ。
吹き荒れる凍てつく風の発生源など、無人島のどこにいようとおおよその察しがついてしまうことだろう。
しかし、そんな視線など物ともせず、凍雲は冷静に指示を下す。
「問題ない。五時の方向を薙ぎ払え」
言われるがままに五時の方向へ
すると、
「ぬぅうっ!? やりおるのう」
凍りついた地から噴き出すマグマ。
その中を突き破るように現れた角刈りの男に光の剣は防がれた。
陸上自衛隊一等陸佐にして、自然格:溶岩の紋章者である実力者だ。
八神の未来予測もごく直近のものに限れば正常に作用する。
故に彼が出現することは分かっていた為、そこに驚きはない。
しかし、先の一撃は初手で倒す為に手加減抜きで放ったもの。
それを容易く受け止められた事実に驚愕して目を見開く。
「どうする?」
消耗覚悟で最も厄介であろう障害を先に潰してしまうか。
「当然、撤退だ」
言外に提示された選択を察した凍雲は迷いなく撤退を選択する。
「奴を引きつけながら撤退して他チームにぶつけるぞ」
凍雲は眼前の敵に聞こえないように耳打ちをする。
これはただ逃げるためではない。
無駄な交戦を避けた上で、他チームを潰し合わせる為の物だ。
ここまでは凍雲の想定通り。
今試合で最強格の
いざとなれば八神の空間転移で逃げ出すことも視野に入れた作戦。
その作戦に同意した八神は頷きで返すと、
「そういうのは察して貰うんじゃなくてちゃんと相談しやがれ!!!」
掌から眩い光を発して目眩しをしながらも、凍雲の相談不足に激怒する八神。
彼女が怒るのも無理はない。
作戦の通達など一切なし。
彼女が全能の権能を用いて考えを読み取ることを前提とした
「貴様ならできると信じているからだ」
八神と共に逃げながら背後の厳に無数の氷の槍を飛ばす凍雲は、
「……あっそ」
“
しかし、そう簡単に逃げられる程、高槻厳は甘くはない。
「随分余裕じゃのう。本当に儂から逃げられるとでも思うとるのか?」
八神の目眩しは効いていた。
少なくとも数分間はその眼に光が戻ることはないだろう。
けれど、それだけだ。
視界を失った厳は魔力を周囲に放ち、その反響によって正確に位置情報を得ていた。
コウモリなどの動物が行う
それによって得た位置情報を元に二人の後を追う厳にとって、飛来する氷の槍など妨害にすらなっていなかった。
“超克”を用いた氷の槍は炎すらも穿つ。
けれど、厳はそんな凍雲の氷の槍すらも問答無用で溶かし尽くしながら進撃する。
「防げるものなら防いでみい!!」
厳の振りかざした巨大な溶岩の拳が二人を襲う。
◇
「うわぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
突然無人島中央部が爆裂して大噴火したかと思えば、無人島全体がマグマごと凍りついて、その次にはマグマの火柱が轟音と共に断続的に立ち上る。
そんな開始早々世紀末な事態に第二班代表、
「うるっせぇ!!」
ゴチンッ⭐︎
彼のパートナーである
「マグマも氷結も全部防いでやっただろうが、新人とはいえ特務課職員だろ。せめて高専トーナメントに出場してた奴らくらいの気概を見せやがれ」
「あんな覚悟ガンギマリな子達と一緒にしないでください!! 俺はただ交番で道案内とかしていたかったんスよ!! なのに、強力な紋章を持ってるからって勝手に特務課に配属されて……」
頭にできたたんこぶを抑えて涙目でうずくまる瀬戸はブツブツと文句を垂れ続ける。
「それでも最終的にお前は自分の意思で特務課に配属されることを承諾したんだろ。そう覚悟するだけの何かがあったんじゃないのか?」
「いえ、その……お金に目が眩んだと言いますか……」
「どうしようもねぇなお前」
ハァ、と本日何度目か分からないため息を吐く浅井は未だに地面にうずくまる瀬戸に手を差し出す。
「それでもお前は特務課職員だ。仮想空間とはいえ、痛いもんは痛い。だけど死にはしねぇんだ。貴重なこの機会を活かして生き延びる術を養ってもいいんじゃねぇのか?」
「……戦わなくてもいいんスか?」
「直接殴り合うだけが戦いじゃねぇ。時には如何に生き延びるかが大事な局面も訪れる。そんな時にお前の強みを活かせばいいんだよ」
そういって瀬戸の手を握り強引に立ち上がらせると、その背を力強く叩く。
「だから、シャキッとしろ! お前が不安に思う必要がないくらい私が守ってやるからよ。お前は安心して私の後ろで支えてくれてりゃいいんだ」
「……浅井先輩、惚れちゃってもいいっスか?」
「チョロインかテメェ。くだらねぇこと言ってねぇでさっさと宝を探すぞ」
「了解っス!!」
そうして騒がしい二人は行く当てもなくふらふらと適当に凍りついた森の中を歩き出す。
「とりあえずマグマからは遠ざかる方向性でお願いしまっス!!」
「ハァ」
とことん弱腰な新人にまたもやため息が溢れる浅井であった。
◇
そんな凸凹コンビやマグマに追われて必死の形相で全力疾走する未来予測コンビを遥か遠く離れた崖の上から眺める者たちがいた。
「おうおう、厳さん相手によく逃げるなぁ。そして第二班の新人くんはこれまた初々しいなぁ」
「ねぇねぇ久貝!! 厳おじさんと遊んできても良い!?」
並の動物格では目視すらできない距離を裸眼で捉える人物は第一班代表、
共にいる
「ダァメ。幾らお前でも厳さんには勝てねぇ。それにこれは敵を倒して勝つんじゃなくてお宝を探して納めることが勝利条件だからな。極論オッサンみてぇな強い奴は放置でもいいんだよ」
「むぅ! よく分かんない!!」
「ああ、悪い。つまりだ、厳さんは無視。俺たちはお宝探そうぜってこと」
「なるほど!! じゃぁ早速探検に行こう!!」
「待て待て、そりゃぁ探検には行くし、厳さんと関わるつもりもねぇけどさ……」
勢い良く飛び出そうとする北原を落ち着かせて、久貝はその手に弓を現出させる。
それこそが偉人格:アーラシュ・カマンガーの紋章者である彼の主武装。
かつて、マヌーチェフル王の戦士として、六十年に渡るペルシャ・トゥルク間の戦争を終結させる際に用いた武装。
両国の民に平穏と安寧を与えた救世の勇者として謳われることになる伝説を残した一矢を放った弓。
全力の一矢を解き放てば、彼の頑強な肉体は
けれど、
「
弓を引き絞り、放つ。
距離はおよそ二〇キロメートル。
けれどその程度の距離など彼にとってはさしたるものでもない。
相手にとっては目視すら不可能。
八神ですら放たれてからその存在に気づいた一矢は、正確に厳の眉間を捉える。
ズガァァァアアアアアンッッッッ!!!
文字通り大地を穿つ一矢は着弾時の衝撃波だけで周囲を薙ぎ払い、巨大なクレーターを作り上げる。
しかし、
「やっぱ遠いなぁ」
厳の身体には傷一つついてはいない。
彼自身を構成する超高温のマグマによって着弾と同時に溶解されてしまったのだ。
莫大な魔力量。
卓越した“超克”技術。
覚醒した紋章術。
それらが相乗的に作用することで、一流の“超克”をもってしても傷をつけられない無敵の防御性能を生み出していた。
そして、遠く離れているからといって安心もしてられない。
「鈴音、逃げるぞ!」
「あいさー!!」
元気よく返事をした北原は灰色の毛並みが美しい、全身を拘束するように鎖が巻かれた巨大な狼へと変身する。
その背に久貝が
断崖絶壁から空へ
背後の崖が内側から爆散し、溶岩が溢れ出す。
およそ二〇キロメートルも離れた地点から地下を通して攻撃してきたのだ。
地上へ噴出して尚、流動的な動きで襲いくるマグマを久貝がその矢で撃ち抜く。
莫大な衝撃波でマグマが飛散した隙に、凄まじい速度で北原は空を駆け抜けて、あっという間に遠く離れた森の中へと姿を消した。
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