第76話 水着姿でお宝探し
今日も今日とて大賑わい。
メインスタジアムは常の通り満員御礼。
昨日の迫力あるトーナメント戦の記事を書くのに忙しいだろうに、記者たちは今日も暑い日差しの中、その眼に迫力ある映像を焼き付けんとする。
前日、関係者のみに知らされた水着使用という情報がリークされたのか、報道関係者の熱の入りようも昨日とは少し様子が異なる。
緊迫したスポーツ実況というよりは、アイドルのスポーツ実況を行うようなバラエティさを感じさせるものだ。
『四日目の陸自と特務課による合同競技は水着で行われるようですよ! いやぁ、楽しみですねぇ!
『そうですねぇ。皆さん強いだけでなく見目麗しい方ばかりですから目の保養になります。ンンンンンンン!!! 実に壮観!!』
『コンプラ気にしてくださいねー』
報道席からもどこか気の抜けた女性アナウンサーと男性アナウンサーの声が聞こえる。
そんな昨日とは少しばかり様子が異なるメインスタジアム。
その中央に、選手一同が集結する。
『では、出場選手の紹介をさせて頂きましょう! 播磨さん! お願いします』
『第一班より、
彼らが所持する映像機材はメインスタジアム中央にある四面モニターに接続されているようで、モニターには第一班代表選手である久貝の姿が映し出される。
黒髪黒目の純日本人らしい爽やかな好青年たる久貝は涼やかな水色の海パンを履き、上半身は芸術的なまでに鍛え上げられた肉体美を晒している。
彼の肉体は全身鍛え抜かれているが、特に普段から弓を引く為、
岩肌のように隆起した広背筋が彼の弓術の力量を示しているとも言えるだろう。
『久貝選手は偉人格:アーラシュ・カマンガーの紋章者。鍛え抜かれた頑強な肉体を駆使して放たれる絶大な一矢は何者をも貫くことでしょう!』
続いて、モニター映像は久貝のパートナーである北原を映し出す。
北原は灰色のウルフカットを風に
オレンジのボーダー柄のビキニを着用する彼女の肢体は、その子供っぽい言動からは想像できない豊満なものだった。
水着の上から、肩から腰へ谷間を通す形で交差する形で鎖が巻かれている。
その為、豊満な胸は更に強調され、報道陣の反応にも熱が入る。
両腕にも鎖が巻かれて、手首に付けた金属製の腕輪に拘束具のように接続されているが、暑いためか、いつもより心なしか緩めのようにも見える。
『北原選手は動物格幻想種:フェンリルの紋章者。子供のような無邪気さを感じさせる彼女ですが、戦場においては容赦のない狩人。変幻自在な獣のような動きで敵を追い詰めるでしょう!』
『続いて、第二班からは
モニター映像は移り変わり、今度は第二班代表選手である浅井を映し出す。
白雪のような白髪をベースに赤、青、緑、紫と虹のメッシュが入ったロングヘアーをふわりと
形の良い胸を黒のビキニに包み、引き締まった腰に赤色のパレオを巻いた彼女は腕を組み、隣で挙動不審に周囲を見渡す少年を見てため息を吐いていた。
『浅井選手は動物格幻想種:キメラの紋章者。食べた動植物の力を我が者とする彼女の手札は特務課でも随一と言えるのではないでしょうか! ちなみに、彼女の派手な装いは紋章によるもののようです。彼女自身は
『ノーメイクであの美貌……? ノーメイクです詐欺じゃなくて?』
ノーメイクにも関わらず、浅井はそこらのモデルなど
そんな現実を認めたくない女性アナウンサーは考えることをやめた。
そんな報道陣はさておき、堂々とした浅井の隣で挙動不審に周囲を見渡す少年をカメラが捉える。
彼の名は
左サイドの髪を後ろに撫でつけ、右サイドを垂らしたアシンメトリーな茶髪に、少し垂れ気味な大きな瞳からは彼の自信のなさが滲み出ている。
けれど、黒のオーソドックスな海パンを履く彼の肉体は特務課の名に恥じぬほど鍛え上げられたもの。
鍛えるのが難しいとされる
『瀬戸選手は概念格:スカラーの紋章者。質量や体積、温度に密度といったありとあらゆるスカラー量を自在に操る彼の紋章術は特務課でも屈指の強さを誇ります! 新人故に他選手に比べて実戦経験は乏しいですが、今回の大会で化ける可能性が非常に高い期待の新星です!』
『そんなプレッシャーをかけないでもらえないっスかねぇ!? という叫びが聴こえるので、ほどほどにして次の紹介といきましょうか! お次は第三班の紹介です!』
『第三班からは
モニター映像は移り変わり、第三班代表選手である東城を映し出す。
黒髪をオールバックに纏めた筋骨隆々の男。
顔中に傷痕を残し、サングラスをかけた彼はその強面も相まってカタギには見えない。
無数の傷痕が刻まれた肉体。
その背には龍の刺青が彫られている。
『東城選手は偉人格:ベオウルフの紋章者! 紋章術を用いない素の筋力ですら鋼鉄を粉砕する彼が紋章術を解放した時、果たしてどれほどの破壊をもたらすのか見ものです!!』
続いて、東城の横いるルキフグスをカメラは捉えた。
ぴょこん、と飛び出した長いアホ毛が特徴の白雪が如き純白のロングヘアー。
毛先にいくほど淡く焔のように赤みを帯びる髪は流麗で美しい。
そんな幻想的な髪とは対照的に、少し釣り気味な彼女の赤眼は、死んだ魚のように半開きでハイライトが消えている。
少し眠たいのか、
水着はなんとスク水。
尻尾の関係で着れる水着が限られていた為、探すのが面倒になってスク水に尻尾穴を作ることにしたのだ。
北原ほどではないにしろ、大きなその胸は胸元に描かれた“るきふぐす”という名前をひしゃげさせている。
『ルキフグス選手はその名と同じ、偉人格幻想種:ルキフグスの紋章者です。そして、紋章が覚醒した影響で容姿に変化が起こった珍しい紋章者でもあります! 彼女の持ち味は
『きっも。 ……ええ、では続いて第四班ですが、第四班は技術開発班の為、大会には不参加のようです。なので、続いて第五班の紹介をさせていただきます!』
『……ふぅ。では、第五班ですが、こちらからは
モニター映像は移り変わり、第五班代表選手である凍雲を映し出す。
耳に髪がかからない程度の白髪を揺らし、薄い緑がかった
紺色の海パンに、海パンと同色の上着を羽織っている。
前は留められておらず、開いた隙間からは鍛え抜かれた肉体美が顔を覗かせる。
クールで細身な見た目に反して、鍛え抜かれているのは流石は特務課と言ったところだろうか。
そんな彼は、隣でモジモジとする八神を見て思わず眉間を揉んで溜息を吐いていた。
『凍雲選手は概念格:凍結の紋章者! 彼の恐ろしいところはその研ぎ澄まされた思考回路! 常に冷静で崩れることのない思考によって紡がれる演算は未来すらも予測します!』
続いて、カメラは彼の横にいる八神を映し出す。
八神は水着姿を晒すのが恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にして縮こまっていた。
真紅のホルターネックビキニに身を包んだ姿は実に
それでいて可愛らしい。
今回は髪型をポニーテールにアレンジしているため、チラリと覗くうなじもまた色気を誘う。
肌艶のある玉肌が持つ十代らしい可憐さ。
ホルターネックビキニによって胸元が強調され、その豊満な胸が秘める魅力を最大限に引き出された妖艶さ。
大人と若者の良い部分を両取りした魅力を持つ彼女は、その恥じらう姿も相まって容姿端麗な者ばかりな出場選手の中でも一際目立っていた。
水着姿を見られるのが恥ずかしいのに、その恥ずかしがる姿によって視線を集めるとは……、天然の魔性とも言えるだろう。
『八神選手は偉人格幻想種:ルシフェルの紋章者! 全能に近い力を振るうことができるようで、魔力量も常人を遥かに越え、特務課入職早々大きな事件に関わるという戦闘経験も積んでいるこれまた期待の新星!! 何より超かわいい!! SNSで見た写真が霞むくらい実物はドチャクソかわいいですぞ!! ンンンンンアアアアアアア↑↑↑』
『るっせぇぞカス!! コンプラ考えろつってんだろうが!! ああ!?』
画面が乱れました。
少々お待ちください。
テロップが流れてモニター映像はお花畑に切り替わる。
その数秒後、画面は復帰して再び選手たちの様子を映し出す。
『ええ、誠に申し訳ありません。気にせず最後に陸上自衛隊の紹介に移りましょう』
爽やかな表情でお詫びを入れる女性アナウンサーの横で、
『陸上自衛隊からは
モニター映像は陸上自衛隊代表選手である高槻厳を映し出す。
まず目に入るのは
額をかち割られたかのような傷痕がこめかみに刻まれ、彫りの深い顔立ちもあって東城と同様にカタギにはとても見えない。
黒髪を綺麗な角刈りに揃えた彼こそは高槻暁を養子とすることで、絶望の底から掬い上げた人物。
その凶悪な面構えからは想像できないほどの親バカっぷりを持つ三児の父。
赤色の海パンを履く彼の二メートル近くある巨躯には無駄な筋肉など一切ない。
ひたすらに実用性を追求した鋼の肉体がそこにあった。
『高槻厳選手は自然格:溶岩の紋章者! 一等陸佐の地位に甘んじていますが、その実力は陸上自衛隊でもトップクラス!! 特務課の班長クラスの実力を秘めた彼の活躍に期待です!!』
続いて、カメラは彼の横にいる
ところどころ赤髪が混じる黒髪をボブカットにした、目つきが鋭く、眉間に皺が刻まれた年若い女性——
しかし、もうじき競技が始まる為、養父である厳に止められていた。
無表情でありながらしょぼん、と肩を落として手を振るに留める彼女の感情は、気落ちしているのが丸分かりだ。
そんな彼女の装いは黒色のビキニにラッシュガードを羽織ったもの。
着痩せするタイプなのか、服の上からでは分からなかったが、意外と胸が大きい。
ラッシュガードの隙間から覗く腹筋はうっすらと割れており、健康的な美しさを見え隠れさせている。
そのチラリズムにやられたのか、男性アナウンサーの声にもまた熱が入りかけるが、女性アナウンサーが一睨みすることで、違う汗をかきながら紹介に移る。
『高槻暁選手は偉人格幻想種:酒呑童子の紋章者です! 高槻厳選手とは養父の関係ではありますがその絆は偽りなき本物! 今競技でもそのコンビネーションを活かした立ち回りに注目です! また、彼女個人の戦闘能力も目を見張るものです! その凄まじい
選手紹介に合わせて個々人を捉えていたカメラはフィールド全体を
『おっと! 遂に競技が始まるようです! 皆さま、ご注目ください!』
男性アナウンサー——
『では、七夜覇闘祭四日目の競技内容を発表させていただきます!』
播磨の声に従い、モニター映像が切り替わったことを確認した司会進行者は、両手を広げて大仰に宣言する。
モニター映像は移り変わり、南国のリゾートアイランドを想わせる、砂浜が綺麗な無人島が映し出される。
『四日目の競技内容は“宝探し”!! 各自ランダムに無人島のどこかへ転移してスタートします! そして、みごと島のどこかに隠されたお宝を見つけ出して所定の場所に納めたチームの勝利となります!!』
無人島を映し出していたモニターの映像が切り替わる。
今度はお宝と思わしき物品が映し出される。
『お宝はモニターに表示されているゴブレットです。無人島に三つだけ配置されています。尚、所定の場所に関しても、同じく島の何処かに隠されている宝箱に入っている“宝の地図”に場所が記載されていますのでお探しください!!』
次にモニターの映像が切り替わり、禁則事項が表示される。
「尚、水着姿を隠す行為は禁止させていただきます! 如何なる理由があろうと、水着を着替えたり、上から服を着たりした者は即失格とします!!」
不純なものを感じるかもしれないが、これは至極当然にして真っ当なルールだ。
あくまで七夜覇闘祭はエンターテイメント。
水着姿はそれを盛り上げる為のエッセンスなのだから、その良さを潰してしまうような行為は当然NGという訳だ。
司会進行者は説明は以上だと言わんばかりに、くるり、と回ってお辞儀をする。
そして、
『それでは皆さま、楽しい楽しいお宝探しを頑張ってくださいませ!!』
司会進行者の指鳴らしと共に仮想空間が展開され、出場選手は仮想空間内の無人島各地へ転送される。
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