第33話 女子ではなく男子にモテたい
特務課第五班オフィス会議室。
そこには第五班班長であるソロモンを始めとした第五班メンバー全員が勢揃いしていた。
デリットアジトにて、衛星軌道兵器アルテミスによって消滅し、
八神だけは静がデリットアジトで入手した八神の身体データを元に検査を行う必要があったため、クリスの医務室にいる。
長野県中野市に現れた黒い
そして、議題は一月後に迫る特務課職員による武闘大会へと移る。
「ということで、六月二一日の月曜日から一週間、毎年恒例の武闘大会が開催されるからみんな頑張ろうね」
特務課本拠地がバトルドームと称される
今やかつてのオリンピックにすら並ぶ程の開催規模を誇る本大会。
初日は陸上自衛隊や特務課を目指す学生達が様々な競技を行う。
玉入れ、障害物競走、棒倒し、騎馬戦。
年によってその内容はランダムで変わるものの運動会種目が主な種目となる。
二日目は最優秀学生十二名のトーナメント戦というのは毎年の伝統となっている。
大会までに彼らを育てて、どこの組織が育てた者が優勝するか競うのも大人達の間では伝統だ。
三日目は特務課から技術開発組織である第四班を除いた各班から二名。
規模の大きい陸上自衛隊からは組織全体から選りすぐりの四名。
合計十二名によるランダム選出の競技が行われる。
実際に何をするのかは当日の抽選次第だ。
国防の観点から特務課班長、陸上自衛隊将官は情報流出を抑えるため出場できないが、それでも本職の派手な戦いは全国民を釘付けにする。
四日目はインターバル。
選手の休息と
この日はバトルドームの広い敷地内で繰り広げられる祭りの中継が行われる。
そして、五日目からが本番だ。
特務課からの選出メンバー八名と陸上自衛隊からの選出メンバー四名。
合計十二名からなるタッグトーナメントが二日間かけて行われる。
この二日間こそが七夜覇闘祭最高の盛り上がりを見せる日であり、その経済効果は紋章が現れるまでは人気を博していたオリンピックに並ぶ程だ。
そして、最終日の七日目。
この日は全選手を労う盛大なパーティーが開かれる。
言うなれば後夜祭だ。
この盛大なパーティーも全国中継され、最後の幕を締める盛大な花火は日本一と称される程のものだ。
「それで、タッグトーナメント出たい人ー」
気の抜けた声でそう呼びかけるのはソロモンだ。
浅黒い肌でアッシュグレーのゆるふわロングヘアーをゴムバンドで肩口に纏めた彼はゆるっと挙手を促す。
「はーい! 紫姫と出たいでーす」
真っ先に挙手したのは静。
戦いが好きな彼女はこの大会の常連だ。
そして、去年はルミと共に出場して本戦準優勝している実力者でもある。
そんな彼女の思惑は、
(紫姫のかわいさに便乗して私も人気者になってちやほやされるチャンス!)
なんともしょうもない思惑であった。
別に彼女は人気がないわけではない。
去年も一昨年も出場してる彼女はそのスレンダーで美しい肢体と整った顔立ちで人気を博している。
当然、メディアでも度々取り上げられているばかりか、その洗練された肉体美を評価されてファッション誌に掲載されたこともある。
ただ、彼女の人気は女性人気が強かった。
割合としては9:1。
確かに女性にちやほやされるのも嬉しい。
女の子たちに囲まれて写真やサインをお願いされた日には一週間は仲間に自慢して、気分は天元突破する。
だが、彼女は男性人気も欲しかった。
ただただ、モテたかったのだ。
百合趣味な女性にはモテる。
しかし、彼女自身は普通に男性が好きなので男性にちやほやされたかったのだ。
そして、あわよくばファンと親密な関係になりたかったのだ。
(そうなるには紫姫と一緒に出るのはまたとない好機! 以前のSNSの件で紫姫には既に一定数のファンがついていて、その割合は圧倒的に男性が多い!!)
彼女がやろうとしているのはVtuberやYouTuberがコラボ企画を行う理由の一つと同義。
つまり、ファンのシェアである。
彼女とセットでメディアに映れば、八神のファンが自分にも流れると考えたのである。
(だから、その
静は隣の席でピンっと清々しいまでに綺麗に挙げられた手を親の仇を見るような凄まじい眼光で睨みつける。
しかし、凍雲はその視線に気づいていながら意図的に無視して彼女を冷静に叩き潰す論を展開する。
「俺と八神のタッグで出場します。八神は戦闘経験が少ない。幾人もの手練れと戦える好機を逃すべくもないのは当然として、静と出場するよりもコンビである俺と出場して今後の連携を強化するのが得策ではないでしょうか」
グーの音も出ない完全論破であった。
我欲一〇〇パーセントであった静すら納得させる彼の弁を前に、静は静々と挙手していた手を降ろすことしかできなかった。
「そうだね。なんだかんだでタッグ戦は任務含めてもあまり経験がなかったと思うし、良い機会だね。静には悪いけど今年は冬真と紫姫に任せるよ。静もそれでいいかい?」
「は〜い。異議なしで〜す」
同僚として、なにより彼女の友人として。
彼女のことを考えるならこれが一番良いと判断した静は渋々ながらも決定に従った。
「でも! 学生指導は私も混ざりたいです!」
二日目にトーナメントを行う代表学生の指導は五、六日目に出場するタッグが行うのが慣例だ。
しかし、ルールとしてあるわけではない為、それ以上の人数が指導しても問題はないのだ。
ただ、
「そんな余裕あるの? いつも書類仕事は八神に任せてるけど、八神が指導中は自分で書類仕事しないといけないんだよ?」
“早出残業する?” と隣にちょこんと座るルミが可愛らしく小首を傾げる。
その言葉に現実という鋭い刃を突きつけられた彼女は青褪める。
「だ、だだ大丈夫だよ。大丈夫だけど、……お願いします。手伝ってルミ」
「
「承知しました」
「はい、そこ裏取引はちゃんと裏でやるように!」
「そういう問題かしらぁ?」
目の前で堂々と行われる裏取引に的外れな注意をするソロモンに疑問を呈するマシュであった。
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