第42話

 各職業をイメージした装備から、まったく関係のないものまである。

 どうせならと思って、闘士っぽい防具を選んだ。


 体のラインにピッタリのハイネックノースリーブな真っ黒シャツ。

 真っ赤な腰布に白と黒のツートンカラーなズボンはゆったりとして動きやすそうだ。

 そして何故か体の回りにぷかぷかと白い数珠が浮いている。しかも発光しているっぽい。


 同じデザインでもカラーバリエーションがとても豊富で、まったく同じアバターを選ぶ人は少なさそう。

 次は武器か。

 えーっと……防具はどれも奇抜すぎるようなものはなく、どっちかというとかっこいいが全面に出たようなデザインばかりだった。だから武器も――

 武器……もぉ?


「え、何これ!? 武器のほうだけ変なデザインがいっぱいなんだけどっ」

「ちょ。なんだよドリルって」

「槍だな」

「うわぁ、杖扱いの万年筆とかあるねぇ」

「巨大しゃもじ……これでどうしろっていうの」

「巨大おたまもあるぜアンナ」

「フライパン……調理器具一式あるやんっ」

「まともな武器よりネタ武器のほうが多いな」


 うわぁ、確かに。

 男祭と書いた団扇なんてのもある。セシルさんが好きそうなのがいっぱい……あ。


 ふと彼を見ると、わんわなと震えるイケメンエルフがいた。


「君たち! 絶対にまともな武器を選びたまえっ。間違っても私の前でネタ武器を手にするんじゃないぞっ」

「心配するな。俺はそんな恥ずかしい武器、持つ気になれん。普通に光り輝く弓を選ぶさ」

「うわぁ、かっちゃんって遊び心ないよねぇ。まぁおいらはこっちの、水晶球に鳥の翼が生えたような、ゴウジャスな杖にするけど」


 マヨラーさんも普通な武器アバターじゃないか。

 シグルド君はドリルが気に入ったのか、時々勝手にドリドリ動く派手な槍をチョイス。アンナさんは魔法少女っぽいステッキだ。ハートと羽をあしらったデザインで、周辺には光る球体がふよふよ浮かんでいる。

 ボクは……闘士だから武器っていえば直接腕に嵌める様なデザインじゃないと、殴るときの当たり判定が解りにくくなりそう。

 ナックルっぽいデザインの武器はあるけど、トゲトゲが付いてたり七色のグローブだったり、何故か腕時計だったり、そんなのしかない。

 うーん、これは困ったぞ。


 皆はもう選択し終えたようで振り回して遊んでいる。

 正直、ボク、武器いらないや。


 でも選択しないと防具ももらえないっていうオチなんですよねぇ。

 どうしよう。


「ドリル、羨ましいなぁ」

「でしょでしょ? 俺、剣ナイト志望だったけど、これならドリルナイトもいいな」

「ドリルナイトとかないわよ」

「これ発射させられたらサイコーなのに」

「ドリルパンチ!?」


 なんてきらきらした目なんだあの二人。

 はぁ、セシルさんに武器を贈ってあげれたらなぁ。

 男祭の団扇とか、喜んでくれるかな?

 なんとなくアイテム説明を見ていたら『一度だけ取引可能』と書いてあった。


「え? これ取引可能なの!?」

「おぉ、そうみたいだな。ただ装備するとロック掛かってもう取引できなくなるみたいだぜ」

「あぁ。売る事も視野に入れるなら、装備するべきじゃなかったんだ……

「珍しくかっちゃんがうっかりしてるねぇ」


 装備しなければ取引できる……。

 もう一度アイテム情報をしっかり確認してみる。装備効果がどういうものなのかを。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


  アイテム名:お祭アイテム

 装備レベル:1

     備考:お祭シーズンには欠かせないアイテム。

        男性プレイヤーが装備すると、外見は『男祭』と書かれた団扇アバターに。

        女性プレイヤーが装備すると、外見はジュリアナ扇子アバターに。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 装備する人の性別で外見が違うのか。

 他にも奇抜な武器がいっぱいあるけど、あまり人が選ばなさそうなのがいいよね。団扇とか、こじんまりしてて人気なさそうだ。

 よし、これにしよう。


 武器防具と選択をし終え、防具は自分用に、そして武器は――


「セシルさん。闘士に似合いそうな、普通なデザインの武器が見当たらなくって。装備したときの効果とかも何も無いようですし、特に欲しいアバターが無いから――これ、受け取ってください」

「え?」

「おいマロン。何愛の告白みたいな事を」

「バレンタインデーに片思いの先輩にチョコを渡す美少女。そんなシチュだな」

「五月蝿いよそこっ」


 シグルド君とかっちゃんを一喝し、改めてセシルさんに向き直る。


「ヒール、ありがとうございました。セシルさんのお陰で死なずに最後まで立っていられましたし、それに――」


 セシルさんのお陰で、初めてのネットゲームだったけど凄く楽しい経験が出来た。

 きっと一人で普通にやってたら、普通にモンスターを倒して普通にレベルを上げていって、普通にゲームをしていただけだと思う。

 コンシューマーゲームのように、淡々と進めていくだけの、それが面白くないわけじゃないんだろうけど。でも今よりは楽しいという気持ちは大きくなかったと思うんだ。


 普通じゃない。少し斜め上な行動でも楽しめる。

 それがオンラインゲームなんだって、知ることが出来た。


「だから、このネタ装備を受け取ってください!」

「よかろう! 受け取ろう!!」

「兄貴、ネタ装備と聞いた途端に即答かよ」

「こんなイケメンやのに、なんて残念な人なんやろうね」


 鼻歌混じりにボクとの取引を終え、さっそく団扇を装備したセシルさ――あれ、団扇じゃ、無い。


「やだセシルさん。似合いすぎっ」

「ちょ、兄貴。ジュリアナカマウッドの持ってた扇子じゃねえか」

「ジュリアナ扇子というやつだな。あとはスパンコールの衣装でもあれば――ん?」

「うはぁ、イケメンって罪やねぇ。確かに似合ってるよ。どうせなら女装でもすればいいんやない?」

「そうだろうそうだろう。わんコロ君、素晴らしいぞ君。オープンからは右手の鈍器をアバターにして戦おう」

「シュールすぎるぜ兄貴っ」


 嬉しそうにくねくね踊りはじめるセシルさん。


 いや、そうじゃなくって。

 え?

 ジュリアナ扇子?

 だってそれ――


「あぁなるほど。あんた、男装家だったのか」

「「え?」」


 かっちゃんの言葉を聞いて固まるセシルさん。そのセシルさんを凝視して固まるボクたち。

 どういう、こと?


「おかしいと思っていたんだ。ジュリアナカマウッドのダンス攻撃。掛かってるのは男ばかりだった。なのにあんたは踊る事無く、スキル妨害をしていたからな」

「え、でもスカート穿いてる人も踊ってたよっ」

「それは女装家だ。キャラメイクの時に女装を選択するんだ。ただし選択項目があるわけでもなく、AIに直接自分で言わなきゃならないんだけどな」

「女装が出来るってことは、女の人が男装する事もできるからね。知り合いの女の子が男装してるんやけど、まぁなんつうか、普通に女の子が男の服着てるだけやったね」

「あれに比べたらエルフのダンナは上手い事なりきってるよな」


 え? 本当に男装、なの?

 皆の視線が集まる中、セシルさんが突然走り出す。

 逃げたっ!?


「もうっ。かっちゃんの馬鹿っ」


 アンナさんがそう言って後を追いかけていく。

 逃げた先には階段があって、セシルさんは一気に上まで駆け上ってしまった。


「セ、セシルさん!?」


 もし――

 何か事情があって――

 たまに聞く、オンラインゲームストーカーなんかの被害にあってたりして、それで女である事を隠したかったのなら――

 ボクが渡したアバターのせいで男装がバレてしまった。

 ボクのせいだ。

 ボクが……


「ふは〜っはっはっはっは。全国百万人の可愛い子ちゃんの味方! 愛と正義の使者、変態エロフ様惨状! 男装? 何それ美味しいの? 私は私だっ。他の何者でもない!」


 ……。

 ダメだ。

 あれが女の人だなんて、どうやっても想像できない。

 

 壁の上で高笑いをして他のプレイヤーからドン引きされているセシルさん。楽しそうにしか見えない。

 あの人が女の人だとして、男装して居る事が楽しいのであればそれでいいんだと思う。


 あ、でも一つだけ納得できた点があった。

 ずっごいイケメンなのは、すっごい美人だってこと。

 元々中性的な修正が加わるエルフだから違和感なかったのかもしれないけど、それを狙ってエルフという種族で男装したんだろうなぁ。


 あはは。

 残念なイケメンは、残念な美人に代わったってことか。


 ……。


「どっちにしても残念な人なんじゃないですかあぁーっ!」

「ふは〜っはっはっは。アーイ、キャーン」


 あいきゃん?

 はっ! こ、これは!?


「やめっ」

「フラァアーイッ」


 両手を広げて壁から飛び降りたセシルさん。

 周囲がざわつく中、この人は空中で一回転して――


「ごふっ」

「ドヤっ」


 かっちゃんを蹴り倒して着地した。

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