第40話
ジュリアナカマウッドは定期的に踊りだす。
その度にセシルさんが木に登り、扇子を持つ枝を捜して叩き落すというのを繰り返していた。
これ、ボクたちが切り株の上に乗っていなかったらどうなっていたんだろう。
「まぁ壁の上にいる後衛職が燃やすなり射抜くなりすれば、解除できるだろう」
とセシルさんは言うが、実際、他の枝に邪魔されて中々狙いが絞れ無さそうだしなぁ。直接登って攻撃するのが一番効率は良さそう。
なんていうのかな……セシルさんの無茶苦茶な行動が功を奏しているなんて……現実って残酷だなぁ。
踊らされては怒りの反撃を開始し、特に男性プレイヤーの攻撃は熾烈をきわめていた。
「『シャドウっ』『シャドウっ』『シャドウっ』『シャドウっ』『シャド――」
どこからから聞こえたスキル名を叫ぶ声。五回目が最後まで言えなかったってことは、ピヨピヨしてるんだろうなぁ。
声が聞こえたのは下の方っぽい。
切り株から下を覗いてみるとそこには――
「うわぁ……凄い数……」
「んむ。まるで大木に群がる蟻のようだな。ふははははははは」
何故か高笑いをしだすセシルさん。ドヤ顔だし、腰に手を充ててふんぞり返ってるし。
でも……確かに『蟻』という表現は合っているかもしれない。
ジュリアナカマウッドの足元には、たくさんの人達がわらわら集まっているのだから。そのほとんどは前衛だけど、中にはヒーラーの人や後衛職もいる。
大部分の後衛職は壁の上なんだけど、きっと壁の上も満杯で溢れちゃった人達なんだろうなぁ。
これだけ大勢で殴りまくってるのに、ジュリアナカマウッドはまだ倒れないなんて……。
早く倒したいっ。いや早く倒さなきゃ。
制限時間があるんだし、それまでに倒さないとクローズドベータが終わってしまう。
ジュリアナカマウッドを倒さないまま終わるのなんて、嫌だっ。
その為にも高ダメージの出せる攻撃を――コンボ攻撃をっ。
「セシルさん、ボク、コンボしたいですっ」
「……つまりそれは、失敗してピヨったら助けてね星ミという事か?」
「はい!」
ガクっと項垂れるセシルさん。
それから手の平をくいくいっと動かし「やれば?」みたいな顔を向けてきた。
よぉし、やるぞ〜!
「成功してくださいっ」
拳を天に向って突き上げ、ボクはまず最初に祈った。
そしてジュリアナカマウッドに向って突進する。
一突き目。右手で
「『打っ』」
二突き目。左手で
「『打っ』」
三、四、そして――
「『打っ』――」
成功!?
ボクの口と体が勝手に動き出す。
両脇を絞め、まるで力を溜めるようにぐぅーっと拳を引き――
「『打奥義っ打打打打打っ、打っー!』」
声に合わせて拳が放たれ、最後はフルスイングで木の幹を捕らえた。
漢木と違って、こちらは巨大且つ殴ったモンスターそのものの上で闘っているのもあって吹き飛ばせなかった。
だけどボクの一振りで木はへし折れ、ジュリアナカマウッドに大ダメージは与えられたようだ。
その証拠に――
「うわわわわわあぁぁっ」
「ぬわあぁぁぁぁっ」
「ちょ、なんだこれえええええぇぇぇっ」
ジュリアナカマウッドがのた打ち回り、奴の上にいたボクたちはピョンピョンとその身を弾ませる事に。
そして遂に――
「ひぃぃっ。飛ばされるぅ」
「ははははははははは」
「無理ぽぉぉぉぉっ」
切り株から投げ出されたボクたちは地面に真っ逆さま。
地面に落ちた瞬間、視界が真っ赤に染まっ――て瀕死状態!?
「『癒しの御手 ヒール』アイテムっ」
「シグルドッ!? 『癒しの御手 ヒール』マロン君、待っててっ」
直ぐにボクの視界がいつのも色に変わる。だけどHPはまだまだ少ない。ギリギリ、瀕死を免れただけの状態だ。
アイテムっと言われた事で直ぐに思い出せた。ショートカットに登録しているパンの事を。
「『パン』『パン』『パン』『パン』『パン』――」
「『癒しの御手 ヒール』来るぞっ」
え? 何が来るの?
そう思っているボクの下に、巨大な影が落ちてくる。
見上げると、真上に巨大はジュリアナ扇子が……
「う、うわぁぁっ『打』『打』『打』『打』『打』『打奥義っ打打打打打っ、打っー!』」
咄嗟に使ったスキルが、まさかの扇発生。
振り下ろされた扇子を粉砕すると、最後のアッパーは枝に直撃した。
「やったぜマロン! あともう少しだっ」
「うん! あともうすこ――」
よぉし、もう一発だぁーっと気合を入れて拳を握ったのに、
「俺もやるぜっ『バッシュ』『バッシュ』『バッシュ』『バッシュ』『バッ――」
「『アロー』『アロー』『アロー』『アロー』『アロー』――『貫けっデストラクション・アロー』」
「『ファイア』『ファイア』『ファイア』『ファイア』『ファーっ」
「『打』『打』『打』『打――へっくしっ。あ、くそうっ」
「『シャドウっ』『シャドウっ』『シャドウっ』『シャドウっ』『シャ――」
「な、なんだ? なんでピヨ覚悟で連打してんだ? じ、じゃあ俺も。『バッシュ』『バッシュ』『バッシュ』『バッシュ』『バッシュ』――『み・な・ぎ・って・来たぜぇっ。ハイパー・バーッシュ!』――なんだこりゃああぁぁっ」
「誰だよおい、チート配布でもしてんのか? 公式チートなのか?」
「情弱オツ。さぁ行くか。『ファイア』『ファイア』『ファイア』『ファイア』『ファァーっ」
「だっせー、乙。真打登場『ファイア』『ファイア』『ファイア』『ファイア』『ファーっ」
「『アロー』『アロー』『アロー』『アロー』『アッ――」
「闘士の『だ』は一言だからいいよなぁ。盗賊なんて四文字だしよぉ。『シャドウっ』『シャドウっ』『シャドウっ』『シャドウっ』『シャドウっ』――『殺・陣。ムーンライト・シャドウ!』――キタコレーっ」
え……他の職業にもコンボ技、あったんだ。
周りを見る限り、八割ぐらいの人がピヨってるけど、残り二割ぐらいの人は成功させてかっこよく決めていた。
上からも火の魔法や一際大きな矢が降り注ぎ、あっという間にジュリアナカマウッドが倒れる。
《ジュ、ジュリリリィ……ウ、ウフ》
ウフって、ウフってのが断末魔だったの!?
「おえぇー、なんだよ最後のあれ」
「おい! MPがすっからかんになってるぞっ」
「まさか最後の『ウフ』ってのがMP吸収したってのか!?」
「いやぁぁ〜。ジュリアナカマウッドから、小さいカマウッドがわらわら出てきたわよっ」
「ちょ。MP無いのにぃぃ」
「いやカマウッドとかもう雑魚だろ。普通に殴ればいいんじゃね?」
「「それもそうか」」
ジュリアナカマウッド。
断末魔で全てのMPを奪い去った
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます