第39話

「『ジャンピング・ボディ・プレーッス!』」


 ボディとかいいつつ、思いっきり武器を叩き付けてるよセシルさん。

 しかも左右どっちの攻撃もクリティカルしてるじゃないかぁ――あ、あれ?

 ダメージ表示が三つ見えたような?


《ジューリカマアァァッ!》


 で、今のダブルクリティカルで、ヘイトってのをセシルさんが取ってしまったらしい。

 伸びてきた木の枝が執拗に彼を付け狙っている。


「ぼすけてぇ〜」

「兄貴……変な攻撃すっから……『タウントッ』」


 シグルド君のスキルであっさりヘイトが移動。


「ふふふ、大儀であった」

「大儀じゃなくって、ちょっとは自粛してくださいよっ」

「はぅっ。わんコロ君に説教されたぁ〜」


 あぁ、もうっ。なんて不真面目な人なんだ。

 不真面目すぎて……いつも楽しそうだなぁ〜。ふふ。


「おいシグルド君。わんコロ君がにやけているぞ」

「そ、そうっすね。おいマロン、大丈夫か?」


 ……楽しんでいるだけなのにぃ。

 うぅ、こうなったらぁー。


「『打』『打』『打』『打』『だ……」


 打連打でコンボ技を出そうと思ったのに、視界がぐるぐる回るよぉ〜。

 ふぇ〜、これ、ピヨピヨだぁ。


「だぁーっ。何をやっているのかね君はっ」


 セシルさんの声が近くで聞こえた。

 視界はぐるぐるぐにゃぐにゃと、よく見えない。見えないけど、どうやらボクは引きずられているらしい。

 やっとピヨピヨから解放されると、さっき立っていた位置から少し離れた所に座らされていた。


「ボス戦で安易にアレを使うんじゃないっ。ピヨってると命取りだぞ」


 そういうセシルさんは、ボクとカマウッドの間になって立っていた。

 守って……くれてたの?


 長身で細身の背中が、何故か頼もしく感じる。

 金とも銀とも見えるサラッサラな長髪を靡かせる姿は、まさしくファンタジーアニメの王子様のようで……。


「おらあぁーっ、早く死ねやオカマぁー! そしてアバター寄こせぇーっ」


 ただ、非常に残念な性格だ。

 普段は紳士風の喋り方してるくせに、戦闘になると荒くれものと化してるし。

 何よりその戦闘スタイルが……変人だ。


「『シャープネス・アローッ』――おいマロン。まだピヨってるのか?」

「わははははははは。『ファイアー・ランスぅ』――大丈夫ぅ、マロンちゃん?」

「大丈夫だよかっちゃん。ちゃん付けで呼ばないでくださいよ、マヨラーさんっ」


 上から聞こえる声に答えてから、ボクは再びカマウッドに攻撃を再開させた。

 コンボは……諦めよう。






《ジュ〜リカマカマ、ジュ〜リカマァァァァ》


 カマウッドのHPが結構減った頃、何故か奴が突然歌いだした。

 えっと……正直言って、音痴です。しかも声が野太いんだよ。これがイベントじゃなかったら、その場から猛ダッシュで逃げたくなるぐらいだ。

 歌と同時にキラキラ光る粉のようなものが四散しはじめた。

 これ、何の攻撃なの?


 戦闘開始から何十分ぐらい戦ってるんだろう。

 MPが無くなったら後ろに下がって座って回復したりして、なんとか枯渇しないよう気をつけてはいるけど……なんでボクは今、踊っているのだろう?


 カマウッド……いや、ジュリアナカマウッド!

 まさか本当にディスコクィーンネタなの?

 いやでもオカマだし、あれ本来は雄なんでしょ? いやいやそれ以前に木に雌雄があるの?


 ジュリアナカマウッドの頭に生えた木の枝も、くねくねと踊っているようだ。

 その動きに合わせて、ボクも右に腰をくいっ。左にくいっ。両手を上げて腰をふりふりふりふり。


「うわあぁぁっ、誰か止めてぇ〜」

「あばばばばばばばっ。ヘイトが、ヘイトが剥がされるぅ」

「うわあぁぁぁぁ、シグルド君までぇ〜っ」

「あっはっはっはっは。君たち、何をしているのかね」


 木と真正面から対峙していたシグルド君も、ボクと同じように踊っている。でもセシルさんはいたって何時も通りだ。楽しそうに鈍器と楽器でクリティカルを連発しているだけだ。


「安心しろっ。俺たちも踊っているから」

「え?」


 声が聞こえた上のほうを振り返ると、かっちゃんとマヨラーさんも踊っていた。

 もっといえば、見える範囲にいる多くの参加者が踊っていた。

 でもアンナさんは踊ってない。他にも踊ってない人いるけど……あれ?


「女の人は……踊ってない?」


 見れば、踊っているのは全て男性プレイヤーばかりだ。

 ――と思ったけど、中にはスカートを履いた人もいるなぁ。やたらごつい女の人っぽいけど。

 こっちにも踊ってない男の人いるし、共通点があったと思ったらそうでもなさそうな?


 ただ、共通点があろうがなかろうが、今のこの状況が改善される訳じゃない。

 踊っている間、ボクたちは攻撃が一切できないのだ。

 シグルド君に至っては防御も出来ないもんだから、さっきからアンナさんの必死に魔法を唱える声が聞こえてる。


「これ、なんとかならないんですかぁ〜」

「う〜む、なんとかねぇ。……あれかな?」


 そう言ってセシルさんがまた木に登り始めた。


「ちょ、セシルさんっ」


 くねくねと踊る木の枝に悪戦苦闘しながら、さっき登った所よりも大分低い位置で止まる。すると、突然彼は枝に向って攻撃をし始めた。

 まるで枝を切り落とすかのように鈍器を振り下ろしているけど、そもそもそれ、斧じゃないですからねっ。

 そうツッコミたかったんだけど――


 メキメキッ。


 という音と共に、枝が一本、折れてしまった。

 そんなばななぁっ。


「これでどうだ?」


 という声が聞こえてきたけど……あれ?


「と、止まった?」

「た、助かったぜぇ。けどなんで?」


 ワンテンポ遅れでどさっと落ちてきた木の枝には、その先端にジュリアナ扇子が握られていた。


「光る粉が舞い始めてから君たちは踊りだしたからね。その粉がどこから出て来ているのか辿ってみたら、これだったという訳だ」

「さすが兄貴!」

「んむ。感謝するならヘイトを取ってくれ」


 木から飛び降りたセシルさんに向って、枝攻撃がはじまっていた。

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