第38話
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モンスター名:情熱のジュリアナカマウッド|(イベントボス) レベル:??
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まさか……壁からちょっと見えた木が、カマウッドだったなんて。しかもなんだか強そうな、そうでなさそうな二つ名まで付いてるし。
フィールドでお世話になっていたカマウッドと違い、切り株お化けではあるんだけど、切り株お化けに更に普通サイズの木を頭|(?)に乗っけたような、そんな姿をしている。
化粧の濃さはもちろんパワーアップされているし、漢木のように木の根が足のようになってて、こちらは網タイツに真っ赤なハイヒールと、どうしてこんなデザインにしたのかと問い詰めたいぐらいだ。
更に切り株部分に生えた枝というか根というか、その何かにはふわっふわなモールのようなのが付いた扇子を持って、ひらひらと動かしている。
ずっと昔のバブル期に流行ったとかいう、ディスコで女の人が持って踊っていた――そんなVTRで見た事のあるヤツだ。
「『神のご加護を! ブレッシング』」
「『戦の神よ、我等に力を! アタックレイズ』」
アンナさんとセシルさんからバフスキルを貰い、ボクたちは直ぐに戦闘態勢になった。
見た目はアレでもイベントボスだ。気合入れて頑張るぞぉー!
「『タウントっ』」
「はーっはっはっは。さぁ行くぞっ」
シグルド君が敵のヘイトを引きつけるスキルを使う。
何故かその隙にセシルさんが……
「どうして飛び降りるんですかあぁあぁーっ!」
「キャー、セシルさんっ。『癒しの御手 ヒールっ』」
カマウッドに飛び移ったセシルさんは、奴の上に着地した。
巨大な切り株部分が、まるでステージのように安定した場所になっているようだ。そこで武器を振り回し、切り株上の普通サイズの木をガシガシ殴り始めた。
えぇ〜、それってありなの?
「シグゥ、君も飛び移れば?」
「ちょ、勘弁してくれ」
「まぁ俺たちは後衛だから、ここからでも攻撃当たるしな」
そ、そうか。前衛だとカマウッドまで数メートルの距離があるから、攻撃があたらないのか。だからセシルさんは……
「ははははははははっ。オカマは死ねぇーっ」
いや、結果的に飛び移っただけだけど、あの人はたぶん飛び降りたかっただけなんだ。
でも、確かにボクの攻撃は届いていない。だって、直接中らなければダメージに結びつかないのだから。
その点に関してはシグルド君も同じで、ヘイトスキルが範囲だったから効果はあったものの、このままだと一切の攻撃が出来なくって、別の人にヘイトが移ってしまうらしい。
「くそうっ。もうやぶれかぶれだっ! といやぁ」
「うわぁん、シグルド君まで〜……うぅ、南無さんっ」
シグルド君の後を追って、ボクもカマウッドに飛び移った。
さすがに落下の高さは一メートルもないせいか、ダメージはほんの少ししかない。
「ヒールは届くから、私はここで見守ってるわね〜『癒しの御手 ヒールぅ』」
「うぅ、アンナぁ〜」
「ほら、しっかりヘイト稼いでくれよ。『ダブルアロー』」
「かっちゃん手加減してやんなよぉ『ファイアー・ボルト』」
「マヨラーだって弱点属性の火魔法使ってるじゃん」
「でもこれ最下級魔法やしー。ちゃんと手加減してるよ。してなかったら『ファイアー・ランス』ぐらい使ってるし」
上の方から聞こえる会話は楽しそうだ。
そしてこっちはと言うと――
「うはっ。この木、枝で攻撃してくるじゃんっ」
「大丈夫だ。ヘイトは君が取っている。君しか攻撃されてない」
「あ、本当だ。シグルド君、頑張ってね」
切り株上の木は、枝を伸ばして――それこそゴムのように逃して薙ぎ払い攻撃を仕掛けてくる。
シグルド君にだけ。
ボクとセシルさんは巻き添えを食らわないよう、彼とは少し離れて攻撃をした。
そうこうしている内に、下――地面ではようやく気づいたほかのプレイヤーが集まって戦闘を開始しはじめ、少し上――壁からは後衛職の人が攻撃を開始した。
でも飛び移ってくる人は他にいない。
うん。だって地面から攻撃すれば、普通に当たるもんね。
「ふははははは。我々だけのオンステージだな!」
「そうっすね兄貴!」
うわぁぁーん。ボクは恥ずかしくて嫌だぁ〜。
「おい、なんか上のほうから声がするぞ」
「は? そりゃあ壁の上から攻撃してる後衛がいるんだ、声ぐらい聞こえるだろう」
「あぁ、そうか」
「そうそう。ふはははははははは」
「おい、やっぱ壁の上じゃない方の上から笑い声が聞こえてきたぞっ」
はい、セシルさんです。
ガスガス木を殴ったかと思ったら、何故か地面をゴスゴス叩きだしたり。
あ、そうか。地面じゃなくって、ボクたちの足場もカマウッドそのものだったんだ。
じゃあ、思いっきり踏みつけたらダメージ出るのかなぁ?
右足を高く上げて、どすんっと切り株を踏みつける。
すると、視界に与ダメージが表示された。
おぉ! これいいじゃん。
地団駄を踏む要領でどすどすやると、少ないながらもどんどんダメージを与えていく。
拳で木の幹を殴り、足で地団駄を踏む。
「あははは。これ、結構楽しいなぁ〜」
「ぬ。わんコロ君が楽しんでいる、だと……悔しいっ」
え、何故悔しがるんですか?
え? どうして木に登り始めるんですか、セシルさん!?
「ちょ、兄貴?」
どんどん登っていったセシルさんは、町を囲む壁よりも高い所まで行ってしまった。
わざつく壁の上。
イベントボスによじ登る人なんて、きっと他のゲームでもいないよね?
奇抜な行動に出た人を見るためなのか、上からの攻撃がすっかり止まってしまった。
ううん、かっちゃんだけは黙々と矢で攻撃し続けている。
凄いな……まったく動じないなんて。
羨ましい――そう思った刹那――
「はーっはっはっは。食らえっ『ジャンピング・ボディ・プレースっ』」
飛んだ。
セシルさんが飛んだ。
枝からぴょんと飛び出し、こっちに向って落下……
「落ちてきたあぁあぁぁーっ!」
「兄貴ぃーっ!?」
落下しながら鈍器と竪琴を振り上げ、そして振り下ろしたっ――
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