第34話

 落ち込むセシルさんと共にフィールドへとやってきた。


「いったい何の技能を取ったんですか?」

付歌ふかだ」

「ふか? なんですか、それ」

「歌って踊って私を見てぇ〜な技能だ」

「意味解りません。――ていっ」


 近くにいたポヨリンを蹴ってみる。

 あ、ダメージが出た。しかも一蹴りで倒してしまった。

 なんていうか、相手が相手だったからか、まるでサッカーボールでも蹴っているみたいだったなぁ。

 でもこれ、今までポヨリンを蹴ったこと無かったから、実際に技能の恩恵なのか解らないなぁ。


「ねぇセシルさん。セシルさんもポヨリンを蹴ってみてくれませんか?」

「何故かね」

「蹴り技能を取ってたのにずっと使ってなくって。技能の性能を確認したいんですけど、技能取る前にモンスターを蹴った事無くって」

「君、地味に残酷だな」

「え?」

「まぁいい。蹴ればいいのだろう、蹴ればっ!」


 そう言ってセシルさんが近くにいたポヨリンを――


「さぁ、私の靴をお舐めっ!」


 ぐいぐいと踏みつけてる。


《ム゛ぐぅー》

「さぁさぁ。さぁっ」

「セシルさん、それ蹴ってるんじゃなく、踏んでるだけですからっ」

「さぁ――ごふっ」


 あ、ポヨリンの怒りの頭突き攻撃だ。

 丸くてポヨンとしているうえ、弾力もあるもんだから踏みつけたところでつるっと逃げられてしまうみたいだな。

 しかも、ダメージは与えられないのに攻撃にカウントされちゃって、ポヨリンが戦闘態勢になってたんだなぁ。

 思いっきり下顎から頭突きを食らって、後ろに倒れこんだセシルさんに、今度はポヨリンが馬乗り? になって踏みつけている。


「おのれゼリーの分際でぇ」

《ポニョニョヒ》

「くそぉ! 今笑ったであろうっ。笑ったよなぁ」

《ぽにょーん。ヒヒ》

「許さーんっ」


 なんて底辺な戦いだろう。

 ダメージを与える事の出来ない『蹴り』を延々と繰り出し、全てが当たっているものの、全てがノーダメージ状態。

 ポヨリンの攻撃も、レベル差の問題だからか、1しか出ていない。更にセシルさんの完全回避も発動しているから、三回に一回ぐらいしか当たってない。

 底辺すぎる。


 でも、お陰で技能の恩恵は立証された。

『蹴り強化』技能がなければ、いくらクリーンヒットしていてもダメージを一切与えられない仕様。技能を取っていればダメージが発生するようになる。

 格闘技がメインになるだろう闘士には、必要不可欠な技能だよね!


「くたばりやがれ糞ゼリー!」

《ポヨポヨーンッ》

「確認できました。ありがとうございます。ってい」

《ボヨッ――》


 次は『自然治癒向上』がどのくらい増えてるか確かめたいな。その為にもダメージを受けれるぐらいのモンスターと戦わなきゃ。

 どこに行こうかなぁ。どうせなら新しい狩場に行きたいなぁ。

 後ろで何か叫んでいる声がするけど、ボクは気にせずマップを開いて進展地を探した。






「うーん。技能取る前の回復量がどんなだったか、覚えてないなぁ。セシルさんは――」

「その技能を検証するのに、私の自然回復量は参考にならんぞ」

「え、どうしてですか?」


 カマウッドの森を抜け、少し東に進むと小川があった。

 まさかこの小川、GMさんが言ってた『流れの急な川』じゃないよね? 流されてまたGMコールなんて事に――なんてことはなかった。

 蟹モンスターがいて、そいつが結構強くっていい具合にダメージを受けたので回復量の検証中なのだ。

 今度もセシルさんとの差を比べようと思ったのだけれども。


「自然回復量はVIT依存だ。VITの数値が違えば、当然回復量も異なる。君、VITそこそこあげているだろう」

「えーっと、そういえばボク、レベルが上がって一度もステータス振り分けてないです」

「は?」

「いやぁ、自分でステータス割り振れるってこと、すっかり忘れてました〜」


 コンシューマーゲームのRPGは幾つもやったことあるけど、そういうゲームって勝手にステータス上がってくれるんだもん。自分で弄ったりとかないから、すっかり忘れちゃってたなぁ。


「君……もしかしてスキルもチュートリアルの時以来……」

「あっ! そ、そういえばスキルも自分でポイント振ってレベル上げなきゃいけないんでしたね」

「じゃあ、技能ポイントもか……」

「あ、はい」


 頭を抱えだすセシルさん。


「そうだったな。君はネトゲ初心者だったんだな。うーん、まぁまだレベル10だし、そもそもクローズだからなぁ。どうせなら1レベルずつ上げて、どのくらい違いが出るか、実際に試すいい機会かもしれん」

「あ、いいですね、それ」

「なら、スキルにしろ技能にしろ、どれか一つだけレベルを上げて検証してみるのはどうかね?」

「そうですね。ポイントは9ずつしかありませんし、あれもこれもやってたら検証になりませんもんね」


 どうせ今日が終わればスキルもステータスも、全部初期化されてしまうんだ。レベル差を確認しやすいものにしよう。


 えーっと、スキルはお世話になってる『打』を上げる事にして、技能は……『筋力強化』でSTRが上がるし、攻撃力も増える。でもそれを言うなら『拳強化』だって、ナックル武器を使用した際の攻撃力が増えるってあるし。『蹴り強化』も単純にダメージ差を見るだけなら、解りやすいはず。

『打』を上げるなら、どこまでスキルダメージが増えるか……よぉし、技能は『拳強化』を9まで上げよう!


「スキルは『打」を、技能は『拳強化』を1レベルずつ上げていきますね」

「……自然治癒はえぇんかいっ」

「え」

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