第32話

「あはははははははは。ドット抜けだぁ〜。いやぁ、今時のゲームで珍しいなぁ」


 楽しそうに笑うセシルさんに、何度かヒールを貰って視界の点滅は収まった。

 この人……嬉々として落ちてきちゃったよ!

 しかも助ける気はまったく無さそうなんですけどっ。


「よぉし、行けるところまで行ってみようっ」

「え、行けるところって……」


 ぐいっと手を引っ張られて、否応無しに歩かされる。

 と――また足元が無くなったあぁっ!


「うわわわあぁあぁぁっ」

「あははははははは。また落ちてるねぇ〜」

「笑ってる場合じゃないでしょう!?」

「いやいや、これは笑うところだろう」


 どこまで落ちるのだろうか。さっきよりも落下時間が長い気がする。

 ようやく見えない地面に到着すると、ボクの視界は再び赤く点滅した。

 うっうっ。落下による瀕死なんて……。


「おぉ、わんコロ君、見たまえ!」

「うっうっ。何をですかぁ」


 セシルさんが足元を指差すので下を見てみると、そこには町があった。


「え? ボクたち、町の上空にいるの?」

「ん〜。上空ではないだろうなぁ。どっちかというと次元の割れ目的な」

「なんかヤバそうな状況なんですけどぉっ」


 足元に見える町は五角形で、真ん中に塔のようなものが見える。

 ってことはリプラの町か。

 なんだか町のミニチュア模型を見下ろしているような感じだ。


 ただここで問題が発生。

 ボクたち、一歩も動けませんっ。


「ど、どうやって上に戻るんですか? いや、下でもいいんですけど」

「んー。ドット抜けの体験は初めてだからなぁ〜」

「そもそも『ドット抜け』ってなんなんですか!?」

「んむ。ドット抜けというのはだな……なんて説明すればいいのかね……あー、まぁデータ不良か何かで書き忘れたフィールド部分があって、そこが落とし穴みたいになってしまっているのさ」


 フィールドの書き忘れ……。


「落ちた先はワームホールみたいになってて、どこかに繋がっていたり繋がっていなかったり。脱出できるのもあれば出来ないのもある――と」

「脱出出来ないって、どうするんですかあぁーっ!」

「んむ。だから――ポチっとな」

「またGMコールですかあぁーっ! GMさんだって忙しいんですよっ。こんな事で召喚したりしたら、迷惑じゃないですかぁ」

「真っ先に落ちたのは君だろう」

「はぅ」


 そ、そうだった……。

 でも穴があったようには見えなかったし、回避可能だったかも解らないし。


 暫くして、昨日も一昨日も見たGMさんの声が聞こえてきた。


「どーこでーすかー」


 聞こえてきたのは頭上からだ。


「座標をメッセージに送ったのだが、どうやら穴の上側の座標のようだな。その辺にぃ〜、ドット抜けの穴があるので〜」

「すみませ〜ん。落ちました〜」


 セシルさんとボクが叫ぶと、暫くしてGMさんの笑う声が聞こえてきた。その声はさっきよりも少し大きく、たぶん、最初の落下地点なんだろうなと思う。

 そこから暫く歩いてくださいと伝えると、やがてGMさんが降ってきた。


「あははははは。まさか昨今のVRでドット抜けが発生するとは思ってもみませんでしたよ」


 笑っている。GMさんも笑っている。

 ここって笑うところなのだろうか……。


「GM殿、足元をみたまえ」

「え? おぉぉっ! これはリプロの町だっ。へぇ、ここに繋がるのかぁ」

「あの、感心していないで、これ、どうやって脱出するんですか?」


 きゃっきゃと喜んでいるGMさんとセシルさん。やっぱりこの二人、似たもの同士なんだな。


「あぁ、大丈夫ですよ。GMコマンドでちゃんと転送できますから」

「ほっ。よかった」

「いやぁ、ドット抜けを発見するなんて、ラッキーですねぇ」

「え? ラッキーなんですか?」


 頷く二人。

 今時のゲームじゃ、こんなミスはまず発生しない案件だから、体験できること事態が希少なのだとか。

 喜んでいいのか悪いのか。

 いや、運営側としちゃあミスなんだし、喜んじゃダメでしょう。


「これ、すぐに修正できるんですか?」

「すぐにとは……まぁここも進入禁止処置ですかね」

「戻れる状況なら観光名所にもなるのになぁ〜」


 穴に落ちる観光……見に来る人いるのかな……。






 GMさんに地上へと転送して貰い、穴のあった場所は三角コーンとポールとで封鎖。


「それでは、また・・見つけたらよろしくお願いします」

「んむ。よろしくされましょう」

「いやぁ、それにしても全力で楽しまれてますねぇ。自分も仕事じゃなければ……っと、仕事に戻らなきゃ。では――」


 また――の部分を強調されてしまった。

 毎度お騒がせプレイヤーだと思われているんだろうな、きっと。


 昨日同様に敬礼をしながらすぅーっと消えるGMさん。

 ボクはペコペコ頭を下げてそれを見送った。


「いやぁ、わんコロ君のおかげで貴重な体験ができた」

「喜んで貰えて何よりです」


 もちろん嫌味で言った。

 でも、隣のセシルさんはにこにこ顔で微笑んでいる。

 本当に喜んでいるんだろうな……まぁいいか。

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