第23話
「うぉりゃああっ!」
シグルド君が雄叫びを上げて木のモンスターに突進する。
彼の攻撃がヒットすると、すぐさまモンスターの頭上にHPバーとモンスター名、レベルが表示された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
モンスター名:漢木|(レア) レベル:8
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
おとこ……ぎ?
つまり漢気ってこと!?
名前の後ろに書いてあるレアって、やっぱりレアモンスターの事なのかな。
それにしても、レベル8か。攻撃、当たるかな……。
不安はあるけど、だからって何もしないわけにはいかない。
ボクだって男だ!
やるときには、しっかりやらなきゃ!
拳を引き、漢木に向って突き出すっ。
「『打っ』」
バギっという音と共に、漢木にダメージを与えられた。
よし。ちゃんと中ったぞ。
「『バッシュ!』」
シグルド君もスキル攻撃で漢木のHPを削っていく。
けど、やっぱりレベルの高いレアモンスターなだけはある。ボクの攻撃はダメージ70未満。シグルド君は70ちょっと。
漢木のHPバーを見ると、1%ぐらいしか削れていない。
百回も攻撃しなきゃいけないの?
「『打っ』『打っ』『打っ』『打っ』『だ……』」
スキルの連続攻撃だ! と必死になっていたら、急に頭がくらくらして動きが止まってしまった。
これ、なんだろう。
はっ、もしかして!?
「わんコロ君。スキル連打は四回までにしておきたまえ。恐らく五回目がトリガーになって、ピヨったりするみたいだからな」
「ピ、ピヨ……今のこの、体勢が崩れた状態の事ですか?」
「んむ。状態は数秒で回復するだろうが、その間は無防備になる。ソロだと十分死ねるぞ」
「わ、解りました。気をつけます」
セシルさんの説明を聞いてゾっとする。
シグルド君が盾になってくれていなかったら、ボク、死んでいたかもしれない。
セシルさんの言う通り、くらくらした状態は十秒ほどで解除された。
その時目にしたのは、真っ赤になった漢木の姿だ。
シグルド君の表情は逆に青ざめ、後ろからアンナさんのヒールを唱える声が聞こえてくる。
ボクがピヨっている間に、何かあったみたいだ。
っく。足手纏いになってる場合じゃない!
MPの残りを確認して、もう一度連続攻撃を開始する。今度は四回までだ。
スキル攻撃で必死にダメージを与えるボクとシグルド君の脇で――
「ふははははははは。やはり漢前度では負けーん!」
っと、楽しそうに鈍器と新調した竪琴でボコスカ殴っているエルフが……。
しかもなに! クリティカルヒット連発して、素なのにボクらのスキル攻撃よりダメージ大きいよっ。
そんな……理不尽だっ。
《ウギギギィー!》
《カマッ、カママッ》
《カマギィー!》
今度はいったい何!?
後ろを振り返ると、影からこっそち漢木を見ていたカマウッドたちが、
もしかしてあれって、応援?
まさかチアリーダー気分に浸ってるとか、ないよね?
二匹が下になり、一匹が上に乗る。そして上に乗っていたカマウッドが、宙を舞ってくるんと一回転。
チアリーダーだ!
オカマの、しかもモンスターのチアリーダーだ!
「ちょ、漢木のHP、回復してんじゃん!」
「長期戦になったら、私のMPが持たないわっ」
アンナさんの悲鳴にも似た声が聞こえた。
まさかあのアクロバティックな技が、ヒールになっていたなんて。
「えぇい。仕方が無い。ワンころ君、私と共にオカマどもを先に仕留めるぞ」
「あ、はい!」
セシルさんと踵を返し、後ろで花をふりふりしているカマウッドに向う。
「スキルは使うなよ」
「解りましたっ」
漢木戦に備えてMPは節約って事ですね。
右手をやや下段に構え、カマウッドに一撃を見舞う。
あ、あれ?
カマウッドに対してダメージが180も出ている。しかもスキルじゃなくって、素の攻撃なのに。
もう一度――もう一度――。
平均175といった感じだ。しかも、なんだか攻撃速度も早くなっている気がする。
もしかしてボク、この戦闘で急成長したとか!?
あっという間に一匹目のカマウッドを倒し終える。セシルさんは既に二匹目、つまり最後の一匹を殴り飛ばしていた。
やっぱり両手に武器だと有利だなぁ。
セシルさんに協力してカマウッドを一発殴ると、そこで最後の一匹は絶命した。
「おや? ほむ……まぁいいか」
「どうしたんですかセシルさん」
「ん。なんでもない。さぁ行くぞっ」
「あの――」
「はい! 今のボクは絶好調です! 攻撃力も攻撃速度も、急成長なんです!」
「あー……それな」
そう言ってセシルさんは魔法を一つ唱えた。さっきと同じ『戦の神よ、我等に力を! アタックレイズ』を。
「攻撃力も攻撃速度も、これの効果な」
……ボクのテンションは、どこか明後日の方向に飛んで――いや、飛び降りたみたいだった。
カマウッドが居なくなった事で漢木のHPを回復するものは無く、じりじりと奴のHPは削れていった。
「ふはーっはっはっは。オカマ共も居なくなったぞ。寂しかろう? 寂しかろう? 泣いてもいいのだぞ?」
きっと奴はHPだけじゃなく、心も削られているに違いない。ちょっと同情しちゃう。
同情しちゃうけど、これは真剣勝負だ!
「ふはーっはっはっはっは。泣け、喚け、そして私にひれ伏すのだ!」
し、真剣勝負……なんだと思う。
だから手加減なんかしない。
それが男ってものだから!
「あともう少しだ。よぉし。『打っ』『打っ』『打っ』『打っ』――」
ピヨってもいい。最後の一撃に全てを懸けるんだっ。
「『打っ!!』」
やった! ピヨらなかった!
それどころか――
「『打奥義っ打打打打打っ』」
口が勝手に動き、ボクの知らないスキル名を発した。
もの凄い速度で拳が放たれる。
ヒットするたびダメージが少しずつ跳ね上がり、漢木の幹に亀裂が入っていく。
そして、
「『打ぁーっ!』」
まるでアッパーカットのようなポーズになったボクは、漢木を宙に放り投げていた。
宙を舞う漢木は、青い空に溶け込むようにして消えていった。
レベルが上がりました》
《ステータスポイントが2、付与されました》
《スキルポイントが1、付与されました》
《新しいスキルを修得しました》
《奥義『打奥義』を発見しました》
《パーティーメンバーのインベントリがいっぱいです。『漢気な口元』が転送されました》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます