第22話

 数匹のカマウッドが見つめる先には、一匹の木のモンスターがいた。

 木といっても幹の途中からばっさり切られてて、言うなれば背の高い切り株――みたいだ。

 実際に背は高い。ボクらの中で一番長身なセシルさんより、少し高いぐらいかな。

 ただ、なんていうか……見た目が凄く問題だ。


「な、なぁ。あの木のオバケ、根っこが足になってて、枝が腕になってるぞ」

「やだ……凄く顔が濃いわ」


 シグルド君とアンナさんの感想は、同時にボクの感想でもある。


 木――なのに、その根っこはボクたちの足と同じ形をしているし、枝であるはずのそれも腕そのものだ。肘の部分に葉っぱが一枚付いているけれど。

 それになんといっても顔!

 顔は幹の上の方に、目と眉、鼻、口が付いているだけ。

 それが問題の部分なのだ。


 まず目。

 大きく黒い眼には星マークが入っており、やたらとキラキラしている。

 眉なんか凄く立派で、まるで油性ペンで描いたようにくっきり。

 そして鼻。高い。凄く高い。

 ボクの父さんはまるっきり外国人顔で鼻が高いほうだけど、きっとあのモンスターには負けるてる。

 そして口!

 葉っぱの付いた細長い枝を咥えている。しかも時折覗く真っ白な歯が、その都度キラリと光っているしっ。


 そしてボクが注目するのは、その木のモンスターが身に着けているもの。


「あれって、道着……だよね?」

「どう見ても体育会系だな」

「濃すぎない?」

「な、なんて漢前なんだ……あれこそがイケメンというものである! 負けだ。完璧なまでに私の負けだっ」


 一人ずれてる人が居る……。

 寧ろイケメンってあなたみたいな人の事でしょ? もちろん見た目の事ですけど、それ以外は……残念ですから。


 何故かライバル心を燃やして、既に敗北宣言をしているセシルさん。

 そんなセシルさんを横目に、ボクたちはどうしたものかと話し合う。


 あのモンスター、この辺に生息している中じゃ明らかにサイズが大きい。

 今まで見たモンスターなんて、大きくてもせいぜいボクの腰あたりまでの高さしかないカマウッドぐらいだ。

 シグルド君たちが見たモンスターもそうらしい。


「レアモンスターかな?」

「レアモンスター? それって何? シグルド君」

「えーっとレアっていうのは……レアモン?」

「レアっていうのはね、その名の通り珍しいモンスターの事よ。特定エリア内に一匹とか、そのぐらいしか配置されてないの」

「え、そうなの? じゃあ、あれがそうだったら、ボクたちって凄くラッキー?」

「そうそう。ラッキーだ。しかもレアモンだとレアアイテムとか落とすんだぜ!」

「落としやすいってだけで、絶対とは言い切れないの」

「可能性は高いって事だね。倒したいなぁ。ねぇ、どうする?」


 ちらりと皆を見る。

 もちろん、シグルド君もアンナさんもやる気だ。

 セシルさんは……何か操作をしているようだ。


「君、スキルポイントで何を上げているかね?」

「え? 私ですか……えーっと、ヒールを2にして、あとはブレスが5です」

「ふむ。ならば私はアタックを5にするか。……よし」


 スキルの確認? なんでだろう。


「で、君はこれを使いたまえ。緑の高級杖だから、回復量やMPも増える」

「えぇ!? い、いいんですか?」


 今度は装備を渡しているみたいだ。

 回復量の上がる杖なんかセシルさんが持ってても、宝の持ち腐れだしね。

 アンナさんが持ってるほうが良いに決まっている。


「うひぃ。セシルの兄貴、漢前だなぁ。レアモンスター戦に合わせてスキル取るとか。再振りできないのに、いいのか?」

「構わないよ。殴りには必須のスキルだし、どうせクローズドが終われば初期化されるのだからな」

「まぁそうだけど」

「初期化?」


 よく解らない会話にきょとんとしてしまうボク。


「クローズドベータでのキャラデータは、オープンベータや正式サービスには引継ぎされないのだよ。キャラメイクデータのみ引継ぎ可能だがね」

「公式サイトに書いてたぜ。クローズドベータ参加者様へってとこに」

「あ、そこは見てないや。そっか、ステータスとか全部消えちゃうんだ」

「そそ。だから好きに上げても良いし、本番のスタイルを確認するつもりで振るのもいいんだぜ」


 なるほど。いろいろ試すのも有りなのか。


「で、行くのかね?」


 セシルさんが尋ねてくる。


「もちろんっすよ兄貴」

「ボクも」

「じゃあバフ、入れますね」

「あ、兄貴! 俺がタンクだぜっ」

「当たり前だろう! 私はか弱いヒーラーなのだぞ」


 どの口で言っているのだろうか……。まったく、もう。


「『神のご加護を! ブレッシング』」

「『戦の神よ、我等に力を! アタックレイズ』」


 ボクたち四人の体に、優しい青と、勇ましい紅の光が降り注いだ。

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