第21話
「セシルさん!」
次の獲物を探して歩きだすセシルさんに声を掛ける。
「やぁ、わんコロ君ではないか。こんばんは」
「あ、はい。こんばんは」
相変らず、紳士な口調だなぁ。
「あの、一人なんですか?」
「いや、一人ではないが。君には見えないかね? 私の背後に浮かぶ白い――」
「はいはい。背後霊ですね。見えませんよ」
おどろおどろしさを演出しようと、両手を持ち上げ幽霊ポーズをし、引き攣った笑みを浮かべているセシルさん。
そんなので怖がるのって、小学生以下ですよ。
「や、やばい……この人死霊使いなのか?」
「シグルド……そんな職業、実装されてないわよ」
小学生以下……じゃなくても怖がる人はいたみたい。
それはさておき、
「セシルさん、ボクは今、ここの二人とパーティーを組んでいるんです」
「こんばんは。アンナです」
「ちぅっす。シグルドっす」
「んむ、こんばんは。私は全国五十万人の可愛い子ちゃんの味方。愛と正義の使者変態エロフ・セシル様だ」
また人数増えてるし!
「この人の自己紹介、間に受けないでね」
と二人に話しておく。二人も間髪居れず頷いてくれた。
セシルさんにこれからカマウッドを倒して簪をゲットするという目的を話し、よかったら一緒にどうですかと誘ってみた。
「簪?」
「はい。さっきドロップしたアレです」
とここでセシルさんに近づき、
「シグルド君がアンナさんにプレゼントしたいみたいなんですよ」
「あー、なるほど。ところで、あの二人とはどこで?」
シグルド君は学校のクラスメイトで、ボクをこのゲームに誘ってくれた相手だと説明する。アンナさんはシグルド君のネットゲーム仲間だ。
「ほむほむ。了解した。ならばお言葉に甘えて寄生させて貰おう」
と後半部分は後ろの二人にも聞こえるように言った。
「ちょ、寄生って。そんな正々堂々と言われたらダメとは言えないじゃねえか」
「えぇ〜、じゃあ私も寄生させて?」
アンナさんが可愛らしく言うと、シグルド君の顔は真っ赤になってうんうん頷き始める。
解りやすいなぁシグルド君。
寄生すると宣言した当の本人は、直ぐ近くにいたカマウッドに突撃を開始。
「ちょっと、待って下さいよっ」
「ちょ、タンクは俺だって!」
一撃貰ったセシルさんが、また「いも」を連呼しはじめる。
すると後ろから、
「『癒しの御手 ヒール』」
というアンナさんの声と共に、セシルさんの体に緑色の光が降り注いだ。
回復量、なんと360!?
セシルさんのゴミのような回復量も真っ青な数字だっ。
「アンナさんのヒール、凄いよ!」
「え? えぇっと、これ普通だと思うんだけど」
「おぉ、いもの消費量が減る!」
「食べすぎでしょ!」
「ははははははははっ」
「んむ。出ないな」
「出ませんね」
「まだ二匹目だもん。そんなに簡単には出ませんよ」
さっきは一匹で出たんだけどなぁ。
まぁ運が良かっただけか。
セシルさんが持っている簪をと思ったけど、それはシグルド君が嫌がった。
どうしても自分、もしくは自分達の手でゲットしたいんだとか。
ふふふ、恋する少年だなぁ〜。
それはそうと、
「セシルさん、さっきのいもいもは何ですか? なんであんなに連呼してたんです?」
「なんでって君、ショートカットに登録したスキルやアイテムは、声に出さなきゃ使えないのだぞ」
「あ……確かに。って、じゃあ今まで見た『ミルク』や『リンゴ』それに『パン』を連呼してた人も!?」
「あぁ、それ回復アイテムだぜ。町の中に売ってるよ」
とシグルド君が教えてくれる。
だからってあの連呼は……見てて物凄く笑えるんですけど。
「あの連呼仕様って変更されないんですかねぇ。なんだか私、笑ってしまって」
「あぁ、あれねぇ。俺も笑っちゃうよ」
「んむ。フィールド中でミルクだのいもだの連呼している声が響き渡るのは、なかなかにシュールだな」
あっちでもこっちでも、戦闘中の人がいも連呼している姿を想像する。
一人二人なら笑えるけど、何十人ともなると――
「なんだか怖いです」
「怖いな」
「怖いわね」
「楽しそうだな」
「「「え?」」」
ボクとシグルド君、アンナさん三人の意見は一致した。でも一人だけ斜め上な意見だ。
やっぱりこの人、なんかズレてる気がする。
「はーっはっはっはっは。さぁ次行くぞ、次――ん?」
「どうしたんっすか?」
また突撃していこうとするセシルさんが立ち止まる。
彼の視線の先を確かめると、数匹のカマウッドの姿があった。
こちらに背を向け、木の影に隠れて奥を覗き込むような姿勢のカマウッドたち。
なんだろう。何が見えるんだろう。
でもこれじゃあまるで――
「木陰から意中の男を覗き見する女子高生みたいだな」
「いやそこはオカマっしょ」
「んむ。確かに」
セシルさんとシグルド君は、意気投合してカマウッドをネタにしていた。
でも――
ボクもそう思いました。
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