第24話

「マロン、今のすげくね? すげくねっ!?」

「う、うん。なんだったんだろう。勝手に口が喋って、勝手に体が動いたんだ」

「ほむ。隠しスキルか何かかな?」

「奥義を発見しましたっていうメッセージも出ました。でも――」


 レベルも上がったしシステムメニューを出してスキル一覧を見てみるけれど……『打奥義』なんてスキルはどこにも無い。

 念のためんにステータス画面も確認したけど、やっぱり無い。


「兄貴の言う通り、隠しコンボじゃねえのか?」

「スキル一覧にないということは、ショートカットへの登録も出来ないという事だな。任意で使えない隠しスキルか」

「いいなぁ。俺も使ってみたい」


 シグルド君が憧れにも似た視線でボクを見ている。なんだか気恥ずかしい。

 これ、ボクだけの特別スキルなのかな?


「あ、あの! セシルさんっ」


 優越感みたいなのに浸りかけたとき、後ろで支援してくれていたアンナさんが声を上げた。その声にセシルさんが振り向く。


「なんだね、可愛い子ちゃん」

「ちょ! あ、兄貴!?」

「ん? なんだね可愛い子ちゃん」

「はへ?」

「セシルさん……今シグルド君の事を――」

「んむ。可愛い子ちゃんだな」

「……アンナさんは?」

「もちろん可愛い子ちゃんだ! 可愛い子ちゃんに男女の国境は存在しないのだよ!」

「じゃあボクは?」

「わんコロ君だな」


 なんだろう。

 この差別は……。

 可愛い子ちゃんなんて言われて嬉しいはずないのに、何故か今は言われない事が悔しい。


「そ、そうじゃなくって、セシ――」


 そこまで言うと、アンナさんの言葉は中断してしまう。そのまま宙をなぞる様に、何かの操作をし始めた。

 なんだろう? 何をしているんだろう?

 シグルド君と顔を見合わせるけど、お互い首を捻るばかりだ。

 セシルさんは――後姿で何をしているのか、どんな表情なのかも解らない。

 やがて、アンナさんがこくりと頷いた。


「ごめんなさい。えっと、実は――出ましたっ!」


 そういってアンナさんは、晴れやかな顔でとあるアイテムをボク達に見せた。


 小さな赤い実が房になって沢山繋がったカンザシ。先端には緑の葉っぱが二枚付いていて、シンプルだけどとても可愛らしい物だった。


「で、出たのか!?」


 シグルド君が驚いたような、嬉しそうな顔で彼女に近づく。


「うん。女子高生カマウッドから出てたの。でも戦闘中だったから喜ぶタイミングが今になっちゃった」

「ボクとセシルさんが倒したカマウッドからだったのかぁ。よかったね〜」

「ありがとうマロン君」

「ふふふふ。でも出たのはアンナだけじゃないんだぜ?」


 シグルド君が不敵に、そして緩んだ顔で宣言する。


「じゃーん! 今インベントリ確認したら、こんなのがあったぜっ」

「え? なになに?」


 シグルド君が持っていたのは、どうみても巻物だ。

 その巻物にはすっごい達筆で『スキル書』と書かれていた。


「スキル書?」

「おうっ。漢木のスキル『憤怒』ってのが封印されてると書いてあるぜ。これを開いたら修得できるらしい」

「えぇ!? そんなのがあるのっ」


 い、いいないいなぁ。

 ボクにも何か入ってないかなぁ。


 アイテム欄を確認すると――


「ふふ……ふふふふふふ」

「お、おいマロン? どうした?」

「ふふふふふふふふ」


 これが笑わずしてどうする。


「マロン君?」

「誰か来てぇー! わんコロ君が壊れちゃったわよぉー! ボスケテーっ」

「ふふふふふふふふふふふふ」


 ボクのアイテム欄には、道着アイコンがあった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


  アイテム名:漢着・黒帯 (名品)[150/150]

 装備レベル:8

     備考:防御力+55 STR+3

        植物系モンスターからのダメージ10%減少

        闘士専用


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


  アイテム名:漢気な口元

 装備レベル:-

     備考:LUK+2

これを咥えるとかっこよく……見える気がする。

        口元アクセサリー


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 道着だ!

 しかも闘士専用装備!

 もうこれでもかってぐらい、顔が緩んでしまうっ。


「おぉ。すっげーじゃん! 皆良い物ゲットできたんだ」

「よかったわねマロン君。私の簪も『名品』になってるけど、これがアイテム等級よね?」

「だな。俺のスキル書なんて『伝説』だぜ! アイテム名の文字色はオレンジだけど、『名品』のほうは?」

「「青」」


 同時にボクとアンナさんが答える。

 あれ? そういえば一言も喋ってないあの人は……。


 ……うっ。

 なんだか哀愁の漂う背中が……。


「インベ――リ……いっぱいで……」


 何か呟いてる。

 インベ? いっぱい?

 あ、そういえば……


「インベントリいっぱいでアイテムがあぁぁぁっ!」

「やっぱりあなたですかぁぁっ!?」


 彼の足元に、いくつものアイテムが散乱していた。

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