第18話

「母さん、ご飯できてる?」

「出来てるわよ。もう、呼んでも返事しないんだもん。寝てるかと思ったわ」

「今日からVRゲームやるって言ったじゃん」


 おかずの用意を母さんがしてくれている間に、ボクは炊飯器からご飯をよそって自分の席へと運ぶ。

 ついでに父さんと母さんの分も。


「VRかぁー。いいなぁ。父さんももう少し若かったら、遊ぶんだけどなぁ」

「えぇ? 父さんが?」


 風呂上りの父さんは、バスタオルを頭に乗せてダイニングにやってきた。

 父さんがオンラインゲーム、かぁ。


「父さんも学生の頃はMMOやってたなぁ」

「え? そうなの!?」

「あぁ。お前と同じで、高校一年生の頃だな。中学の頃はおばあちゃんに受験があるだろうって、禁止されてたからな」

「そうなんだ」


 おばあちゃん。

 女手一つで父さんを育てた、肝っ玉おばあちゃんだ。

 今は老後の楽しみだとかいって、海外旅行に行って居ない。


「しかし、時代はVRかぁ。父さんの時代にもVRはあったけど、今みたいに精神ダイブ型じゃなく、ゴーグルに映る映像がリアルな3Dって奴だったからヴァーチャンルリアリティーじゃなく、ヴァーチャルリアルっぽい映像、だったなぁ」

「ボクがやってるゲームは凄いよ! 実際にゲームの世界に入ったみたいな――いや入ってるのか。それでね、それでっ」


 ボクは父さんに、今日体験した事を沢山話した。

 父さんも目をキラキラさせて、食後には「母さん。VRヘッドギアもう一個福引で中ててきて」とおねだりしていた。

 もちろん、即答でお断りされていたけど。






 お風呂を済ませて部屋に戻ると、携帯端末に着信履歴が。

 昨日、坂本君と番号交換しておいたんだけど、その坂本君からだ。

 リダイヤルっと……。


 呼び出し音が二回鳴ったところで坂本君が出る。


『お、如月。もうログインしたか? それともずっとログインしてたとか?』

「七時前にログアウトしてご飯とお風呂を済ませてたんだ。何かあったの坂本君?」

『いや、これといって特に。ただちゃんとゲーム出来てるかなぁと思って。お前VRはおろか、MMOも未経験だったろ? いろいろ操作に慣れなくて困ったりしてなかったか?』


 心配して電話してくれたのか。

 ふふ、坂本君とはそんなに仲が良かったわけじゃないけど、結構優しいんだな。


「ありがとう。でも家庭用ゲーム機のRPGはそこそこ遊んでたし、VRがどんなかってのもある程度想像はしてたから、そんなに困る事もなかったよ」

『そうか。んで、お前って職業何にしたんだ?』

「闘士だよ。坂本君は?」

『おぉ、随分男らしい職業選んだな。俺は剣士だ。前のネトゲからの知り合いと一緒にやってるから、盾の出来る前衛を選んだんだ』

「クラスの友達じゃなく、ネットゲームで知り合った人なの?」

『そそ。北海道に住んでる奴なんだぜ』

「わぁお。そんな遠くに住んでる人とも友達になれるのかぁ」

『ははは。何言ってんだよ。ネトゲユーザー間に遠いも近いも関係ないって。なんせ同じ時間、同じ場所で遊んでるんだからな』


 あぁ、そうか。

 現実の距離なんて関係ないんだった。だって、同じ世界で冒険しているのだから。


『ところで如月って、やっぱ種族はエルフか?』

「え?」


 エルフ――と聞いて真っ先に思い浮かべたのは、高笑いしながら壁の上から落下してくる……あの変態エロフの顔。


『如月って、絶対エルフが似合うじゃんか? だから――』

「ちょ、止めてよあんな変態と一緒にしないで欲しいな」

『変態? ……如月、何かあったのか? キャラフェイスあんまり弄ってないんだろ? だから変態にストーカーされたり、したんじゃないのか?』

「どういう心配だよっ! そうじゃなくって……実は――」


 坂本君にセシルさんの事を話した。

 まずは飛行船に乗っててたまたま遭遇した彼の飛び降りシーンから、それこそ変なのに絡まれているところを助けられた事。彼とパーティーを組んで冒険をした事を。

 坂本君も話しを聞きながら、途中で笑ったり呆れたりしていた。


『如月、お前って……面白い人見付けたなっ』

「あー、うん。面白いっていうか、変な人だよ」

『いいじゃんいいじゃん。なんか楽しそうだなぁ。フレ登録はしたのか?』

「え……いや、して、ない」


 そうか。そういう機能もあったんだっけ。

 まぁ、同じゲームやってるんだし、レベルも同じだから活動範囲も似たようなものでしょ。

 また、会えるさ。


『残念だなぁ。俺も知り合いになりたかったよ。で、お前の種族は?』

「あー……獣人……」

『獣人!? なんか意外だな』

「うん、これまた実はね――」


 飼い犬マロンに良く似た耳と尻尾を見つけたもんで、なんとなくマロン擬人化計画なノリでキャラメイクをした事を話す。

 電話の向こうで、坂本君が忍び笑いを漏らすのが聞こえた。


『おいおい。飼い犬の名前を紹介したつもりが、そのままキャラ名になって、見ためもそのまんまになったってのかよ』

「そ、そうだよ」

『ぷっはっはっはっは。如月って案外その――馬鹿だな』

「うぅぅ、放っといてよ!」


 ぐうぅぅ。同じ事をセシルさんにも言われたのに。


『っぷははは。悪い悪い。あ、如月、あのな』

「今度は何?」


 またどんなネタでボクを弄る気なのだろうか。


『頭装備ドロップするモンスターとか、見てないか?』

「頭装備? あー……一匹知ってる。さっき話したエルフさんと狩りしてた時に出たから。けど、女性専用だったよ」

『マジか! どんなだった?』

「どんなって……アイコンでしか見てないけど、『木の実の簪』って名前だったよ。アイコン見る限りだと、赤い実と葉っぱが付いてるんだと思う」

『そっか。赤い実か。うん、そのモンスターどこに居たか教えてくれないか? いや寧ろ、この後もログインするんだろ? 一緒にレベル上げしようぜ。ついでにそのモンスターの居る場所、案内してくれよ。な?』

「あー……」

『それともイケメンな変態と約束してるのか?』

「ううん。してない。うん、いいよ。遊ぼう。まだ慣れてないから、足を引っ張るかもしれないけど」

『オッケーオッケー。ビシバシ鍛えてやるよ。じゃあ、俺は便所に行ってからログインするけど、如月は?』

「ボクも直ぐログインするよ」

『じゃあリプロの町の北側にある門でいいか?』

「うん。ボクもその近くだから」

『おし。じゃあ門の内側の、向って右手の方に五十メートルほど行った所な。門の直ぐ傍だと人多すぎて見つけ難いから。ちなみに俺はこの顔で青い髪と目な。髪型が少しツンツンさせてる』

「解ったよ。ボクは――」

『大丈夫! 垂れ耳の犬だろ。速攻で見つける自信あるぜ』

「そ、そう。じゃあ、ゲームの中で」

『あぁ。後でな』


 通話を終了させ、ログインのための準備をする。

 もちろん、トイレだ。

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