第17話
清算が終わり、二人で稼いだお金は1564セルー。
セルーというのがゲーム内での通過単位みたい。セルーは幾ら単位が大きくなってもセルーのままっぽい。
「じゃあ782セルーずつです。簪は渡しておきますね」
「あー……うむ」
腕時計を押し、システム画面を呼び出す。この状態で視界に入っているプレイヤーには、『システム画面上』でタッチすることで取引要請を出したりフレンド登録を行ったりできるとチュートリアルで教わった。
タッチするとサブウィンドウが出てきて、上から『キャラクター情報』『取引要請』『フレンド申請』『ブラックリスト』『1:1会話』という項目が出てくる。
『取引要請』をタッチする直前、《見知らぬ人から取引要請が送られてきました》というメッセージが浮かぶ。
「あれ? セシルさんですか?」
「ん? 私が何か?」
「いや、取引要請が」
「ほむ……。おいこら、どこのどいつだ。出てこいや」
「え?」
突然ドスの利いた声で、今までのえせ紳士口調も一変。
いったい誰に向って言ったのだろうか?
その後すぐ、ボクに送られた取引要請はキャンセルされた。
「あ、キャンセルされました。えっと……要請だしますね」
「妖精か。んむ。ならばイフリートを出したまえ」
「漢字違いです」
てきぱきと取引要請を出し782セルーと簪を渡す。その間も「ならジンでもいいぞ。ダメならシルフたんだ。じゃあバハムート!」とか言っている。最後のは妖精じゃない気がするんだけどな。
「ふぅ。清算終わりました」
「んむ、ご苦労であった。NPCによっては今みたいに、特定のキーワードだけで反応するのもいるから、観察してみるといい」
「セシルさんは何でも知ってるんですね」
「いや、クローズドの参加者募集する少し前から、ネトゲ情報サイトに出てたから。君は見てなかったのかね?」
「あ、いやぁ。ボク、学校のクラスメイトに紹介キャンペーンでシリアル貰っただけなので。このゲームに参加しようと思ったのも、つい昨日なんですよ」
「おおぅ。なるほどなるほど」
話をしながらその場を離れる。ここにいたら清算に来た人の迷惑にもなるだろうから。
辺りはすっかり暗くなっていた。それでも通りには人が溢れていて、まだまだ賑やかさは失われていない。
すっかり、暗く!?
確かゲームを開始したのって十二時ぐらいだったよね。チュートリアルの会場で半過ぎだったし。
腕時計を見ると、七時前……うわっ!
「た、大変だ。あれから七時間もゲームしてる! もう現実じゃあ日付変更時間だぁ」
ご飯も食べてないしお風呂にも入っていない。
どうしよう。母さんに怒られる。
「は? 君は何を言っているのか……あぁ、時間の流れが違うという注意書きを読んでないね」
「え? 時間の流れ?」
隣のセシルさんが苦笑いで頷く。
彼の説明だと、ゲーム内と現実とでは時間の流れが違うのだと。
ゲーム内の二十四時間は、現実だと六時間でしかない。
「脳にデータを送っているからね。何時間も遊んだ気がしているだけで、実際は数十分とか、そんなものだよ。二十四時間を六で割って、現実の一時間でこちらの4時間相当だ。つまり今は現実だと十九時前、だな」
「そうなんですか。よかったぁ。晩御飯を食べ損ねなくて。あ、でも七時ならご飯の時間だ」
「んむ。私もだな。ではここらで解散としよう」
「はい」
ボクの初VR体験。
案外、上手くゲームに馴染めた気がする。
それもこれも、全部この変な人――あ、あれ? セシルさんはどこに?
さっきまで隣にいたはずなのに、いつの間にか姿が見えなくなっていた。
解散――って言ってたもんね。もう帰っちゃったのかな。
思えばボクが強引に狩りに連れ出しちゃったみたいなものだし、終わったらそれでサヨナラだよね。
はぁ……。
飛行船で初めて出会ったけど……いや、あれは出会ってはいないか。ボクが見ただけだし。
その飛行船から飛び降りた変な人。
次に出会ったのは町に入る直前。
変な人に絡まれて困ってたところを助けてくれた。高い所から飛び降りてきて。
お陰でGMさんにも合えた。かっこよかったなぁ。
次に合ったのは町の中。やっぱり高い所から飛び降りてきた。
……高い所から飛び降りてばっかりじゃないか!
はは。まさか今も高い所にいたりとか……しないよね?
だってご飯だって言ってたし。
まさかと思いつつ、どうしても見ずにはいられなかった。
上を――
見上げた空は満面の星空。
暗くなったせいもあって、壁の上はよく見えない。
でも――
「ふはーっはっはっは。初めてのVR、お疲れ様ぁ〜」
そう言ってボクに向って飛び降りる――イケメンな変態がいた。
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