第11話

 北門を潜ると予想以上に人が居た。けれどもモンスターの姿はどこにも見えない。


「さすがに壁沿いにはモンスターが居ませんね」

「まぁそこがMMOやコンシューマーゲーとの違いだろうな」

「現実的なことを考えると、町を出て即行でモンスターと遭遇なんて、おかしいですもんね」


 とはいえ、何時間も歩いてやっとモンスターと……となると、そこはゲームらしくない訳で。

 門から五分もあるくと、ポヨンと戦闘している人の姿が見えてきた。

 誰とも戦闘をしていないポヨンの姿が少ない。もっと奥に行くしかないのかなぁ。

 家庭用ゲム機のRPGしかやったことがないし、こんな混雑した狩場は初めてだ。もっとのんびりレベルを上げられる場所がいいなぁ。

 

「もう少し奥に行ってきましょうよ」

「奥?……チャレンジャーだな」

「そうですか? 人の少ない所のほうが、のんびりレベル上げも出来るじゃないですか」

「のんびりねぇ。ほむ」


 魔法を貰って移動開始。

 ポヨンと戦闘中の人を横目に、ボクたちは平原を駆け抜ける。

 更に十分ほど走ると、平原から林のような場所に。ここまで来るとさすがに人の姿はほとんど見ないな。モンスターものんびりしているものだ。


「よぉし。ここなら!」


 近くにいたポヨン目掛けて拳を振るう。

 あれ?

 チュートリアルで戦ったポヨンより、なんだか硬い気がする。

 色も……ピンク色じゃない。オレンジ色だ!?


「これ、ポヨンじゃない!?」

「あぁ。ポヨリンってなってるな」

「ポヨリン!?」


 戦闘中になったことで、モンスターの名前とレベルがHPバーと共に現れる。

 ポヨリン……レベル4。


「うわぁぁぁ。レベル4だったぁぁぁっ」

「あっはっはっは。頑張りたまえ」


 エルフさんは腕組してボクを見ているだけだ。


「たまえって、手伝ってくれないんですか!?」

「だって君。私たちはパーティーを組んでいる訳でもないのだ。私がそれを殴れば『横殴り』になってしまうだろう」

「横殴りってなんですか!? ぎゃふっ。い、痛いんですけど!」


 ポヨリンの攻撃で72も受けてしまった。HPは500あるとはいえ、ちょっと痛い。

 あぁもうっ。こうなったらボク一人で――






「し、死ぬかと思った」

「お疲れ。いやぁ、ギリギリだったなぁ」

「ほんっとギリギリですよ! 残りHP24だもん」


 次の攻撃で死ぬところだった。


「それは残念だ」

「何がどう残念なんですか!?」

「皆まで聞くな」


 死んだら面白かったのに。

 そんな顔をしている。絶対している。


 ぐぅー。それにしてもパーティーかぁ。確か未実装って書いてあったもんなぁ。


「パーティーは未実装だし、協力プレイは出来そうにないんですねぇ」

「は? パーティーは実装されているが?」

「え? でもタワーで貰った紙には」


 アイテム欄に入ったままなので紙を広げて確認してみる。


・冒険者ギルドではパーティーの募集が行える。(未実装)


「ほら。未実装って」

「それはギルド内でパーティー募集をするシステムが未実装という意味だ。パーティーそのものは実装済みだぞ。前情報にもあったのだが」

「え……それは、知りませんでした」

「そうか。チュートリアルでパーティーメンバーへの申請方法は習ったかね?」

「あ、はい。コミュニティーからパーティーを選び――」


 視覚化されたウィンドウの指示に従って、誘いたい相手の名前を、これまた視覚化されたキーボードで入力。

『確認』ボタンを押すと、相手の頭上に矢印アイコンが表示されるらしい。それを見て、誘う相手が間違っていないか確認したら『OK』ボタンを押す。

 そうすると、今度は相手側に視覚化されたウィンドウにメッセージが出てきて、OKしてもらえればパーティーの結成――と。


「ところでエルフさんの名前って……」

「私か? 私は『セシル』だ」

「セシルさんですか。えーっと……はい。メッセージ行きましたか?」

「んむ。来たな。しかしだ」


 あ、あれ? パーティー申請を拒否されちゃったぞ。


「なんとなく勢いで付いてきたが、パーティーを組むことでいいのかね?」

「え……ああぁぁぁっ!」


 そ、そうだ。ボク、有無も言わさず連れてきちゃった。

 ど、どうしよう。

 エルフさ――セシルさんにはセシルさんの事情だってあっただろうし。もしかしたらもっと壁の上を満喫したかったのかもしれない。

 なのに強引に連れてきちゃったよ。


「すみませんセシルさん。ボク、セシルさんの気持ちも考えないで連れてきてしまって」

「んむ。まぁいいのだが」

「いいんですか!?」

「んむ。まぁ一人より二人のほうが効率はいいだろうしな。ただ一応確認しておきたかっただけだ」

「そ、そうですか。でも……すみません。貴重な時間をボクのせいで」

「そういう風に思えるのならば大丈夫だ。君との時間も貴重なものになるだろう」


 そう言うセシルさんの顔は、とても穏やかで綺麗な笑顔だった。






 やっぱりこの人は残念なエルフだ。


「はーっはっはっはっは。さぁ、死ね。死ねぇえぇぇぇっ」


 今ボクの目の前では、ポヨリンを撲殺する美麗なエルフの姿があった。

 その姿はあまりにもシュールで、ポヨリンに同情すら覚える始末。


「右手の棍棒ってのは解るんです。でもね、左手のそれはなんですか!?」


 木の根っこで作られたような、まさに初期装備的な棍棒を右手で振り回すセシルさん。その左手には――


「何って、竪琴に決まっているだろう」


 そう。木製の安物っぽい竪琴を左手で持ち、棍棒とそれでもってポヨリンを撲殺しているのだ。

 楽器の使い方、間違ってないですか!?

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