第12話
右手に棍棒。
左手に竪琴。
今までみたこともないような戦闘スタイルを披露するセシルさんは、楽しそうに笑いながらポヨリンを殴り飛ばしていた。
暫くしてボクとセシルさんの体が光る。レベルアップだ。
ステータス画面を確認する為に、ちょっと戦闘は休止。
そんな時セシルさんが、
「ところで君。何故素手なのかね?」
と尋ねてきた。。
「何故って、ボク『闘士』ですから。拳が武器ですよ」
「いや……キャラ作成時に武器の選択があっただろう。武器一覧を確認したのかね?」
「いえ、してませんけど。だって『闘士』だから、拳が武器――」
「君、馬鹿だろう」
「酷い!? そりゃあキャラ名を決めるときに犬のマロンの名前をつい出しちゃってそのまま決定までされちゃったけど」
「は? なんだそれは」
マロンに似たキャラを作って、名前を聞かれたからつい飼い犬の名前を口にしてしまって、確認の際にはうっかり「はい?」と口走って本決定された出来事を説明する。
頭を抱えだすセシルさん。
「君、やっぱり馬鹿だろう」
「酷い!」
「武器一覧にしても、ちゃんとナックル系の武器があったのに!」
「ボクは『闘士』なんです! 拳がぶ――ナックル?」
ナックル――拳に装備する殴り用武器の事。
そんな事はRPGにもあるから知っている。
「あったんですか……」
「あったのだよ。二種類ほどね」
「……あぅ」
そんな……それじゃあボクの素手攻撃って……
そう思って改めてみたら、セシルさんは左右の武器? でそれぞれ二回攻撃する程度でポヨリンを倒せている。対するボクは、スキル攻撃も加えて十二回ぐらい。
「武器が……武器が欲しいです先生!」
「物欲センサーは良くないぞわんコロ君。物欲センサーを全開にすると、欲しいアイテムはドロップしなくなるからね」
「そんな事言っても――あ、VRMMOでも装備品もドロップするんですね」
RPGで装備品がモンスターから出るなんてのは定番だ。まぁ宝箱から出るものに比べると、若干劣る性能だったりするけど。
それでも欲しい! 素手より絶対いい!
「ナックル……ナックルだせぇー!」
「おいおい君。私の言った事をちゃんと聞いていたのかね? それと、ちゃんとステータスポイントやスキルポイントは振ったのかね?」
「まだでーす。今はナックルが先ですっ!」
「……まぁまだレベルも低いし、いいのだがね。じゃあ私も――鉄の竪琴出せぇーっ!」
そっち!? 棍棒じゃなくてそっちなの!?
物欲センサーだしまくりなボクたちは、この後ポヨリンを絶滅寸前にまで倒しまくるのだった。
もちろん、ゲームだから絶滅なんてしないけど。
「何故だ!?」
「やったぁ〜♪」
「何故楽器は出ないのに、ナックルは出るのだ!? 不公平だっ」
お互いにレベルが3だとポヨリンが弱く感じるようになり、もう少し先に進んでレベル5モンスターを発見した。
そのモンスターってのが、真っ赤なグローブをはめた兎だった。グローブってのはボクシングのグローブだ。
ボクたちのレベルが4になって直ぐ、この兎から『ラビナックル』という武器がドロップした。
「いやぁ、ナックル出しそうなモンスターだったもんなぁ」
「ボクシンググローブはめてるんだから、落とすのはグローブだろう!」
「装備レベル5かぁ。そこは残念だけど、レベル5まで頑張ろうっと」
「納得いかぁーん!」
納得いかない様子のセシルさんだけど、このナックルが出るまでの間に装備品はいろいろ出ていた。
剣が一つ。盾が一つ。杖が二つ。靴が二つ。上半身装備が一つ。下半身装備が二つ。手袋が三つ。
序盤も序盤。レベルが2から4に上がるだけの間にこれだけ出ているのだ。しかもほとんどが神官であるセシルさん向けの装備だ。
そう。
この残念なエルフの人は、なんと神官だった!
杖なんて魔法攻撃力や回復量アップといった効果があって、まさに神官向け。
なのにこの人、初期の棍棒と竪琴のままだし。ポヨリンから出たやつなんて、もう装備可能レベルだってのに。
まぁ防具はちゃんと着ているし、布装備だったのでボクもお裾分けして貰っている。
「ボクの鞄には装備品なんて一つも入ってないのに。それこそ不公平ですよ」
「うむ。何故私のインベントリにばかり装備ドロップが入ってきているのか。パーティーを組んでいても、ドロップは個々によってドロップ率が設定されているのかねぇ」
「どうでしょ? もしそうだったとして、装備のドロップ率が高いって、何か原因があるんですかね」
「ん〜……まさかLUK……いや、LUKが高いとドロップ率が高いなんてのは、都市伝説だしなぁ」
「セリスさんってLUK高いんです?」
「んむ。初期のステータスポイントは全部LUKに振った」
「何故!?」
だってLUKって幸運でしょ?
幸運って何に効果あるの!?
あ……幸運なんだから、ドロップ率が高いとか?
でも都市伝説だってセシルさんが言ってたし。
「LUKはな、クリティカル攻撃の発生率や完全回避の確率を上げてくれるのだよ」
「あの、あなた神官ですよね?」
「んむ。愛と正義の使者エロフ様だな」
「いや神官ですよね?」
「んむ。か弱いヒーラーだな」
誰がか弱いんだよ!
鈍器と竪琴でモンスターを撲殺するえせ神官じゃないか。
いろいろ納得できない事もあったけれど、無事にレベルを5にしてラビナックルを装備。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アイテム名:ラビナックル[50/50]
装備レベル:5
備考:攻撃力+25 打撃系スキルの追加ダメージ+5%
拳を痛めないよう、内側には兎の毛がふんだんに使われている。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
最後の一行はどうでもいい設定だなぁ。
でも、確かに内側がふわもこしている。これなら手も痛くならなさそうだ。
ただ……
「なんで片手分しかないんでしょうか」
「そりゃあ、このゲームではメインウェポンとサブウェポンの設定が出来るからなぁ。明確に両手武器となっている物でもないと、片手分しか無いのだろう」
「両手武器とかあったんですか?」
「んむ。両手剣、両手斧、両手槍、弓。あと楽器も演奏時だと両手だ」
なんだ。案外普通なのばっかりだ。
ん? あれ?
「って、楽器は両手なんじゃないですか!?」
「そりゃあ演奏するなら両手を使わなきゃ無理だろう!」
「なんでドヤ顔で言うんですか!」
「当然の事を君が聞いてくるからだろっ」
「そうじゃなくって、あなた楽器を片手で持ってるじゃないですか!」
「持つだけなら片手で十分だろう!」
「じゃあ演奏はしないんですか!」
「するわけないだろう! そもそも技能を持っていないのだからっ」
「だったらなんでサブウェポンを楽器なんかにっ」
「見て解らないかっ」
「解りませんっ」
はぁはぁ。なんで大声で喚きあわなきゃならないんだろう。
それにしても、この人意味解らないよ。
楽器は両手武器だって言ったのに、片手で持てるからって……いったい楽器の仕様ってどうなってるの?
*夜に掲示板回を投稿します。
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