第7話
戦闘以外の説明を先に全部受け終わった。オンラインゲームをやった事無くても、RPGをいくつかやっていればなんとなく想像できるものだった。
あと技能はキャラクターレベルが5上がる毎にスロットルが一枠増えるという。
ただし、スロットルの最大枠は10までという事で、最初から五つ持ってるから残り五つ取ったらそれ以上は増えないことになる。
よく考えて技能を取らなくちゃいけないな。
更に技能レベルを上げるためには、レベルアップ時に貰える『技能ポイント』というのを使わなくちゃ上げられないとのこと。
どの技能を先に上げていくか、どれかを先にレベルマックスにするか。その辺りも考えなくちゃいけないのか。
うーん、案外面倒くさそうだぞ。
さて、肝心の戦闘だ。家庭用ゲーム機みたいに、コントローラーをポチポチするのとは違う。
いったいどうやって戦いのか……。
《それではこれより、戦闘方法のご説明をいたします》
「よろしくお願いします」
どこの誰かも解らない声に向ってお辞儀をする。
すると目の前に――まさにお辞儀をして下を向いているボクの目の前に半透明のボールのようなものが現れた。
これは知っている。
スライムだ。
色はピンク色か。
《模擬戦用ポヨンです。反撃はしてきませんので、安心して攻撃を行って下さい》
ポヨンという名のモンスターなのか。たしかにポヨンとしてるね。
でもなんていうか、くりっとした目があって、猫のようなもふっとした口があって……こっち見てるんですけどぉー!
なんか可愛い……これと戦わなきゃならないのか。
うーん、でもまぁボクややってたRPGだってマスコット的な可愛いモンスターいたし、それと一緒と思えば……。
《通常攻撃であれば、武器で相手を叩く、斬る、射るなどの行為を行えば攻撃が出来ます。ただし、的を絞って行動を行わなければ命中いたしません。また命中率が高ければ、当たり判定の範囲も広くなっていきます》
「あ、DEXってそういう効果だったんだ」
《はい。DEXを上げれば当たり判定が甘くなる設定でございます。その他、弓による攻撃力補正にも影響しますし、魔法の詠唱速度にも関係します》
へぇ、一つのステータスでいろんな事に影響を与えるのかぁ。
ま、ボクは闘士だし、弓も魔法も関係ないや。当たり判定といっても、拳で殴るだけなんだし、別に今のままでいいかな。
ぽよんぽよんしているポヨンに向って、拳を叩き付ける。
うーん、殴った感触が低反発クッションみたいだ。
殴った瞬間、ポヨンの頭上――どこが頭でどこが体なのかこの際おいといて――にHPバーが現れた。更にその上には『模擬戦用ポヨン:LV1』とある。
名前やレベルも表示されるのか。
「殴ったら相手のHPが出る仕様なんですか?」
《いいえ。戦闘状態に入ると見える仕様です。ですので、アクティブモンスター、つまり自発的に攻撃してくるモンスター相手ですと、認識された時点でHPバーが表示されるようになります。逆にマロン様が敵を認識して戦闘態勢になった場合には、相手モンスターにHPバーが現れます。ノンアクティブモンスターの場合ですと、敵に攻撃を行った時点となります》
「アクティブとノンアクティブでちょっと違うんですね」
《はい。その通りです。それでは次に、スキルを使った戦闘のご説明をいたします》
待ってました!
《その為にはまず、マロン様のレベルが2になる必要がございます。ポヨンを倒してレベルを上げてください》
ガクッ。
そ、そうか。今のボクだとまだスキルが無いのか。それはさっきメニュー画面の説明で確認したから解っている。
ポヨンを素手でがんがん殴って六発目でようやく倒し終えると、ボクが一瞬光って周囲に羽根が舞った。といっても、本物の羽根じゃなく、半透明のエフェクトだ。
それと同時に視界にメッセージも浮かんだ。
《レベルが上がりました》
《ステータスポイントが2、付与されました》
《スキルポイントが1、付与されました》
《新しいスキルを修得しました》
あまり邪魔にならない程度の控え目なサイズのメッセージだ。
「一匹倒しただけでレベルが上がった……」
《チュートリアル専用ポヨンですので、獲得経験値は通常のポヨンの十倍となっております》
つまり普通のポヨンだと、十匹でレベルアップしてたってことか。チュートリアル受けてよかった。
《レベルが上がりましたので、スキルの修得が完了いたしました。これよりスキル攻撃の方法をご説明いたします》
「あ、はい。えーっと……スキルってもう取れたんですか?」
《はい。この『Dioterre Fantasy Online』では、レベルアップ時に相応レベルのスキルを自動で修得する仕組みになっております。ただし自動収得するのはレベル1のみ。スキルのレベルを上げる為には、キャラクターレベルが上がる際に付与されるスキルポイントを消費する必要がございます。尚、レベルアップ時にはステータスポイントというものも付与されます。こちらは任意でステータスを上げる事の出来るポイントとなります》
「あ、本当だ。ステータス画面にスキルポイント1、ステータスポイント2って出てる」
《様々なスキルを実際に使用していただき、ご自身の好みに合ったスキルのレベルを上げて頂く。そういうシステムにしております》
なるほど。使いもしないでスキルの説明だけで判断するのは、ボクみたいな初心者には難しいもんね。
とっても有り難いシステムです。ありがとう運営さん。
《まずスキルの使用方法ですが、二通りございます。一つ目は、システム画面のスキル欄からタップして使用する方法です。この方法は手順が多く、メニューの呼び出し中にも戦闘は続きますし、またプレイヤー自身が移動などの行為を行う事でシステム画面は閉じてしまいますのでお勧めいたしません》
うん。考えただけで面倒くさそうなのが解るよ。
じゃあもう一つの方法は?
《ショートカットキーに登録し、あとは該当スキル名を声に出す方法です。それではショートカットキーへの登録方法をご説明いたします》
「はい。お願いします」
《システムメニューにてスキル画面を呼び出してください。その画面の――》
画面の下に十二個の四角い枠があった。上の方に出ているスキル横のアイコンと同じサイズだ。
なんでもMMOの時にはキーボードのFキーや数字キーに、スキルやアイテム、装備を登録させて、キーを押すだけでそれらが反映するシステムがあると。
それと同じ原理で、このゲームでもショートカットキーを採用しているらしい。
《ショートカットキーに、スキルアイコンをクリックドラッグで移動させますと、簡単に登録可能です。もちろん登録後もいつでも変更が可能となっております》
「へぇ……あ、本当だ。アイコンを触るとパソコン操作の時みたいにドラッグできるんだ。攻撃スキルは一つしかないしこれをF1に登録っと」
《それでは再びポヨンを登場させますので、スキルでの戦闘をお試しください》
「お願いします」
お辞儀をすると、やっぱり目の前にポヨンが現れた。
目が合う。
可愛い。
でもやらなきゃ。
「えっと、スキル名を声に出すんだったよね。……あ、スキル名覚えてないや」
《覚えて下さい》
「す、すみません」
間髪入れずつっこまれてしまった。
えーっと、スキル名は――
◆◇◆◇◆◇◆◇
スキル名:
気を纏わせた拳を突き出す、基本的な打撃攻撃。
◆◇◆◇◆◇◆◇
……だ?
な、なんだか微妙な名前だな。
でもまぁ、一単語で済むからいろいろと楽ではあるかも。
右手をグーにして、ポヨンに向ってそう叫ぶ
「じゃあ、行くよっ。『打っ』」
拳がほんのり赤いオーラのようなものを纏うと、自然に体が動いた。
正拳突きみたいな感じで、ポヨンを殴る。ただ、ポヨンはサッカーボール大で地面の上に居るから、随分と腰を屈めなきゃならなかった。
拳がヒットすると、ポヨンは「ノォーン」という、なんとも力の抜ける声を発して後ろに転がっていく。
起き上がると、今度はポヨンがボクに向って突進してきた!?
「え!? 反撃、してくるの?」
《左様でございます。今度のポヨンは通常フィールドに存在するポヨンと同型でございます》
「それ早くいって、ぶっ」
痛い。
顔面にポヨンの頭突きなのか、ヒップアタックなのか、とにかく攻撃を受けてしまった。
この痛みは……水風船を投げつけられたような?
そう考えると、やっぱりそんなに痛く無いかも。
あ、ダメージを受けると、視界の下のほうにHPバーが出てくるのか。
えーっと、HPは――『487/500』か。今ので13ダメージって事だね。
うん、痛くないや。
「よぉし。連続攻撃だ!『打っ打っ打っだ』あ、倒しちゃった」
スキル攻撃四回か。通常攻撃だと七回だったし、1.5倍以上は出てるんだなぁ。
《おめでとうございます。スキルにはCT《クールタイム》というのがございますが、接近攻撃用のスキルのCTは短いものが多いので、先ほどのように連続攻撃も可能となります。ただし、スキルによっては連続使用後に体勢が崩れるものや、連続で使用することでMPが枯渇することもございますのでご注意ください》
「あ、そうだった。今のでMP20使っちゃったんだよね。一匹に20も使ってたら勿体ないか」
それに、連打後に体勢崩すとか危なすぎる。
四回では体勢崩さなかったけど……何回ぐらいなのかな。検証してたほうがいいかも。
《ショートカットキーにアイテムを登録しますと、それに該当する行動を行えるようになります。例えば回復アイテムですと、通常はインベントリから取り出して飲む、食べるというようになりますが、ショートカットキーに登録することで、回復アイテム名を声に出せば飲食のモーション無しに使用が可能です》
「わぁ、それは便利だ。VRだからポーションはごくごく飲まないといけないのかと思ってた」
《試験用ポーションをお渡しいたしますので、実際にお使いください》
システムメニューにある『アイテム』の画面を呼び出すと、縦五、横八のマスに区切られたサブウィンドウが開く。その先頭に『試験用ポーション』と書かれた、試験管のほうなアイコンがあった。
これをショートカットキーのF2に登録っと。
「試験用ポーション」
声に出すと、ボクの体から緑色のキラキラが出てきた。
あ、HPが回復した。
「これ、飲むのとショートカットでは、違いがあるんですか?」
《ございません。飲むという行動がなくなるだけでございます》
「そうなんだ」
《しかし、ショートカットは合計で24スロットしかございません。冒険が進むにつれ、スキルの種類や装備も増えてまいります。ショートカットの整理整頓は心がけておくとよいでしょう》
Fキーの他に、AIT+Fなんて書いてるショートカットキーもある。
ほんと、キーボードみたいだな。
でも整理整頓かぁ……。まぁ今はスキルも一つしかないし、困るのはもっと先だろうな。
《お疲れ様でした。これにてチュートリアルの全ての講義を終了いたします。最後にマロン様へ、運営より『初心者用ライフポーション』と『初心者用マナポーション』を、それぞれ五十本ずつ贈らせて頂きます。『コミュニティー』にありますメッセージに添付しておりますのでお受け取りください》
「え? ポーションが貰えるの? うわぁ、ありがとうございます」
《こちらこそ、全ての講義にお付き合いくださり、まことにありがとうございました。尚、こちらのポーションは、レベル10を超えますと使用できませんのでご注意ください》
「あ、はい。レベル10を超えたらもう初心者じゃないってことですね」
《レベル10を超えますと、立派な冒険者の一員です。それを目指して頑張って下さい》
「ありがとうございますっ」
立派な冒険者……ボクの胸はドキドキが止まらない。
《これより、冒険者ギルドタワーへと転送いたします》
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます