第6話:チュートリアル。

 壁の高さは五メートルほど。

 その壁に囲まれた最初の町『リプラ』に到着した。

 壁に空いた穴、町への入り口である門に多くの人が殺到している。全部プレイヤーなんだろうか?

 開けっぴろげな門を潜ると、そこはアニメで見た事のあるような、ファンタジーな世界の町が広がっていた。

 よく作りこまれた3Dのアニメ調キャラと、これまたよく作りこまれた背景……アニメ調なのに、まるで本物のように感じてしまう。


「凄いな……」


 ボクは呆然とその町並みを見ていたけれど、ふいに隣から突かれて我に返る。


「ほら君、そんな所でぼぉっとしていたら他の人の迷惑になるだろう。ぼぉっとするなら少し先に進んだ、人の少ない所でやりたまえ」


 なんてエルフの人に注意されてしまった。

 さっきまで変人みたいな事を言っていたのに、今度は至極まっとうな事を言っているぞ。

 いったいなんなんだ、この人は。


 町に入って少し進んだあたりで、人の密集度が減った。そこで改めて周囲を見渡す。

 高い壁がぐるりと囲む町。

 ん? この町……予想に反して案外小さい?

 壁を視線で辿っていくと、まるで三角形のような形になっていた。頂点だけが少し平らっぽいけど、たぶん三角形だ。


「お、町の案内図があるぞ」

「え? どこどこ?」


 エルフの人の声につられて付いて行くと、それこそデパートなんかにある店内の略地図みたいなのが看板に貼られていた。

 それをみてエルフの人が「ぐるぐる壁の上を歩き回っていた」と言う言葉の意味が解った。


 この町、五角形だったんだ。

 それぞれの角から中央に向って壁が伸び、更にその中央はぐるっと丸い形で壁が囲っていた。丸い壁で囲まれた中央には塔みたいな絵が描かれている。

 この町は壁に寄って六つに区画割りされていたんだな。

 エルフの人はきっと、外周の壁から内側へ、内側から外周へと、ぐるぐる歩いていたんだろう。


「ほむ。チュートリアルはあそこかな。君、ゲームは初心者だと言っていたな?」

「え?」

「VRやMMOは未経験だと、GMに言っていたではないか」

「あ、ああ! はい、家庭用ゲーム機のRPGはやったことあるんだけど、オンラインは初めてです」

「そうか。ならばチュートリアルを受けることをお勧めするよ。操作の仕方などを教えてくれるからな」


 コンシューマーのRPGにもそういうのあるな。オンライン――そもそもVRだと自分が実際に動いて戦闘しないといけないんだろうし、どうやって技とか出すのか聞いておかなきゃな。

 エルフさんが指差したのは、町の中央にある塔だった。


「じゃあ、ボク行ってきます。GMコールして頂き、ありがとうございました」

「んむ。君もあれだ、嫌な事は嫌だって、ハッキリ言うべきだぞ。さもないと、せっかくのゲームを楽しめなくなってしまうからな……」


 そう忠告するエルフさんは、どこか悲しそうな表情だった。

 あぁ……エルフでイケメンって、こういう表情でも綺麗だって思えるんだなぁ。

 ただ――


「ではさらばだ子猫ちゃん。アディオス・アミーゴ。はーっはっはっはっは」


 なんて残念な人なんだろう。

 周囲の人達も何事かと思って注目するなか、エルフの人は壁に向って走り去っていった。

 登る気なんだろうな……。






 塔は壁よりも高く聳え立っていたので、なんとかそれを目指して町を歩いた。

 それでも入り組んだ町でなんども行き止まりな状況になり、塔に到着したのは随分歩いてからだ。


「はぁ、はぁ。やっと付いた」


 とは、ボクとほぼ同時に塔に辿り着いた人の言葉。まさにそう思うよ、うん。

 他の人達も似たような感想なんだろうな。塔に到着するやいなや、入り口に続く横に長い階段に座って一休みする人が多い。

 ボクも座って休みたい気持ちもあるけど、それ以上に早くチュートリアルを終わらせて冒険に出たいという気持ちのほうが勝った。


 中に入ると、ここにも大勢の人でごった返していた。

 あちこちに『チュートリアル受付スタッフ』と書かれた看板を、頭に突き刺した人が居る。

 GMといい、ここの人といい……頭に看板ってシュールなんだよなぁ。


 よく見てみると、看板を突き刺したスタッフに話しかける人が、次から次へと消えてる!?

 え? どういう事?

 

 一番近くにいたスタッフの下に行き、ちょっと様子を伺っていると――


『チュートリアル専用エリアへの転送を行います。参加ご希望の方はお声をお掛け下さい』


 とスタッフが口にする。

 しばらく見ていたけど、同じセリフをひたすら言ってるだけっぽい。

 じゃあ、声を掛けてみようかな。


「あのぉ、チュートリアルに参加したいんですけど」


 そう言った瞬間、ボクの視界が一瞬真っ白になって、次に草原に立たされていた。

 て、転送って、何の前触れも無く突然なのか。ビックリしたなぁ、もう。


《これよりチュートリアルを開始いたします。次の項目のうち、ご説明の必要なものをお選びください》


 突然機械的な、それこそキャラクター作成時に聞こえた声が響き。相変らず姿は見えないようだ。

 その声が聞こえて数秒もしないうちに、視界にウィンドウのようなものが現れた。

 そこには――



◆システムメニューの呼び出しについて

◇各システムメニューについて

◆戦闘について

◇技能について

◆クエストについて



 という文字が書かれていた。

 全部知りたいんだけどな。とりあえず上から順に行こう。


 文字の部分に指で触れると、そこの文字色が光り《システムメニューの呼び出しについてご説明します。よろしいですか?》という反応が返ってきた。


「お願いします」

《承知しました。左腕にはめられた時計をご覧ください》

「左腕?」


 そう言われて左腕を見ると、確かに腕時計が付けられていた。全然違和感無いんだもん、今まで全然気づかなかったよ。

 時刻は十二時半を少し過ぎたあたり。外は明るいし、なら昼の十二時半過ぎかな。


《余談ではありますが、その時計はゲーム内の時間を指しております。さて、メニュー画面の呼び出しでございますが、時計のガラス面を押して下さい》

「押して――あ、モニターが出てきた」


 出てきた。ガラス面にじゃなく、視界に。

 SF映画でよくみる、可視化されたモニターみたいなヤツだ。大きさは20インチのテレビぐらい。そんなに大きくはない。

 そのモニターの下部に『ステータス』『アイテム』『装備』『スキル』『技能』『コミュニティー』『地図』『システム』という項目があった。モニターの大部分には何も無い。


《呼び出し方は以上です》

「はやっ!?」

《続いてご説明の必要なものがあればお選びください》

「じゃあ、各システムメニューについて――を押すっと」

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