第5話
「言ってみろよ。どこに住んでんのか? 言えないのか? 根性のねえ奴だな。かっこつけて登場なんてしてくんな。人の邪魔しやがって。粘着wisしまくってやるからな」
「はっはっは。どうぞどうぞ。ブラックリストに突っ込むだけなので、構わないよ」
「ぐっ……PKが実装されたらなぁ、殺して殺して殺しまくってやるよっ!」
「どうぞどうぞ。君より強くなれば済むことだから、構わないよ」
「て、てめぇ!」
うわぁっ。とうとう隣の彼のほうがキレちゃったよ。エルフの人の首根っこを掴んで――その手に手錠が掛かった。
え? ど、どこから出てきたのあの手錠。
「な、なんだこれっ」
手錠を掛けられた腕を見て慌てふためく隣の人。きょろきょろしたところで、ボクの後ろにいた白い鎧の人に気づく。
一瞬で隣の人の顔が青くなるのが解った。
『キャラクター名ゼウスさん。こちらの方への迷惑行為、及びそちらの方への暴言、脅迫とも取れる言動の現行犯として、一時アカウント凍結の処分を行います』
「ゲ、ゲームマスター! な、なんでここに!?」
「そりゃあ、私がGMコールしたから」
しれっとエルフの人が言う。
あ、そうだ。『GM』=『ゲームマスター』。このゲームの運営をしている社員さんで、ゲーム内の監視パトロールやプレイヤーのサポートをする人の事だ。
困った事や迷惑行為をされたりしたら、ゲーム内からでも呼びだせるって公式サイトに書いてあったな。
「くっそ、てめぇ!?」
『そうやって通報された事を根に持つということは、禁止事項を行ったという自覚はあるってことだね。七十二時間のアカウント凍結に加え、両名への半径五十メートル以内の接近を禁ずる処置をとらせて頂く。願わくば、ゲームをゲームとして楽しんで貰えるといいんだけどね』
「ちょ、七十二時間って!? それクローズドベータ期間中ずっとって事じゃねえかxっ。せっかくスタダしようと思っ――」
鎧の人が指をパチンと鳴らすと、隣に居た人は叫んでいる途中でシュっと消えてしまった。
スタダって確かスタートダッシュの略で、ゲーム開始から全力でレベル上げする行為の事だったよね。
スタダしたいならなんでボクなんかに声掛けたりしてたんだろう。
「スタダする気ならナンパなぞせずに、さっさとレベリングでもすればよいものを」
『まぁ男の性のほうが勝ったのかもしれないねぇ』
「くだらぬ生き物だな」
『あはは。まぁ……仕方ないのさ』
なんでこの二人はこんなに馴染んでいるんだろう。やっぱり知り合いなのかな?
『ご通報ありがとうございました。また何かありましたら、お知らせください。では、良い旅を』
「お仕事ご苦労様です」
鎧の人が警官のように敬礼すると、それに合わせてエルフの人は頭を下げた。
「あ、ありがとうございました」
『はい。いきなり嫌な目に合ってしまったようですが、めげずにゲームを楽しんでくださいね。あ、これはクローズドベータテストだから、楽しむだけじゃなく、ゲームとしての感想や意見も頂けると運営としても有り難いのですが』
「あ、はい。ボク、VRやMMOは未経験なので、お役に立てるか解りませんが。思ったことをお伝えしますね」
『はいっ。どんなご意見でもお待ちしております』
もう一度敬礼をすると、今度はすぅーっと姿を消した。
はぁ……GMってかっこいいなぁ。
あと、悔しいかな、上から降ってきたエルフの人もイケメンだ。
金と銀の中間色のような髪で、サラッサラなセミロング。瞳はエメラルドグリーン。
もうまさに『エルフですぅー』というような容姿だ。
こんなにエルフが様になってるなんて、リアルはよっぽどのイケメンか、物凄くキャラメイクに凝ったかどっちかだろうな。
もしかして、飛び降りる前からGMコールってのをやってたのかな?
「あ、あの……」
「ん? なんだね子猫ちゃん?」
こ、子猫ちゃん……。ボク、猫じゃなくって犬なんですけど。
手を差し伸べるようなポーズで、ここに薔薇の花があったら絶対持ってるか、口に咥えてるかしてそうだ。
そんな雰囲気のエルフの人にお礼を言うと、
「はっはっは。ノープログラムだ」
「え? ノー、ノープログラ……プロブレムじゃ?」
「細かい事は気にするな。そんな事では立派な変態にはなれないぞ」
「は? 変態? え、いや、なりたくないですし」
「なんだってっ!?」
どうしてそこで驚くんですか!
この人、何かおかしい。
高笑いしながら壁から飛び降りたり――飛び降りる?
あれ、この人ってまさか――
「あぁーっ。飛行船から飛び降りたエルフ!?」
「ん? 君もあの飛行船に乗っていたのか。それは奇遇だなぁ」
「もうこっちに到着してたんだ……」
「んむ。GMに一瞬で送って貰ったのだよ。というかそれしか手段が無いからと。もっと空を満喫したかったのになぁ」
だったら飛び降りなきゃいいだろう。
あ、だからGMと一緒だったのかな?
「あの、さっきのGMさんが送ってくれたんですか?」
「んむ。そうだな。まぁ見送りだけで一緒にここまで来たわけではないが」
「え? じゃあ、GMコールをして呼んだんですか?」
「んむ。痴漢現場を発見したと。嘘です、迷惑行為を行ってるプレイヤーを発見したと、な」
訂正が早いな。
でもまぁ、お陰で助かった。もう一度改めて御礼を言うと、やっぱり「ノープログラム」と間違った単語を口にして歩き出した。
「あれ? 町に行かないんですか?」
そう尋ねると彼は足を止め、にっこり微笑んだ。
「そのつもりなんだが?」
ドヤ顔で言ってるけど、町の入り口と正反対の方角に歩いてるよ。
さっき高い所にいたんだし、見えてたんじゃないの?
「えっと、町の入り口って、あっち……ですよ」
ボクが指差す方向の先には、町の入り口が見えている。
「おぉ! まさしく入り口! いやぁ、GMが転送してくれるって言うんで、高い壁があればその上に座標をあわせてくれと拝み倒したら降りる為の階段が見つからなくってねぇ。ぐるぐる壁の上を歩き回っていたのだ」
「ぐるぐる? 町を一周しているだけじゃないんですか?」
「んむ。入れば解るだろう。それとも登るか?」
「いえ、遠慮しときます」
「残念だ。非常に残念だ。楽しいぞぉ〜高い所は」
「結構です。町に行きますよ」
「あ、待って。置いて行かないでぇ〜」
うわぁ、急に裏声になって……なんだか女の人の声みたいだ。
もしかしてこの人も、ボクと同じで異性に間違われるタイプなのかな?
チラっと見上げたエルフの人は、壁の上を見上げながら鼻歌交じりに歩いていた。
きっと、また登るつもりなんだろうな……。
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