第8話
冒険者ギルドタワー……あ、ここってそういう名前だったんだ。
元の場所に戻ってきたボクは、転送NPCの傍から離れて辺りの様子を眺めた。
まだまだ人は沢山いる。
NPCに話しかけて消える人、逆に現れる人。
現れた人はきょろきょろしたあと、直ぐにタワーを出て行く人や、ボクみたいにぼぉっとあたりを観察する人、それから他のNPCの所に行く人とがいる。どちらかというと、他のNPCの所に行く人が多いのかな。ボクも行ってみよう。
奥には階段があり、その前に転送NPCでは無さそうな人が立っていた。
他のプレイヤーが何か尋ねていたけど、その返答が
『二階にて冒険者登録受付を行っております。またクエストの紹介も行っておりますので、よろしかったら足をお運びください』
というものだった。
でもこれ返答というより、パターン化されたセリフを定期的に言ってるだけっぽい。
VRってもっと、NPCの言動も自然体だって話を聞いてたけど……。普通のコンシューマーゲームと同じじゃないかな?
顔の表情こそは滑らかに動いてるけど、言ってるセリフは固定されたものばかりだし。
これならさっきのチュートリアルで聞こえてた声のほうが、受け答えをちゃんとしてくれててVRっぽさを感じる。声色はマシンボイスそのものだったけど。
ま、とりあえず二階に行って冒険者の登録を済ませてしまおう。
後にしてたら、またここまで来て階段上って二階まで行くのも面倒だし。
階段を上ると、フロア全体に人がごったがえしていた。
う、うーん。後日にしたほうがよかったかなぁ。でもここまで上ってきたし、登録してしまおう。
幾つもある行列の一つに並ぶと、メイド服を着た女の人がやってきて紙を渡してきた。
『こちらに目を通して頂けると、手続きがスムーズに進みますのでヨロシクお願いします』
「あ、はい。解りました。どうもありがとうございます」
紙を受け取りながらお礼を言うと、女の人はにっこり笑って次の人に紙を渡しに行った。
紙には冒険者ギルドで出来る事が記載されている。
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・冒険者ギルドで登録を行うと、ギルド発行のクエストが受注可能。
・冒険者ギルドではパーティーの募集が行える。(未実装)
・冒険者ギルドでは『クラン』の結成が行える。(未実装)
【冒険者ギルドタワーの階層案内】
一階:冒険者登録とチュートリアル(現在はチュートリアルのみ)
二階:クエストの受注とパーティーの募集|(現在は冒険者登録のみ)
三階:生産職ギルド(鍛冶/木工/裁縫/皮細工)(未実装)
四階:生産職ギルド(細工/製薬/料理/)(未実装)
五階:クラン関係の各種設定。及びクランルームへの入り口(未実装)
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「ねぇ君。前進んでるよ」
「あっ。す、すみません」
いけないいけない。
紙ばかり見てたら前が進んでたのにも気づかなかった。
ちょっと進んで再び紙に視線を落とす。
未実装なのがいっぱいだけど、逆に言えば今後実装予定のものがなんなのか、知ることができるって事だよね。
へぇ、生産職にはこういうのがあるのかぁ。未実装っていうから、今はまだ生産職には就けないんだろうな。
気になるのはクランかな。
プレイヤー同士が集まって作るコミュニティーだって書いてあったけど、オンラインゲームによってはギルドといったりクランといったりするらしい。このゲームではクランか。
クランルームってのはすっごく気になるなぁ。クラン専用の部屋を借りれたりするのかなぁ。
でもわざわざ塔の五階まで登らなきゃならないなんて……。
『では次の方どうぞ』
エレベータでもあればいいのになぁ。
『次の方』
どこかにあるかも? 後で探してみよう。
『次の――そこの垂れ耳の方っ』
垂れ耳――うちのマロンみたいな人がいるのかぁ。
マロン――あっ!?
「は、はいっ! 垂れ耳のマロンですっ」
ボクの事だった!
慌てて受付カウンターに座ると、周囲からくすくすと笑う声が聞こえてきた。
「垂れ耳のマロンだって。そんなキャラ名なのか」
「マロンたん。萌えかわゆす」
「な〜にあれ。男に媚びてるの? きんも〜い」
うぅ、恥ずかしい。
『ではこちらにサインをお願いします』
「あ、はい。すみません」
如月――と書いたところで受付嬢さんがサっと手でそれを隠してしまった。
『マ・ロ・ン様』
と睨みつけてくる。
はっ。そうだった。
受付嬢さんが手を除けると、そこには如月という文字は既になく、まっさらな状態に戻っていた。
改めてマロンとカタカナで書く。
『では冒険者ギルドへのご登録は完了いたしました。クエストはあちらの壁に張り出されておりますので、受けたいものがございましたら紙を剥ぎとってください。剥ぎ取った時点でクエストの受諾が完了となります。タイムアタッククエストの場合は、剥ぎ取った時点でタイムカウントが発生いたしますのでご注意ください。準備が整ってから、紙を剥ぎ取るようにするとよいでしょう』
「あ、はい。ありがとうございます」
冒険者への登録はこれで終わってしまった。
こんな行列が出来てるのに、やったのはサインすることだけ。
まぁサインが重要なのかな。
壁に貼り出されたクエストをパっと見てみたけど、レベル2で受けられるものは無さそうだ。
同じように壁を見ていた人も「なんだよ、レベル5以上からしか無いじゃん」とか言ってたし、今はレベル上げを優先かな。
っとなれば!
町の外に出かけるぞっ。
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