【完結】『桜井玲紋』

「まさかお兄ちゃんが結婚するなんて。あたしがしようと思ってたのに」

「え、兄妹で? じょ、冗談だよね?」

「さぁ♡」


 不敵な笑みを浮かべる安瑞に、僕は冷や汗をかく。

 けれども話は変わって、僕が姫初を好きになった時の話になった。


「聞かせてよ、多分初恋だよね?」

「まあ、そうだね。妹にするのは恥ずかしいけど……いいよ」


 僕が姫初を好きになったのは、まだ桜も舞わない前期受験日だった。


 *


 僕の受験はほとんど合格に近いものだった。

 成績は優秀だし、学校もさして賢い場所を選んだ訳じゃなかったから。


 悠々受験会場に着くと、疎らにだけど人はいた。

 僕は必須な物、受験票を持っているか確かめるべく鞄をまさぐるって手に取って確かめた。


「あったあった」


 そう思って鞄に仕舞おうとすると、隣にいた数人の男子生徒が僕とぶつかった。

 彼らは謝りもなく校内に入っていき、コケた僕はゆっくり立ち上がって制服に着いた砂をで払う。……両手?


「やばい!」


 離した受験票は風に乗り田んぼの中に入って動きを止めた。

 前日雨だったことから田んぼは濡れて、入ればぐじょって埋まる可用性があった。


 僕は近くに何かないか探して、木の棒を見っけた。


「これで……」


 軽く届いて取れると思った……けど、これ以上触ると紙が破けて使い物にならない可能性が生じてしまう。


「ま、まあ後期受験でどっか受ければ……」


 と、肩を落として歩く僕の隣を颯爽と駆け抜けた一人の少女は、躊躇なく田んぼに足を突っ込んだ。


「これ」

「あ、ありがとう……」

「勘違いしないで? 私は自己犠牲が嫌いなだけだから」


 そう言う彼女は靴を脱いで水場で洗う。


「ご、ごめん。僕の不注意でこんなことになって……」

「別にいいって。――私、行くから」


 そう言って、颯爽と校内に入っていく彼女。後に名前を五月女姫初と知って、僕は常に彼女を目で追っていた。


 *


「これ、初恋」

「初恋渋いね。なんか凄い塩対応じゃん」

「気にしないよ。僕は迷わず助けてくれる、その性格を好きになったんだから」


 五月女姫初を知る者は、好きな理由を『可愛い』と挙げる。

 否定はしない。姫初は可愛いのは彼氏――直に夫となる僕の目から見てもうなずける。


 だけど、本当に彼女を見るなら、一番に挙げるべきは性格だ。

 その素晴らしい性格をもってなお、付いてきた美貌。彼女を本気で愛するのならば、表面よりも内面を見なければならないのだ。


 みんな思っていたのは『ただ可愛い』。

 だけど、僕は『ただ可愛くて、性格も良いからずっと隣にいてほしい』。

 タイトル変わっちゃったよ……なんてツッコミたくもなるけどそれが僕の嫁だ。


 本当に最高で、僕は幸せ者だと思った――


 ――――――――――――――――――――


 ご愛読ありがとうございました!

 これにて完結となりますが、どうだったのでしょうか……?

 善し悪しどちらでもコメントや評価をいただければ、それを真摯に受け止めたいと思います。


 最後に、『俺にベタ惚れな後輩があざと可愛いすぎる件について』を連載しています。

 私の作品に対して面白い、そう思ってくださった方は是非そちらも読んでいただけると嬉しいです。


 本当に、本当にアフターストーリーまで読んでくださった方、ありがとうございました!

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ただ可愛くて、ずっと隣にいてほしい 柊木ウィング @uingu

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